『天使と悪魔』は、過去にカトリック教会と激しく対立していた「イルミナティ」という秘密結社が、科学者を弾圧してきた教会、キリスト教に対して復讐をするという陰謀がメインの物語です。
これを読むまで、イルミナティのことは何も知りませんでした。いろいろ調べてみると、"Illuminati"とは、「光を与える、光から来たもの」、「啓蒙、開化」を意味するラテン語だそうです。「イルミネーション」もたぶん同じ語源なのでしょう。もともと、ドイツのバイエルン王国で18世紀の後半にアダム・ヴァイスハウプトという哲学教授が啓蒙主義的な組織を作ったのがルーツだとか。創立時においては、学者の知的サークル的な色彩が強かったとも言われています。日本では、「バヴァリア(=バイエルン)啓明結社」と呼ばれたりしていました。しかし、その反キリスト教的な思想のため、イルミナティの活動自体はたった数年でバイエルン国王によって禁止されることになりました。
ところが、消えたはずのイルミナティが実は地下でひそかに命脈を保っており、様々な陰謀に関与し続けているという噂が今も絶えないということです。ダン・ブラウンは、こうしたイルミナティ現存説に着想を得てこの物語を作ったのかもしれません。
ネットで「イルミナティ」を検索してみると、出るわ出るわ。陰謀論、得体のしれない宗教団体、「世界征服」…。わけのわからないサイトが盛りだくさん。でもそのほとんどが「イルミナティ=悪魔的陰謀組織」というとらえ方をしています。
「フリーメイソン」との関連について述べているサイトも多い。「もともとフリーメイソンのメンバーが多く参加していた」だとか、「弾圧を逃れるためにフリーメーソンに潜り込んでこれを乗っ取り、メーソンを陰謀結社に変質させた」とか、いずれにしても、「イルミナティ=悪の組織」ゆえに「フリーメイソン=陰謀結社」という結びつけ方をしています。
ではまず、「フリーメイソン」とはいったいどんな組織なのか。
吉村正和氏の『フリーメイソン』(講談社現代新書)という本が手元にあるのですが、フリーメイソンの起源と歴史、その思想、米国史におけるフリーメイソン、そして近代日本との関わりまで、大変わかりやすく解説してくれています。
フリーメイソンの起源については、「メイソン"mason"」が「石工」という意味であることから、中世ヨーロッパの石工職人たちのギルド(組合)に始まるという説、十字軍の際に結成されたテンプル騎士団が起源であるという説、17世紀の神秘主義結社である薔薇十字団が直接の起源であるという説、いや、もっとさかのぼってソロモン神殿の建設に関わった職人集団に始まるものだ…などなど、数え切れないほどの説が流布しています。このように起源が明確でないのと同じように、あるいは、明確でないゆえに、フリーメイソンという組織の輪郭もなかなかはっきりとはしていません。キリスト教精神をベースとした慈善団体、高齢者を中心とした親睦クラブ、独特の符丁を持つ秘密結社…。どのイメージもそれぞれにきっと正しいのでしょう。本当に不思議な団体です。
フリーメイソンが明確な形として現れるのは、18世紀初頭の英国と言われています。ロンドンのパブ(居酒屋)に「共通の趣味・関心をもつ男性」集まり、にぎやかに議論をしたり飲食をしたりする、つまり社交的な「クラブ」がフリーメイソンの集会でした。フリーメイソンの集会は「ロッジ」と呼ばれますが、「ロッジ」の起源はパブだったのです。フリーメイソンのメンバーは、当然貴族階級が中心でしたが、しだいに王室も加入してくるようになります。英国王室の最初の会員は、ジョージ3世でした(…昨日もこの国王、登場しましたな)。
