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山田太一「想い出づくり」のトレンディさ

2007-01-08 | ■テレビ/メディア
「想い出づくり。」

山田太一脚本作品として、前にもこのドラマについては少し触れたことがありましたが、先日、ふとしたことから本棚の隅に眠っていたシナリオ本を読み、改めてこのドラマのすごさに圧倒されたので、きちんと記しておきたいと思います。

このドラマが放映されたのは、1981年9月18日から1981年12月25日、毎週金曜日の夜10時のTBSでした。裏番組はあの「北の国から」。しかし当時大学生だった私は、迷わず6チャンネルを見てました。調べてみると、「北の国から」は、1981年10月9日から1982年3月27日までの放送だったようです。「想い出づくり」が終了したあと、1月から3月まではたぶん「北の国から」を見ていたのだと思います。当時はビデオもありませんでしたから、「想い出づくり」のせいで見逃してしまった「北の国から」の最初の数回は、確か再放送で見たはずです。「北の国から」の視聴率が当初とても悪かったのは、私と同じパターンの視聴者が多かったからかもしれません。

そんなことはともかく、このドラマは、いわゆる「青春群像もの」の先駆的作品と言われています。同じ山田太一作品の青春群像ものの傑作「ふぞろいの林檎たち」シリーズがスタートするのは2年後の1983年です。「ふぞろい」はどちらかというと、「男性」に重点が置かれたドラマですが、「想い出づくり」はズバリ「女性」の生き方に焦点を絞っています。

このドラマが作られた20数年前と今とでは、女性をめぐる社会的環境もずいぶん変わってきてはいると思いますが、それでも、女性にとっての「結婚」と「仕事」は、今でも取り沙汰される課題です。ただ、少なくとも今よりは、女性が結婚して家庭を守ることが当たり前と考える人が多かっただろうあの時代、このドラマは当時の若い女性の生き方に少なからぬ影響を与えたのではないかと思います。

ドラマの軸になるのは、20代前半の3人の女性。
佐伯のぶ代/森昌子
吉川久美子/古手川祐子
池谷香織/田中裕子
生まれも育ちも異なる3人が、ふとしたきっかけで知り合う。友情を深めていく中で、それぞれが直面する恋愛と結婚に、時には協力しながら立ち向かっていく。各回のタイトルは次のとおり。

1 女ともだちのスタート。
2 やっつけたい、あいつ。
3 涙も落ちてきた。
4 両手を空にさしのべて。
5 何処へ羽ばたく。
6 べつの姿が見えてくる。
7 夜の道ではなく─。
8 時よ、急がないで。
9 小さな夢が消えていく。
10 はじめての夜。
11 まわりは急ぎ足。
12 戦いの日。
13 宴のあと。
14 晴れた日が来る。

佐伯のぶ代(森昌子)は、ガム工場に勤める、どちらかというと地味な女性。父(前田武彦)、母(坂本スミ子)、高校生の弟(安藤一人)の4人家族。父の勤める工場の社長の甥で、盛岡でドライブインを経営する中野二郎(加藤健一)との結婚話が持ち上がっているが、のぶ代自身は、押しもアクも強い二郎に生理的な嫌悪感を感じている。弟の茂は勉強嫌いで、しょぼくれた高校生活を送っているが、夏休みに二郎のもとで働いた経験から、自分の進路が見えてきたような気がしている。

吉川久美子(古手川祐子)。静岡で洋品店を営む両親のもとを飛び出し、小田急のロマンスカーのスチュワーデスをしている。そもそも、3人が知り合うきっかけとなった海外旅行のキャッチセールスマン、根本典夫(柴田恭兵)のいい加減な生き方を嫌悪しながらも、惹かれていく。典夫の「元カノ」妙子(田中美佐=現・田中美佐子)との三角関係に悩みつつも、典夫に対しては頑として自分の主張を遠そうとする。父(児玉清)はそんな久美子を心配し、何とか静岡に連れ戻そうとする。

