風塵社的業務日誌

日本で下から258番目に大きな出版社の日常業務案内(風塵社非公認ブログ)

小銭入れをなくす

2022年05月20日 | 出版
某日午後、IさんとHさんがご来社。あるパンフを英訳することになり、どうしてなのかは知らないが、弊社内でその作業をすることになったのだ。小生にしてみれば、仕事に集中できないので迷惑な話ではあるものの、そのパンフの翻訳作業には弊社内が適している事情はおぼろげながら理解はできる。といっても危ないパンフではなく、日本でも公開されたある映画をオックスフォード大学で上映したいという英国人が現れ、日本語版のパンフを英訳してその参考にしてもらおうという主旨である。そのうえ、その日本語版では説明不足な点もあるので、そこは補っておきたいという欲張った作業だ。
IさんもHさんも、英語に関しては専門性が高いかたがたである。しかし、翻訳というのはなかなか難しい作業のようだ。特に業界用語というか、ある集団が特定の条件内で使ってきた用語の場合など定訳がないから、どうしましょうということになってしまう。その場合、日本での文脈を踏まえたうえで、なるべく正確な意味を簡潔に述べないといけないとなるのだから、大変なわけだ。Iさんが「この悪徳手配師というのを、とりあえずviolent agentと訳しておいたんですけど、どうなんですかね?」と、Hさんに確認を求めている。violent agentなんて語を聞いて、なかなかうまい訳だとは思いつつも、はたで小生など大笑いしてしまった。そこでHさんからは修正意見が出たんだけど、どういう訳に落ち着いたのかは忘れてしまった。
小生は仕事に集中したいのに、「全共闘自体は定訳があるからいいんですけど、東大全共闘の場合、東京大学はTokyo Universityでいいんですか?」「the University of Tokyoみたいですよ」「なんだか偉そうでいやですねぇ」なんて会話が耳に入ってくると、そのたびに笑ってしまい仕事どころではなくなってしまう。「そうすると、日本大学はthe University of Japanですか?」「いえ、日大はNihon Universityで、Japan Universityでもないんですよ」へー、そうなんだ。そういえば、三井住友銀行の海外表記は住友を先にしていると聞いたことがある。各団体ごとがめいめいで英語表記を決めているのだから、いくらネットの時代とはいえ、それをいちいち調べるのは面倒なことだろう。
別の日、都内某所新橋で某編集会議があり、雨がシトシト降るなかを出かけていく。会議そのものは無事終わり、某紙次号も盛りだくさんな内容になりそうだ。当然ながら、原稿が集まらないより、集まりすぎくらいの方が割付しやすい。その号に盛りこめ切れない記事があれば、掲載しなければいいだけだからだ。そして会社にもどる途中、小腹が空いてしまう。早くもどって次の作業をしなければならないのだけれども、権力と空腹には勝てない。会社の近くまで来たところでコンビニに立ち寄り、冷凍のボンゴレを買うことにした。会社のレンジでチンして食べようと考えたわけだ。そして小銭入れを取り出してレジで支払い。会社にもどる。
食後、いまいち集中しきれずダラダラしている小生が悪いのだけれど、作業がいっちょん捗らん。17:00を回り、「この先どうすんだっけ?」と考えていたら、急に仕事を続けているのがいやになってしまった。酒を呑み始める。そこまではなにも問題はなかった。いささか酔ってきて、いざ帰ろうと帰り仕度を始めたら、先ほど使ったはずの小銭入れがどこにも見当たらない。そのなかにはSuicaが入っている。困ったなあ、と探し始めた。会社から数百メートルも離れていないコンビニで取り出したのが最後である。その間にポケットから落としたとも考えられないし、おそらくは社内にあるのだろうとあちこちひっくり返してみるものの、まったく見当たらない。しかもそんなときにかぎって、何年も前のどうでもいい書類ばかり出てくるから不思議なものだ。
しかし、小銭入れは見つからない。どうしたものかと考える。Suicaがなくても、帰宅ぐらいはできる。現金で切符を買えばいいだけの話だ。そんなことはわかりきっているものの、あるはずのものがないという現実、それが気に入らない。それでしばし粘って、狭い社内を探してはみたものの、結局見つからず。最後は、立ち寄ったコンビニにまで行ってたずねてみたものの、落し物はないとのこと。泣く泣くあきらめることにした。そのうち、社内からヒョッコリ出てくることと期待しておこう。
そしてまた別の日、F社社長T氏ご来社。T新聞I社長が亡くなったとのことである。享年78。2年ほど前に白血病を患ったと聞いていたから驚きはなかったものの、平均寿命が80を越えているご時世なので、70代の死は若すぎるように感じてしまう。野球が好きな人で、特に近鉄バファローズの西本幸雄監督に想いを寄せていた。そのため、Iさんの前で「私、実はカープファンなんです」とは言い出せなかったのを思い出す。「江夏の21球」が輝けば輝くほど、西本にしてみたら悔しさだけがこみあげてきたことだろう。Iさんは、そうした浮かばれないものに同調する喜びがあったのかもしれない。本人にも「どうせオレは浮かばれない」という気持ちがあったのだろうか。いずれにせよ、合掌。

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