英国で作られた「フリーメイソン憲章」では、「すべての人が同意することのできる宗教」が提唱され、理想像として「真実で善良な人間」がうたわれます。キリスト教については、その神を「宇宙の偉大な建築者」、またイエスを「教会の偉大な建築者」と呼んでいます。宗教の枠を越えて、お互いの立場を理解し合おうという「寛容」の精神。まさに18世紀のヨーロッパ思想そのものと言ってもいいでしょう。
こうした人間主義、科学主義、合理主義的な考え方は、当然フランスの啓蒙思想家に大きな影響を与えていきます。パリで最初のロッジが設立されたのは1725年。「法の精神」のモンテスキューがフリーメイソンに加入したのもその頃です。フランスでは、フリーメイソンの思想として新たに神秘主義、無神論的な要素が加えられていきます。会員の数は急激に増え、組織の巨大化ととともに、「政治的結社ではないかという疑惑」を呼ぶことになります。フランス革命はフリーメイソンが起こした革命であるという説さえ伝えられるほどです。フランス革命とフリーメイソンの関係については、まだ十分には解明されていないようです。
「18世紀のイギリスに誕生し、ヨーロッパ大陸に進出していったフリーメイソンの理想が、真の意味で現実化したのはアメリカにおいてである」(『フリーメイソン』p.120)。米国の独立、建国、そして発展を「裏側で」支えたのはフリーメイソンなのです。
独立運動に大きな功績を残したフランクリンは、米国におけるフリーメイソンの代表的な人物です。初代大統領ワシントンも、彼を支えたハミルトンも会員でした。以降、モンロー、ジャクソン、セオドア・ルーズベルト、フランクリン・ルーズベルト、トルーマン、フォードなど、歴代大統領のうち13人がフリーメイソンに名を連ねています。また、政界だけでなく、リンドバーグやヘンリー・フォードなど、各界の著名人にもフリーメイソンのメンバーがたくさんいます。彼らの活躍の陰には、「モラル」をはじめとする米国風のフリーメイソンの思想が見え隠れしているのです。
そして、米国とフリーメイソンの関係をもっともよく表すのが、米ドル紙幣に描かれたある図柄なのです…。
(つづく)
これを読むまで、イルミナティのことは何も知りませんでした。いろいろ調べてみると、"Illuminati"とは、「光を与える、光から来たもの」、「啓蒙、開化」を意味するラテン語だそうです。「イルミネーション」もたぶん同じ語源なのでしょう。もともと、ドイツのバイエルン王国で18世紀の後半にアダム・ヴァイスハウプトという哲学教授が啓蒙主義的な組織を作ったのがルーツだとか。創立時においては、学者の知的サークル的な色彩が強かったとも言われています。日本では、「バヴァリア(=バイエルン)啓明結社」と呼ばれたりしていました。しかし、その反キリスト教的な思想のため、イルミナティの活動自体はたった数年でバイエルン国王によって禁止されることになりました。
ところが、消えたはずのイルミナティが実は地下でひそかに命脈を保っており、様々な陰謀に関与し続けているという噂が今も絶えないということです。ダン・ブラウンは、こうしたイルミナティ現存説に着想を得てこの物語を作ったのかもしれません。
ネットで「イルミナティ」を検索してみると、出るわ出るわ。陰謀論、得体のしれない宗教団体、「世界征服」…。わけのわからないサイトが盛りだくさん。でもそのほとんどが「イルミナティ=悪魔的陰謀組織」というとらえ方をしています。
「フリーメイソン」との関連について述べているサイトも多い。「もともとフリーメイソンのメンバーが多く参加していた」だとか、「弾圧を逃れるためにフリーメーソンに潜り込んでこれを乗っ取り、メーソンを陰謀結社に変質させた」とか、いずれにしても、「イルミナティ=悪の組織」ゆえに「フリーメイソン=陰謀結社」という結びつけ方をしています。
ではまず、「フリーメイソン」とはいったいどんな組織なのか。