池谷香織(田中裕子)は商社のOL。社内での女性の地位の低さに不満を感じながらも、「お茶汲み」や「コピー取り」といった仕事に甘んじている。故郷・福島で役所勤めをしている父(佐藤慶)は、二言目には結婚だ、見合いだと口にする。仕事をやめて実家に戻ろうにも、兄夫婦がいて居場所がないし、折り合いの悪い義姉と母(佐々木すみ江)の間に入る気は毛頭ない。結婚相手については、もちろん誰でもいいというわけではなく、できれば燃えるような恋愛をしてみたいと望んでいるが、現実には課長に紹介された会社員・岡崎(矢島健一)と、つきあうともなくつきあっている。岡崎に惹かれるものがないわけではないが、「燃える」わけでもない。結婚なんてこんなもんかなと思ったりもする。

のぶ代は、弟を二郎に面倒見てもらったことへの感謝の気持ち、そして何より二郎が自分を好いてくれることにほだされたこともあり、二郎との結婚を決意します。ところが、結婚が決まったとたん、極端な亭主関白に「変質」した二郎にのぶ代は不信感を隠せません。あわただしく盛岡で結婚式を挙げることになったものの、のぶ代は、披露宴の直前になってやっぱり二郎にはついていけないと、涙ながらに2人に打ち明けるのです。3人は控室に立てこもり、披露宴は花嫁不在のまま行われることになります。このあたりが、このドラマの大きなクライマックス部分です。

披露宴のボイコットという「事件」を引き起こした3人の父親が、事後処理の話し合いをするために会うのですが、香織の父(佐藤慶)と久美子の父(児玉清)の言い争いは、つい父親としてのホンネが出てしまっていて、リアル感満点です。

他の山田太一作品と同じように、このドラマにも、思わずハッとさせられるせりふがたくさん出てきます。自分のキャッチセールスにだまされたとわかった3人に対して、典夫(柴田恭兵)が言う。「ちまちま二十万ちょっと貯めて、ヨーロッパへ十日ぐらい行って、それで青春の想い出は出来たって、笑わせるぜッ」「他になんにもねんのか、手前ら、結婚までに、他になんにもねえのか?」。
言い返しながらも、核心を突いているだけに動揺を隠せない3人の表情を、シナリオを読んで思い出しました。

映像そのものは何十年も前に見たきり(再放送は見ましたが)なのですが、心に刻み込まれたシーンがあまりにも多いドラマでした。DVDも出ているらしいので、見ようと思えば見ることはできるのですが、それはもう少し先にとっておいてもいいのかなと思っています。

バブルの頃、「トレンディ・ドラマ」という言葉がありましたが、あの「トレンディ」というのは文化や生活の面からの「流行」を追ったものにすぎません。登場人物が流行のおしゃれな服を着て、瀟洒なマンションに住み、交わす会話も都会的。そんな上っ面の「トレンディ」ではなく、「想い出づくり」で描かれた彼女たちの生き方や考え方こそ、時代や社会を映す正真正銘の「トレンディ」だったのだろう、と今振り返って思います。というよりも、山田太一はいつも「トレンディ」の先を行っています。今を生きることで精一杯で、今しか見えない私たちに、少し先の未来を見せてくれる。登場人物のせりふや行動を通して、私たちが今考えなければならないこと、しなければならない生き方を見せてくれるのです。

『想い出づくり』>>Amazon.co.jp


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1 コメント

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若い頃の思い出 (春一番)
2014-12-04 21:38:38
初めまして。
「想い出づくり。」は私の好きなドラマの1つです。
19歳で就職し、親元を離れ横浜で1人暮らしを始めた年に見たドラマです。
私にとってはとても思い出深いドラマです。
都合で最終回を見逃してしまった事が、ずっと心残りでした。
今年の9月にこのドラマのDVDがある事を知り、早速注文しました。
33年前に一度見ただけですので、加藤健一がホテルで「1泊25,000円!」と言うシーンを除き、ストーリーは殆ど忘れてしまいました。
33年振りに改めて見て感じた事は、佐藤慶と田中裕子親子の会話というかやりとりが、何か漫才をやっているようで、何度見ても面白くて飽きない事でしょうか。
3人の主人公の父親母親役の児玉清、谷口香、佐藤慶、前田武彦の4名の俳優は、既に亡くなられています。
33年という時間の流れを感じます。
このドラマが撮影されてから33年が経ち、東京の街の様子もだいぶ変わってしまったんでしょうね。
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