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やっぴBLOG

山田太一久々の連ドラ「ありふれた奇跡」は懐かしい匂いがする。

2009-01-16 | ■テレビ/メディア
1997年の「ふぞろいの林檎たちIV」以来11年ぶりとなる山田太一の連続ドラマ「ありふれた奇跡」(フジテレビ系列、毎週木曜22:00~)を、興味深く見ています。

ちょっとやりとりを聞いただけで、あ、山田太一だとわかる独特の言い回しが今回も健在で、私などは、それらを「ふぞろいの林檎たち」の登場人物とつい重ねて見てしまうのですが(これは「岩田健一」=時任三郎と「仲手川良雄」=中井貴一の会話とおんなじだ…とかね)、見ているとつい懐かしい気持ちになってしまいます。ビデオにとって、気になるセリフを何度も聞き返したくなるのも山田太一作品の常で、もちろん、シナリオ本が出ればそれも買うことでしょう。

今回のドラマは、仲間由紀恵扮する「中城加奈(29)」と加瀬亮扮する「田崎翔太(31)」の恋愛発展物語がメインですが、そこに、二人が知り合うきっかけとなった事件、ホームで電車に飛び込もうとして二人が助ける「藤本誠(50) 」( 陣内孝則) が絡んでいく。まだ2回を見ただけなので何とも言えませんが、加奈と翔太はいずれも過去に「死のうと思った」経験があるみたいで、この時代に「生きる」ことの意味のようなものが、重要なテーマとして今後展開していくのでは…と勝手に予想しています。もちろん、山田太一作品には欠かせない、お互いの「家族」についても小出しながら、少しずつそれぞれに抱えている問題が見えて来つつあります。

それにしても、主演が仲間由紀恵なんだなあ…と思う。いえ、彼女が役に合っていないというわけではなく、それなりに「中城加奈」というキャラクターをきちんと演じているとは思うのですが、何せ「TRICK」とか「ごくせん」のイメージが強すぎるのでね。肩に力を入れないで、わざとらしくなく、自然に山田太一のセリフを言えるようになることを期待したいと思っています。

対する加瀬亮は、映画「それでもボクはやってない」が印象的ですが、ドラマ出演は今回は初めてだとか。祖父と父の男所帯に暮らし、祖父の経営する左官業を手伝っている翔太という設定にはうまくマッチしているなと思います。無口で気弱そうだけど、実は芯がしっかりしていて、という翔太の性格に合っています。セリフ回しも、あまり芝居がかってなくていい。

二人をつなぐコミュニケーション・ツールとして、「携帯メール」が登場するのも、たぶん、山田太一作品では初めてでしょう。いいのか悪いのかわかりませんが、「ふぞろい」では黒電話か公衆電話しかなかったことを思えば、お互いの意思を通じ合えるという意味では、格段に進歩している。ただ、それはあくまでも「文明の利器」の進歩であって、使っている人間がそれほど進歩しているわけではないので、コミュニケーションの量が増えたぶん、誤解も増えたりもしますけどね。

昨日の第2回で、少し自分自身で驚いたことがありました。

今回、加奈と翔太があるレストランでけんかしてしまうのですが、最後の方で、加奈と翔太が再び同じレストランで出会う。前と同じテーブルで、席の位置だけが反対になっている。翔太は、これまで加奈に隠していたこと、自分が左官職人であることを告げるために、ダッフルコートの下に作業着を着込んで来るのです。

──翔太「オレ、こういう人間です。それ、言っといたほうがいいと思って」(と、コートを脱ぐ。)
──加奈「…ペンキ屋さん…? じゃないよね?」
──翔太「左官。セメントの左官。ビル工事の左官…」
──加奈「そんなに、改まって言うこと?」
──翔太「だって、これ、たたくとセメント落ちるし…」
──加奈「スーツよりいいんじゃない?」

すると、ウェイターがあわてて飛んできて、コートを羽織るように翔太に言う。ところが、それにカチンときた加奈は、代金を払うとさっさと店を出てしまうのです。

──加奈「あたし、バカみたい?」
──翔太「ううん。…かっこよくて。こっちはだらしなくて…」
──加奈「でもこういうことすると…」
──翔太「うん?」
──加奈「必ず揺り戻しが来るの。落ち込むの」
──翔太「ううん、ただもう、かっこよかったです」
──加奈「子どもっぽくなかった?」
──翔太「ゼンゼン」
──加奈「感じ悪くなかった?」
──翔太「ゼーンゼン!」

で、二人は何となくおかしくなって、笑いながら街を歩いていく…。

というシーンなのですが、まあ、確かに「かっこいい」と言えばかっこいいのかもしれない。でも、私は加奈の言い分に少し違和感を覚えました。やはり、あそこはレストラン側に分があるのでは…と。セメントの粉を落とされたら店だってたまらんよなあ~と思いました。そういう違和感を感じたところに、私自身、年取ったんだなあと感じたのです。昔だったら、ヒューよくやった!と拍手を送っていたかもしれません。でも今は、いわゆる世間の「常識」の側に立っている。

山田太一は、多くの「常識人」が私と同じように、加奈の行動に少し反発を覚えることことを分かっていて、あえてこういうシーンを入れたのかもしれません。それは、彼なりの「挑戦」なのだと思います。そして、そういう「挑戦」が随所に盛り込まれているから、彼の作品は見逃すことができない。単発のドラマではやっぱり消化不良です。「山田太一らしさ」は、やはり連ドラでなければ出せません。

久しぶりに、「次週が待ち遠しい」状態がうれしい。

 

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