「あの子の部屋の壁には
穴があいているの」
私立の中学に進学
大学受験に挑戦中の息子を持つ
母親が言った
「私は本人が良ければ
別に大学なんてどこでも良いのだけれど
主人がねぇ ・・・」
ご主人は 小学生の彼の
塾の送り迎えを積極的に行っていたそうだ
そこそこの 第二志望の
中高一貫の進学校に入学
中学までは良かった
ずる休みを繰り返しても トップを守っていた
学校は 成績さえよければ
余り生徒に干渉はしない
父親の期待は いや増すのに
成績はどんどん落ちていき
夜中に壁を叩き殴る音が響き
第一志望校の受験に失敗
一浪の後
少し離れたコンビニでバイトをしている
しゃれた服装で歩いていた
きっと私立のK大にでも受かったのだろう
教育熱心で有名な家だったので
人々の注目度も大きく 噂が先走った
実は彼は二浪中だった
三度目のセンター試験がま近になった
1月10日、小雪のちらつく未明
彼は自室で
高校の制服のネクタイで
首を吊って死んだ
小学生の時から
同級生や 先生までを馬鹿にしていた
彼は 何に負けたのだろう
「私は別に T大でなくても
よかったのよ」
壁に開いた 無数の穴を見つめ
涙もなく 母親は呟く
by 風呼
夢の中で
父親の仕事の都合で
北は北海道から 南は九州まで
日本国中いろんな処に住んだ
幸いどんな土地にも馴染み
その地での生活を楽しんだ
日本国中に友達がいる
休みの日 一日中寝ていると
よく 昔住んでいた場所の夢を見る
そんな時決まって携帯が鳴る
『おい 水臭いぜ
さっき◯◯小路を歩いていたろう
こっちへ来たんなら来たって
連絡くらいくれたっていいだろう』
そうだ僕は夢の中で
◯◯小路を歩いていた
『なに寝ぼけてるんだよ
人違いだろう
オレは東京だよ』
メールを返しながら
僕はぶるっと身震いをする
そうなんだ 最近 僕は変だ
この間なんか 病院で危篤状態の
隣の小父さんが
玄関前で じっと自分の家を
見上げているのを見てしまったし
by 風呼