吉村正和氏の『フリーメイソン』(講談社現代新書)という本が手元にあるのですが、フリーメイソンの起源と歴史、その思想、米国史におけるフリーメイソン、そして近代日本との関わりまで、大変わかりやすく解説してくれています。
フリーメイソンの起源については、「メイソン"mason"」が「石工」という意味であることから、中世ヨーロッパの石工職人たちのギルド(組合)に始まるという説、十字軍の際に結成されたテンプル騎士団が起源であるという説、17世紀の神秘主義結社である薔薇十字団が直接の起源であるという説、いや、もっとさかのぼってソロモン神殿の建設に関わった職人集団に始まるものだ…などなど、数え切れないほどの説が流布しています。このように起源が明確でないのと同じように、あるいは、明確でないゆえに、フリーメイソンという組織の輪郭もなかなかはっきりとはしていません。キリスト教精神をベースとした慈善団体、高齢者を中心とした親睦クラブ、独特の符丁を持つ秘密結社…。どのイメージもそれぞれにきっと正しいのでしょう。本当に不思議な団体です。
フリーメイソンが明確な形として現れるのは、18世紀初頭の英国と言われています。ロンドンのパブ(居酒屋)に「共通の趣味・関心をもつ男性」集まり、にぎやかに議論をしたり飲食をしたりする、つまり社交的な「クラブ」がフリーメイソンの集会でした。フリーメイソンの集会は「ロッジ」と呼ばれますが、「ロッジ」の起源はパブだったのです。フリーメイソンのメンバーは、当然貴族階級が中心でしたが、しだいに王室も加入してくるようになります。英国王室の最初の会員は、ジョージ3世でした(…昨日もこの国王、登場しましたな)。
英国で作られた「フリーメイソン憲章」では、「すべての人が同意することのできる宗教」が提唱され、理想像として「真実で善良な人間」がうたわれます。キリスト教については、その神を「宇宙の偉大な建築者」、またイエスを「教会の偉大な建築者」と呼んでいます。宗教の枠を越えて、お互いの立場を理解し合おうという「寛容」の精神。まさに18世紀のヨーロッパ思想そのものと言ってもいいでしょう。
こうした人間主義、科学主義、合理主義的な考え方は、当然フランスの啓蒙思想家に大きな影響を与えていきます。パリで最初のロッジが設立されたのは1725年。「法の精神」のモンテスキューがフリーメイソンに加入したのもその頃です。フランスでは、フリーメイソンの思想として新たに神秘主義、無神論的な要素が加えられていきます。会員の数は急激に増え、組織の巨大化ととともに、「政治的結社ではないかという疑惑」を呼ぶことになります。フランス革命はフリーメイソンが起こした革命であるという説さえ伝えられるほどです。フランス革命とフリーメイソンの関係については、まだ十分には解明されていないようです。
「18世紀のイギリスに誕生し、ヨーロッパ大陸に進出していったフリーメイソンの理想が、真の意味で現実化したのはアメリカにおいてである」(『フリーメイソン』p.120)。米国の独立、建国、そして発展を「裏側で」支えたのはフリーメイソンなのです。
独立運動に大きな功績を残したフランクリンは、米国におけるフリーメイソンの代表的な人物です。初代大統領ワシントンも、彼を支えたハミルトンも会員でした。以降、モンロー、ジャクソン、セオドア・ルーズベルト、フランクリン・ルーズベルト、トルーマン、フォードなど、歴代大統領のうち13人がフリーメイソンに名を連ねています。また、政界だけでなく、リンドバーグやヘンリー・フォードなど、各界の著名人にもフリーメイソンのメンバーがたくさんいます。彼らの活躍の陰には、「モラル」をはじめとする米国風のフリーメイソンの思想が見え隠れしているのです。
そして、米国とフリーメイソンの関係をもっともよく表すのが、米ドル紙幣に描かれたある図柄なのです…。
(つづく)
コメントありがとうございます。
ダン・ブラウンの作品は、派生的にいろいろ学ぶところが多いですね。