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子どもの発想、大人の発想─荒井良二さんの絵本

2007-12-13 | ■美術/博物
『きっとみずのそば』 (文化出版局、1999年)という絵本があります。作:石津ちひろ、絵:荒井良二。

ある日、「ぼく」が飼っている鳥のワゾーが行方不明になる。「ぼく」はパパといっしょにワゾー捜しの旅に出る。手がかりは、「きっとみずのそば」という手紙。ふたりは、「みずのそば」を求めて、アマゾン、北極、アフリカ、インドと世界をめぐる。そして、ワゾーがいた場所は…。

石津ちひろ氏お得意の言葉遊び的なオチも秀逸ですが、なんといってもこの絵本の魅力は、荒井良二さんの絵にあります。ページをめくるたびに出現する、色とりどりの世界。ショッキング・ピンクや蛍光オレンジといった毒々しい色も、彼の絵の中ではやさしく映える。いかにもヘタウマっぽい絵も、よく見るときちんと構図が考えられている。

NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」、今週はこの荒井良二さん。「きのうの自分をこえていけ」というのがタイトルで、、「自分の中のおとなを捨てる」、「こどもビームをあびる」、「日常じゃーにぃ」、「宿命の敵=おとなの自分」の4つのパートで構成されています。

・「自分の中のおとなを捨てる」
「子供の心に届くのは、大人が作るような巧妙なストーリーや上手にかかれた美しい絵ではない」という信念のもと、おとなとしての経験や知識、先入観を捨て去り、自分の中の「子どもらしさ」を引っ張り出して発想して描くということが、まず荒井さんの「流儀」として紹介されていました。まさに究極の逆説、「子どもは子どもになれない。大人だけが子どもになれる」です。

・「こどもビームをあびる」
「子どもになる」ために、荒井さんは子どもたちとワークショップを行っています。もちろん、名目上は「子どもたちのためのワークショップ」なのでしょうが、実は荒井さんが子どもたちから着想を得ることも多そうでした。大人が子どもになるためには、やはり「ホンモノの子ども」に接することが必要なのですね。

・「日常じゃーにぃ」
道を歩いて、ふと気になる路地に入り込んでいく荒井さん。フツーの大人はそんなことはしない。「目的」以外の道をたどることを大人はしない。小さい頃、「道草」があれほど好きだったのに。そういう好奇心をいったい私たちはどこに置き忘れてしまってきたのでしょうか? 日常の中に非日常的な「旅」を見つけるのが「日常じゃーにぃ」。うーん、いい言葉だ。

・「宿命の敵=おとなの自分」
最後に紹介されたのが、新しい絵本への挑戦。「絵本の子ども」というタイトルの絵本を、荒井さんはこれまでと違った方法で描こうとします。つまり、文章を先に書いて、それに合わせて全体構成を決めてから絵を描くのではなくて、まず、心に思いついた「絵」を先に描こうというのです。

水に浮かぶボートを描く。その下に炎を描く。すると、ボートがいつのまにかスープ鍋になっている。スープをつくるのは栗。はい、これで「スープボート」という1枚の絵ができあがり。こういうのって、本当に「子どもの発想」だよなと思う。子どもは後先考えないで思ったことをすぐ口に出すし、筆を持たせればとりあえず紙に描いてみる。大人はつい後先を考えてしまうのです。こんなこと言ったら相手はどう思うだろうとか、こんなに大きく描いちゃったらあとで描きたいことが描けなくなる、とかね。そういうことに縛られないで、「心の声」に耳を澄ませてそれに従って筆を動かす荒井さんが、とても幸福そうに思えてなりませんでした。

1枚できると、また心静かに新しい紙に向かって筆を下ろしていく。でも、さすがの荒井さんでもやっぱり「52歳」という実年齢が邪魔をするらしい。こんな描き方でほんとに1冊の絵本が完成するのだろうか。こんな冒険はやめた方がいいのでは。「大人らしい」常識が、心に不安をもたらす。それは、テレビを見ている方の私も同じでした。どうやってこのバラバラの絵をつなぐのだろうかと余計な心配をしてしまう。

それでも荒井さんは負けない。

そうして完成した作品の見事さときたら! う~ん! 「えほんごとん」ね! 

しかし、いくら「子どもの描いたような絵」であっても、それだけでは「絵本」にはならない。子どもが描いた絵が絵本になるのだったら、世の中、いくらでも絵本は作れるでしょう。「子ども的な発想」をいかに「見せる」か、ということがやっぱり大切で、それがないと「絵本」としては成立しないのかも。新井さんだって、もともとは画家を目指して美大で学んだ人ですから、たとえ子どもっぽい絵を描いても、デッサンの基本はきちんとしているから惹かれるわけで。逆に言えば、いくら「子ども的な発想」ができても、絵心がなければ絵本作家にはなれないわけです。

…と、結局は「大人の発想」になってしまうのは、子どもの心をつかむことが必要な絵本の持つジレンマと言っていいのでしょうね。

 

 

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