カクレマショウ

やっぴBLOG

起業教育の可能性

2006-08-16 | └キャリア教育
宮城県教育委員会は、「地域と学校の協働によるみやぎらしい協働教育推進事業」(生涯学習課主管)の一貫として「起業教育普及推進事業」を実施しています。

「起業教育」とは、「豊かな職業観をもった子どもを育成するために、社会における経済活動を教材とし、地域社会と学校が協働して行う体験的な教育活動」ということです。今年度は、県内7中学校でモデル的に展開しています。「協働」というのは、中学校と地域社会との協働という意味で、中学校区の地域に起業教育を推進する組織(「○○地区起業教育研究会」)を作り、地域の特徴を生かした起業教育が行われているようです。

ところで、県が昨年度開催した「起業教育普及セミナー」における基調講演の記録が公開されています。演題は「新しい学びの起業教育」。講師は、起業教育の実践者である仙台市立太白小学校長、渡邊忠彦氏です。

何気なく読み始めたのですが、つい引き込まれてしまいました。

渡邊氏が起業教育に取り組み始めたのは、5年前。その取組が全国的にも「東北モデル」として知られるようになり、その成果に着目した宮城県教委が県の事業として起業教育を実施することになったというわけです。

氏は述べます。「起業教育は新しい時代の学習である。創造性を育てる成熟社会型の教育である」と。時代の変化に伴って、日本の雇用や就業形態も急速に変わりつつある。日本はもともと「起業」する人が少ない国で、企業に依存する体質が強かった。教育も偏差値主流で知識偏重の教育だった。しかしそれを脱却しなくてはいけない時代が来ている…。

社会の変化に応じて、教育もまた変わっていくべきだという考えが根底にあります。教員自身がもっとも敏感にその変化を感じ取っていく必要があるということでしょう。

渡邊氏は、国際的な学力調査で常にトップクラスに位置するフィンランドを例に挙げ、それは、「産業に向かわせる教育」つまり「あらゆる場面で自分なりにデータや情報を得て、それで自分なりに自分の考えを引き出してくる考え方」があるからだと言います。「日本ではすぐに教えてしまう」と。「データを先生の話を証明するために使うというのが多いが、フィンランドではそうではない」。

「起業教育」とは、「子どものうちから産業や職業に興味を持たせて、将来社会人として必要な精神や能力を養う教育」と述べています。「創造性」や「社会性」を「武器」にして、社会に自立を図るための「自立のレッスン」ただし、「ベンチャー育成学」でもなければ、「起業家教育」でもない。「起業家教育」との違いについては、「音楽教育」と「音楽家教育」が違うことを例に出しています。なるほど。「起業家」だけでなく、みんなが「社会人」になるために必要な教育だから「起業教育」なのです。

渡邊氏がこれまで小学校で手がけてきた起業教育は、すべて地域社会の持つ素材を生かしたものです。たとえば、地元の特産品の和紙を取り上げ、子どもたちがデザインや販売方法のアイディアを出し合い、インターネットにバーチャルカンパニーを作って販売する。最初は、学校の授業ではなく、親や教員も加わって土曜日の午後に残って取り組んだようです。

今年度のモデル実践校の取組を見ても、「シイタケ栽培販売」とか「木工品の製作販売」とか、地元の素材をうまく生かした実践になっています。まさに「地域社会における経済活動」を教材としているのです。それは、自然に地域の様々な大人を巻き込んでいくことになります。「子どもの学習と地域の人の課題意識がぴったり合う」というわけです。氏もおっしゃっていますが、子どもたちの起業教育は、コミュニティビジネスにもつながる可能性を持っています。

これまでの「体験活動」は、例えば、シイタケを栽培してみる、紙漉き体験をして和紙を作ってみる、というところで終わっています。起業教育では、会社を作って、実際のお金を動かして、自分たちが栽培したシイタケを「販売」するところまで「体験」します。これは大きな違いだと思います。育てて収穫して食べてみて、おいしかったーで終わるのではなく、本当の「勝負」は収穫後に始まる。子どもたちのいろんなアイディアが出てきそうです。

また、地域に根ざした起業教育は、子どもたち自身の目を地域に向けさせます。自分たちの地域にこんないいモノ(商売になりそうな…)があるということに気づかせてくれる。何かビジネスを、といった時に、東京を中心とした「都会」じゃなきゃだめ、という考え方も変えていくことができるのかもしれません。「自分が活躍できる場」が地元にあるかもしれない。そんな子どもたちの気づきを促していけるかもしれません。

キャリア教育は「今ある職業の中から選ぶ」「自分に合うものを選択する」ので、何か新しいことを始めるということを射程に入れていない。そういう意味では、今までの教育の延長上である。起業教育は創造性を大事にする。キャリア教育は創造性なしでも成り立つ。自分で探してつくり出していくのが起業教育、という渡邊氏の言葉に深く共感しました。

「起業教育」は、要するに、起業精神つまり「創造性を持ったチャレンジ精神」を、社会での実体験を通して育成するということでしょうか。もちろん、誤ったマネー至上主義や、ビジネス上の倫理など、付随して教えなければならないこともたくさんあると思いますが、こんな教育が日本でも広まっていったら、明るい未来も少しは見えてくるのかもしれません。

 

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2 コメント

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ビックリしました (渡邊 忠彦)
2007-03-03 15:15:07
私の話を十二分に理解していただけているのに驚きましたね。日本の教育を本当に役立つものに変えたいと思い始めたのが起業教育の東北モデルです。現在、東日本を中心に各地の小・中・高に広がりだしているところですが、実際に起業を考えることを知った大人グループ現れましたが、IP(知的財産)文化普及の教育としても有効ですよ。そう、韓国からも見学に来て資料を持っていきましたが、彼らは貪欲ですね。それに比べ文部科学省は関心が薄いようで残念ですね。
でも、これからが本番と思っています。これからもご支援ください。
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ありがとうございました。 (やっぴ)
2007-03-03 21:13:15
渡邊様

ご本人からコメントいただき、大変光栄です。
ありがとうございます。

実は、デュナミスの松浦さんにご紹介いただいたこともあり、来週のシンポジウムに参加します。

直接お会いできることを楽しみにしております。
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