毎週金曜日午後
アンヌが息子の
ピアノレッスンに行くのに
この道を通るのは
町中の誰もが知るところ
夫の経営する工場と会社で
成り立っているこの町
10歳に満たない息子との散歩は
彼女の気晴らし
ピアノ教師に反抗する息子に
ひそかにエールを送るのは
彼女の憂さ晴らし
ある日 港のカフェで
殺人現場に出会わす
自分が撃った女を
血まみれになりながら掻き抱く男
翌日 彼女は
カフェに行き 葡萄酒を飲む
カウンターの向こうにいた若い男が
前日の殺人について話しかける
二人は不倫関係で
彼女は彼に殺されたかった と
青年はアンヌの夫の工場の元従業員で
招かれて その家に行ったことがあり
翌日も その翌々日も
アンヌはカフェに行き
その青年と 殺人事件について語り合う
男は殺したがっていたので
女はそれに応じた ・・・
アンヌの葡萄酒は一杯づつ
多くなり
カウンターの上に置かれた
二人の手の距離は
会うたびに 近くなり
重なり
口づけ
「モデラート・カンタービレ」
その意味を何回教えられても
覚えようとしなかった息子の
ピアノレッスンの付き添いを断られたアンヌは
この日 カフェを出るとき
青年に殺されたかったのだ
青年も
それに気づいていたのだが
「モデラート・カンタービレ」
普通の速さで 歌うように
そんな毎日だけだなんて
by 風呼
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