風塵社的業務日誌

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ブタ箱物語(4)

2017年01月26日 | ブタ箱物語
ここで、人々を勾留する施設について説明しておいた方がいいだろう。ただし、小生は弁護士ではないし、行刑などについてくわしいわけでもないので、あくまでも素人知識であるということを断っておく。また、説明に間違いがあったらどうかご指摘願いたい。
一般にそうした施設には、留置所と拘置所と刑務所とがある。留置所というのは警察署内に設置されており、警察官に逮捕された人が一時的に入るところである。拘置所は、主だったものは全国に8箇所しかなく、裁判を受けている被告人がお住まいになるところ。そして刑務所は、裁判で有罪の確定した人が刑のお務めをするところである。死刑囚の場合は、刑が確定しても拘置所に留め置かれる。余談ながら、こうした施設のことをブタ箱とかトラ箱と俗称で呼ぶが、その区別はググっていただきたい。
また、警察の留置期間は最大20日なのであるらしいけれど、警察のよくやる手法が別件逮捕で留置期間の延長をはかるというものである。とくに重大事件の場合は警察も徹底的に取り調べたいから、なんだかんだと難くせをつけてはいろんな罪状で被疑者を逮捕して、勾留日数を増やそうとするわけだ。また、勾留は「勾留」が正しく、「拘留」という漢字はその世界ではあまり使われないらしい。
そして、そもそも勾留日数が20日もあるのは、民主先進国においてはあまりに長いらしい。しかもよく批判されるように、人質司法、代用監獄という問題がある。要するに、ある人が拘束されたらその人は社会的に成り立たなくなってしまうから(会社をクビになったりする)、無実であってもとにかく早く外に出ようとする。すると警察は、「じゃあ、これを認めたらすぐに出すよ」なんてウソを平気でつき、その人が有罪となるような調書を取る。そんなことがいまも通用していて、これらの問題は冤罪の温床だと指摘されているのだけれど、民主後進国の日本では改善のきざしすらなかなか見えない。重大な問題だと思っているけれど、しかし、ここでそれを声高に発言したいわけではない。
ついでに、警察と検察の区分も記しておこう。警察官とは逮捕権と捜査権などを持った人で、交番にいる制服姿を知らない人はいないだろう(私服の警官の方が多いけど)。一方で検察官というのは司法試験に合格していて(司法修習もすんでいて)、捜査権と公訴権を持った人である。公訴権とはある刑事事件について裁判を起こす権利を指すのだが、一般に検察官を見たことのある人は少ないだろう。逮捕されるか裁判ウォッチャーでもしないかぎり、こいつが検察官かと認識できる機会はあまりない。
それと書き忘れていたことがあった。それは警察官の目つきである。対面しているときはそうではないのだが、被疑者を少し離れた場所から見つめるとき、独特の目つきとなる。鋭いとか厳しいとか悪いというような形容詞では表現できないあまりに独特の見つめ方で説明に窮してしまう。その昔、Mさんという故人の方がその目つきを「剣道をしている人のどこにも焦点を合わせない見方」と表現されていたような記憶があるが、小生は剣道をしたことがないのでそれが的確なのかどうかはよくわからない。しかし、とても気持ちの悪い目つきである。こういう人間にはなりたくないなあと思わせるに充分だ。
そこでようやく留置所の描写に話をもどせば、広さは8畳くらいのものだろうか。先述のとおりその片隅はトイレになっていて、上部はガラス張りで上半身が廊下から見えるようになっている。床はコンクリートの上にうすっぺらなじゅうたんを敷いただけのものだろう。また、所内はエアコンがガンガンに効いている。外は夏のはじめだというのに、スウェットを着て綿布団に入ってもなんの違和感もない。
小生一人しかいない房なので気兼ねもいらない。やれやれ、やっと眠れると布団を中央にボーンと広げて、その布団に飛び込んだ。ダクトの音がうるさい。ピャラピャラしたヘンな高音と、ボーンボーンといった感じの低音が響いている。しかし、すぐに寝入った。と思ったら、どこからか声がしてきて、眼が覚めた。なんのこっちゃと起き上がれば、どうも小生が布団を敷いた場所と向きを修正しろと、警察官が言っているようだ。
だれかに迷惑をかけているのでもないのに、こいつはなにをバカなことを言っているんだとは思うのだけれど、悪態をつくよりも早く眠りたい。しかもメガネを取上げられているので(これも自殺防止なのだろう)、その警官がどこでしゃべっているのか、場所も特定できない。布団の場所を適当にずらして「こうなの?」と中空に向かってたずねれば、「そう」という声がどこからともなく聞こえてくる。
なんだかなあ、これはフーコー的でもあるけれど、それ以上にオーウェルの『1984』的だなあとも思う。つまり、フーコーが『監獄の誕生』で述べた一望監視装置下に我が身が置かれていることはわかりきっているけれど、『1984』で描かれているくだらない画一化の世界なんだなあと実感したわけである。これも監視の問題に関わるのかもしれないけれど、小生がどこを向いて寝ているのかなんて些事が強制的に矯正されるわけなのだ。

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1 コメント

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Unknown (法学教室)
2021-11-16 09:24:34
>こうした施設のことをブタ箱とかトラ箱と俗称で呼ぶ

留置「所」という表記が違う。正確には留置「場」である。国語辞書を引けばわかるが、拘置所や刑務所をブタ箱やトラ箱とは普通呼ばない。

留置場は警察の管轄(いわゆる代用監獄)、拘置所と刑務所は法務省の管轄(本物の監獄)である。両者には根本的な違いがある。

>刑務所は、裁判で有罪の確定した人が刑のお務めをするところである。死刑囚の場合は、刑が確定しても拘置所に留め置かれる

単なる懲役囚が拘置所で服役することもある。これを当所執行と呼ぶ。手鏡事件で知られたエコノミストのU氏はこのケースである。

>検察官というのは司法試験に合格していて

とは限らない。検察事務官などが副検事を経て検察官特別考試に合格し検察官になる場合もある。
正規の検事は忙しいので、きみのようなザコのお相手は副検事(教員でいえば代用教員のようなもの)に任されることが少なくない。

>勾留は「勾留」が正しく、「拘留」という漢字はその世界ではあまり使われない

拘留は拘留で行刑の世界ではよく使う漢字である。未決勾留と違って無罪推定が及ばない自由刑の一種だ。
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