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風塵社的業務日誌

日本で下から258番目に大きな出版社の日常業務案内(風塵社非公認ブログ)

『百姓一揆』

2019年07月05日 | 出版
昼前からショボショボ降り続いていた雨が夕方くらいにはあがっていた。ひとしきり社内でポケーと酒を飲んでから帰宅することにする。といって、あわてて帰る必要もない。妻が出ていったあとのわが家である。小生の帰りが早かろうが遅かろうが、文句をつけるやつはこの世界には存在しない。そのため、歩いて帰ることにした。会社から自宅まで徒歩90分ほどの距離だ。会社までおのれの脚で通える距離に住んでいるというのは便利なものではある。しかしその分、郊外に住んでいるのに比べれば家賃は高くなる。それはわかっているのだけれど、こうしなければならない事情も小生にはあるのだ。本宅と妾宅を行き来しなければならないというのは、意外と面倒なところもある(冗談)。
ここ数ヶ月ほど、歩いて帰宅することが多い。出社時がジョギングなのは以前からだ。こうした通勤スタイルは、それはそれで健康的なのだろうけれども、本を読む時間が作れないという悩みも生じる。それを考えると、1時間弱くらい電車に揺られる距離のところに引っ越した方がいいのだろうかとも思う。小生の場合、2時間くらい集中したら読み終えられる本もある。しかし、そうした本を読み捨てていってもお金の無駄なのかもしれない。
そういえば、先日、若尾政希著『百姓一揆』(岩波新書)を読んでいたら、これは面白かった。なにせ、これまで教わってきた近世像がすべてひっくり返されていくからだ。ワクワクしながら読みつつ、久しぶりにページをめくるのももどかしいという体験ができた。むしろ旗に竹やりという百姓一揆の姿なんて史実ではなかったんだ。いやあ、まさに目から鱗の一冊だと感嘆した。
その本を読みつつ思い出したことがある。小生が住んでいた寮の先輩(ここではBとする)に連れられて、彼の学科の先輩(同じくAとする)のお宅に突如うかがったことがある。小生もB先輩と同じ学科だったのではあるけれど、塀のなかにはほとんど足を踏み入れたことがなかったから、A先輩とは初対面であった。そこで、突然来訪してきたわれわれを相手にA先輩も戸惑ったのだろう。とくに小生のような馬の骨を相手に、なにを話したらいいのかわからない様子だった。A先輩は当時どこかの非常勤かなにかをされているとBさんから聞かされた記憶なのだけれど、もう覚えていない。それよりも小生がいるせいか、AB両先輩の話が噛み合ってない。A先輩にしてみれば、とにかく、おまえらサッサと帰れよという雰囲気だった。
ところが、B先輩はなかなか帰ろうとしない。内容なんてまったく覚えていないけれど、どうでもいいようなことをダラダラしゃべって居座りそうな感じになっていた。焼酎を早く持ってきてもらえませんか、という調子だ。いま思うに、B先輩にしてみれば、小生をダシにしてなんらかのお願いごとをしたかったのかもしれない。もしくは、小生の身元を引き受けてくれないかという話だったのだろうか。そこでA先輩は観念した態度を示した。小生のツラを眺めて、どうせこいつはただの外道な左翼かぶれなんだろうと想像したことだろう。そして、専門が近世史で百姓一揆を研究しているなんて話を始めた。そこにB先輩が、「おまえ聞いたか。Aさんは日本の階級闘争史を研究されている方なんだ」的な紹介を小生にかぶせてくる。
そこまでのAB両氏の話を聞いていて、実は小生厭きていた。ものすごく単純に、制度上所属することになっていたその学科どころか、その大元のアホウ養成学校自体にうんざりしていたからだ。したがって、その学校に所属しているほかの連中がなにをしていようが、所詮、自分には関係のないことだと、適当に話を聞きつつ思っていた。そのとき、A先輩宅の電話が鳴った。なにか口ごもった様子でA先輩は受話器に向かっている。A先輩がそそくさと電話を切ると、「Aさん、どうなされました?」とB先輩が真顔でたずねている。「いやあ、彼女が早く来てって言ってるんだよ」と、A先輩が苦笑を浮かべる。
そこで、小生はかなり悪魔的なニヤリを口元に浮かべたことだろう。「Bさん、これから先輩はお楽しみなんですから、おれたち帰りましょうよ」的なことをAさんに対してからかい半分で口にし、Bさんの袖を引っ張ることになった。そこからの記憶が残っていないので、そもそもの、なぜBさんが小生を引き連れてAさん宅にうかがおうとしたのかを覚えていないということである。ただ、そこで話に出た、百姓一揆が階級闘争であるというテーゼは、先ほどの『百姓一揆』では完全に打ち砕かれてしまっている。それだけに、その本を読みながら、若いころのそんな一こまを思い出したというわけだ。歳をとると、ちょっとしたことで若いころの記憶がよみがえってくるのかもしれない。ちなみに、Aさんとはその後お会いしたこともなく、名前も顔も忘れてしまった。Bさんは某大学の教授に納まっていて、年賀状によるといまは幸せな家庭を築いているようだ。

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