風塵社的業務日誌

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やさしい精神

2010年04月14日 | 読者の声から
東京新聞(2010年4月13日朝刊特報面)「本音のコラム」

「やさしい精神」鎌田慧

 二十四年前、『子ねこチビンケと地しばりの花』という本が出版されたときに、わたしは推薦文を書いた。鮮烈な本で、記憶にあった。
 風塵(ふうじん)社で復刻版をだすのでまた書いてほしい、といわれて断らなかった。著者の荒井まり子さんは、なにもやっていないのに、「わたしも彼らの仲間です」と主張した。それで爆弾犯人への「精神的無形的幇助(ほうじょ)罪」、聞き慣れない罪によって、懲役八年、未決勾留(こうりゅう)をふくめると、十二年半も刑務所に入っていた。
 彼女の友人が大道寺将司や片岡利明など、三菱重工爆破事件で死刑確定囚となっている。しかし、彼女は仙台にいて、ラジオではじめて事件を知ったほどに無関係だった。
 信じがたい話だが、学生時代の友人との一体感と共苦を願って、「できるだけ重く処罰されるように」と検事に嘘(うそ)の自供をしていた。おまえの取り調べで午前様、子どもの顔もみられない、という検事の愚痴に同情するほどに気がやさしい。
 自立していなかった、という自省は、長い獄中の後のことである。問題なのは嘘の自供でもなんでも、罪人をふやしたい検事の野心である。今年は「大逆事件百年」だが、首謀者の一人、菅野須賀子は「功名、手柄を争って、一人でも多くの被告を出そうと苦心惨憺(くしんさんたん)」(「死出の道艸(くさ)」)と検事を批判している。司法はこの百年変わっていない。
 (ルポライター)


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