カクレマショウ

やっぴBLOG

いろんな楽しみ方ができる『容疑者xの献身』(東野圭吾)

2006-09-08 | ■本
第134回直木賞受賞(平成17年)。2006年「このミステリーを読め!」ダントツの1位。読んだ人は誰もがおもしろかった、感動した、って言っています。ところで、これってミステリーなんでしょうか?

石神という数学教師が、アパートの隣に住む女性(靖子)とその娘が衝動的に犯してしまった前夫の殺人を巧妙なトリックで隠す、というのが大まかな筋書き。風采のあがらない中年男の石神は、もちろん靖子に惹かれているのですが、その一途な愛情に心打たれたワ、という人も多いみたいですね。

この本を「ミステリー」と言うならば、それほどのトリックもラストの「どんでん返し」もなかったのですが、石神が数学の教師で、しかも本来なら大学で研究をしていてもおかしくないほどの天才的な数学者であるという設定に一番興味を引かれました。

そういえば、映画にもなった「博士の愛した数式」も主人公が数学者でしたし、例の『国家の品格』の著者、藤原正彦氏も数学者。なんだか最近やけに数学が脚光を浴びているようです。

石神の数学的なものの考え方は、殺人を隠すトリックにも生かされています。先日、「なぜ数学を学ぶのか」という生徒の質問に対する石神の言葉を紹介しましたが、彼自身、数学で培われた考え方がまさかこんな形で役立つ?とは思ってもみなかったはずです。数学者に限らず、科学者というものは、偏った見方をしないこと、考え得るあらゆる方向から物事を見ることが大切ではないかと思いますが、石神の考えたトリックは、逆にその盲点を鮮やかにつくものでした。聞けば、東野圭吾氏自身が大学で数学を学んだのだそうで、だから数学者の考え方をこれほど詳細になぞることができるのですね。

私は、石神の靖子に対する愛情よりは、むしろ石神と湯川の間の友情の方に感動させられました。大学以来久々に再会して、石神の部屋で一緒に酒を飲んでいながら、石神は湯川の出した問題を解くのに夢中になり、そのまま朝を迎えてしまう場面。なんでもない場面なのですが、なんとなくじーんとしてしまいます。ずっと会っていなかったのに、湯川は石神の本質を見事に見抜いていました。湯川自身、物理学者という設定ですので、天才的な科学者として、他人には計り知れない共通の論理が存在したのではと思いました。湯川のおかげで、最終的には石神は「救われた」のだと思います。

本の帯に「運命の数式。命がけの純愛が生んだ犯罪。」とあるのですが、私なら「運命の数式。深い友情が破綻させた完全犯罪。」とでもしたいところですね。

一つだけ難を言わせてもらえれば、「命がけの純愛」であるはずの石神の、靖子に対する愛情の成り立ちが十分には描かれていないという点です。ラストの方で、最初の出会いとして、石神が「自殺」を図ろうとした時に彼女が現れ…というくだりが出てきますが、そもそもなぜ石神が自殺を図ろうとしたのかさえ十分には描かれていない。だから、なぜ石神が靖子にそれほどまでに惹かれたのかが最後までわからずじまいなのです。それが自分なりに納得できていれば、あのラストシーンは、もしかしたら泣けたのかもしれません。

読む人によっていろんな角度から楽しめる本です。

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2 コメント

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内面性 (RICO)
2006-09-09 17:21:08
やっぴさん、こんにちは。



東野圭吾、よく読むんですが、今回の受賞作はまだ読んでません。



でも、彼の作品を読んでいると、やっぱり理系の人だよな~っていつも思ってしまうのです。

ストーリーはとても面白いのですが、何て言うか登場人物の内面が細部までが描ききれてなくて、サラッとしてる感じがするのです。



いつも読後に思う事は、「何か物足りなさが残る」なのです。ストーリーの面白さについつい惹かれて読んでしまうのですが、この物足りなさは何なのか?と思う時、行き当たるのは理系的思考だからなのか?って気がしちゃうんです。

論理的思考故に、人間の割り切れない感情の部分がどうしても描けないのではないかと・・・・。



人間の、内面的な葛藤を描く作品が好きな私の、勝手な思い込みかもしれませんが。。。

まぁ、そういう部分を差し引いても、充分面白いので読んじゃうんですけどね~(^^)
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文系理系 (やっぴ)
2006-09-12 00:12:45
RICOさんこんばんは。



東野圭吾の最高傑作と言う方も多いみたいですね。私は逆に他の作品を読んだことがないのでわかりませんが…。



そうですねー。内面的な人物の描き方という意味では物足りないですね。いかにも「理系」的なドライな書き方なのかもしれませんね。理系でもエッセイの達人と言われる人はたくさんいますけどね。例の藤原正彦氏とか…。



なんとなくですが、文系理系って、かつてほどは違いがなくなってきているような気もするのですが。



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