風塵社的業務日誌

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2021年10月16日 | 出版
某日の昼前、会社に向かおうと池袋某所を歩いていた。たまたまラブホの前を通りかかる。すると、向かいから歩いてきた女性が、ニコッと微笑んでから頭を下げる。細身のショートカットで、30台前半かなという感じだ。容姿は美人というほどでもないけれど、シコメというわけでもない。そして小生に近寄ってきて、「実はコロナで失業しているところでして、ちょっとだけ援助してもらえませんか」とささやいた。アクセントがいささかカタコトっぽいので、中国系かなと思う。
国籍なんてどうでもよく、ラブホ前での援助の申し込みである。それがどういう意味なのかは、かなり鈍感な小生であっても理解はできる。しかし、肝心の所持金が3000円くらいしかないのだ。彼女の希望額を知らないが、3000円じゃ金額交渉すること自体が失礼というものだろう。コロナ云々という理由を詮索するのも無意味である。「ごめんねえ」と伝え、軽く手を振って別れることにした。彼女ももう少しがんばっていれば、上客にあたるかもしれない。
小生は道徳的な人間ではないので、こういう援助を求める女性を批判するつもりはない。また、こうした小生の態度が批判されても、聞き入れる気も起きない。右から左に聞き流すだけである。90年代に女子高生の援助交際(という名の売春)が大流行した。当時の論調に、彼女らを買う男の方が悪いというものがあった。そうした面もあるものの、しかし、売買の主体があくまでも女子高生の側にあるのは明白だ。強制的に性奴隷とされたわけではない。女子高生が主体的に自身の身体を売春しているわけである。これには、当時のフェミニズムも困ってしまった。それまでの理論の枠組みでは説明できない状況になってしまったからである。
2000年代の半ばくらいだったと思うが、元援助交際少女に話を聞く機会があった。彼女は当時、女子高に通っていたらしい。話を聞いたときは某女子大の大学院生であった。それで、なんで売春していたんですかという小生の質問への答えは「だって、クラスのみんながやっていたんですよ」とのこと。そんなにお金がほしかったんですかという次の質問には「援助交際しているクラスメイトが、ブランドもののバッグを持っているんですよ。それが悔しくて、私もほしいから援助交際をしていました。だから、大人と一緒なんですよ。ほしいものや生活必需品を買わなければならないから、それでお金を稼ぐために働くわけですよね。女子高生の普通のアルバイト代なんてたいしたことがないんだから、だったら、もっと稼げる援助交際ということになるんです」。
フーン、そういうものなのか(なあ?)といまいち噛みあわない会話を彼女としながら、岡崎京子氏のマンガ『ピンク』を思い起こしたんだけれど、その彼女にしてみれば小生の質問に売春行為を断罪するような匂いを感じたのかもしれない。それにそもそも、彼女にしてみれば、元援助交際少女という位置づけから話を聞かれるのは、スティグマの桎梏に捕らわれ続けていることになる。そのスティグマにこだわって質問している小生はただのスケベ親父ということになり、胸襟を開いて話すべき対象とは認知できないことだろう。
さらにはより本質的な問題として、小生の場合、女性に話を聞くのが苦手なのだ。これまで、仕事上ほかさまざまな場で他人さまからいろいろなお話をうかがってきたものの、女性相手につっこんだ質問をすると相手が露骨に不愉快を示されることが多い。要するに、小生には女心が理解できていないということだろう。このように記すと、一昔前は、女心なんてものはジェンダー秩序に基づいた男の側の勝手な妄想であるとか、LGBTのことが視界に入っているのかなんて批判がすぐにでも出てきたものであるが、さすがにそういうファナティックなもの言いは落ち着いたようである。なによりだ。小生など雅な心持が理解できない、ただの山猿にすぎない。センズリを覚えたら死ぬまでセンズリし続ける種族である。そんなものに女心なんて高尚なものがわかるわけがない。
女心と秋の空は置いといて、小生が会社に着いて作業をしていたら、午後、手持ちの資料をスキャンしたいとE氏がご来社される。その前にR社から電話があり、某書の装丁を小生の知っているプロにお願いしたいとのこと。そこで近くのT氏に電話。こういう依頼なんですけどと小生が述べると、Tさん「とにかくそっちに行きますよ」とのこと。Tさんが見えたので、依頼の概要を説明。すると「R社の東京事務所の入っているビルにあるS社にさっき行ってきたとこなんだよ」とTさん。アラ、アラ。そこでS社が現在どんな状況なのかをうかがうことになるのだけれど、これがまたEさんともども爆笑につぐ爆笑話。
S社社長はとにかく顔の広い人であちこちで可愛がられてはいるけれど、経理面が弱すぎてなにもかもがドンブリ。おかげで現在●●●●ほどの負債を抱えている。手形・小切手を扱っていたら、すでに不渡りを出していたことだろう。「そんなんでもまだやっているんだから、ぼくたちもまだ修行が足りないよねえ」と明るい笑顔でTさんは毒を吐く。ここでS社とは、間違っても新潮社のことであるわけがない。

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1 コメント

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Unknown (淳の字)
2021-10-24 09:01:52
仮に軍資金潤沢でも、もうタタナイだろう。おじいちゃん。3000円で肩を揉んでもらえばよかったな。
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