ピカソ・マニマニア

ピカソの91年を 詩にしました。
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割烹 ” 田中 ” にて

2022-07-27 08:11:45 | 物語詩

四国の
ターミナル駅とは思えぬ
鄙びた町で

旅慣れた彼は
タブレットを開き
今夜の食事処を探す

この町は二度目だ
二度とも日曜で
飲食店の休みが多い

前回の店はまあまあだったが
敢えてその店を外す

最近はネット上の情報だけで
その店のランクが
大まか分かるようになっている

割烹”田中”
屋号は文句ないが
料理はどうだろう

電話してみると
まだ注文できるという

時間も時間だし
多少の不安はあったが
予約した

カウンターが十席ほど
板の間の座席で十席ほど

共に80才前後の
板さんとおかみさんだけの
居酒屋風

先客への注文の取り方が
「えっ! えっ!」
何度も聞き返したあげく
銘柄が違う日本酒が出てきた

やっぱり=
不安が的中

一品料理は止めて
煮魚定職にした

「鯛のかぶと煮とオコゼがあります」

「オコゼでお願いします」

板さんとおかみさんが同時に
「ちょっと時間がかかります」


色艶のいい小ぶりの猫が
店内を横切って
すばやく 裏の窓から出て行った


自分が嫌われるなんて
きっと人生で一度も思ったことがないような
おかみさんが にこにこしながら
「これに時間がかかったんですよ」

指さされた大きな器の蓋を開けると
大きな鯛の頭(のみ)があった

客の注文は あい変わらず
聞き返しても間違えるおかみさん
黙って箸をつけたが
まずい!!
お新香も味噌汁もまずい!
白米だけは美味しかったので
ああ、定食にして良かった

志村けんの
あんだって?おばあさんを
思い出した
レトロな
旅の一夜の出来事でした


    by  風呼







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しゃべり続ける人

2020-07-08 15:13:50 | 物語詩

 

一度は管理職についたが

どうにも居心地が悪く心を病みそうになったので

現場に戻してもらい

生涯一教師として 勤め終えた

 

定年後は 不登校児のための高校で教鞭をとったので

小学一年生から 高校三年まで教えたのが

彼の自慢だ

 

自ら作詞作曲したオペレッタを

生徒たちに 文化祭で上演させたりと

教え子への情熱を語る時

合いの手をいれる間もない

 

そんな彼もとうとう教師をリタイアすることになり

教育への献身ぶりのひけらかしも 薄らいでいくようだった

 

突然 関西の通信制の大学の3年に編入学

学芸員の資格をとるそうだ

ついては 早速スクーリングに関西にいくという

 

他人に口を挟ませない

立て続けに喋るひとは

面と向かって訊かれたくない事があるそうな

 

彼の長い教師生活にも あった

触れられたくない 汚点

 

 

 

     by   風呼       

 

 

 

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ごろごろ禍

2020-07-06 14:24:35 | 物語詩

 

あら ゆうべ

薬を飲むのを忘れたわ

みつえさんの独り言

 

10年前 定年直後 はやばやと逝った

夫の仏壇のお供えを替え忘れるのと

降圧剤の飲み損ないと

どっちの回数が多いやら

 

毎朝 テレビの番組表をチェックしているので

曜日は間違えないのだが

時々日付が来週だ

 

今朝はやけにめまいがする

コロナ対応で 

とうとうヤキが回ったか と覚悟したが

なんだ 薬を飲み忘れただけなのか

 

いままで あんまり気にしたことはなかったけれど

効いているのね

この薬

 

みつえさん 読みかけの本を抱え

薬が効くまで ごろごろ と

 

 

 

    by  風呼       

 

 

 

 

 

 

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1000円の借用書

2020-07-05 21:58:48 | 物語詩

 

小さい時から 

キリスト教に親しんできたちかこさんは

60才を前に 洗礼を受けた

 

それから10余年

毎日曜日は 教会へ

 

日曜礼拝に来る人はどの人も笑顔で

ちかこさんの頬もほころびます

 

ある日教会からの帰りしなに

信者で 一人暮らしの80才を過ぎた女性に 

 細かいお金の持ち合わせがないので

1000円を貸してほしいと頼まれた

 

いいですよ と 軽く応じたら

ご丁寧にも借用書を書いてくれた

 

翌週 1000円は返してもらった が 

それからもちょくちょく1000円を用立てた

そのたびに 借用書を貰った

 

1000円の返却が

翌週でないこともあったが

自分も 貰った借用書を失くしたりしたので

ちかこさんは気にもしていなかった

 

 

その年の暮れ バザーの用意を信者でしていると

彼女がちかこさんに近づいてきて囁いた

 

借用書を書きますので

明日のバザーの日に 7万円を貸して下さらないかしら

 

 

     by   風呼       

 

 

 

 

 

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丘の上の家

2020-07-04 13:50:49 | 物語詩

 

彼女とは カルチャーで知り合った

 

ちょっとした一日限りのレクチャーで

たまたま隣合わせの席に座った

講義後にお茶でもご一緒にということになり

連絡先を交換

私が海辺の町に住んでいると知り

憧れの場所なので是非お邪魔したいということになった

 

きっちり一週間後に彼女はやってきた

先週の講義開始時間と同じ1時半だった

ケーキを二個と 古いが磨き上げられたカップ掛けを持参して

 

翌週も 翌々週も そのまた次の週もやってきた

ケーキ二個と ちょっとしたアンティークの小物を土産に

 

天気のいい日には 湘南の海が一望出来る 眺めのいい丘の上まで散歩した

彼女は丘の上が気に入り 時々旦那様も連れてくるようになった

そんな時 持参するケーキは三個に増えた

 

一年もたったころ 私の夫が閑職になり

その曜日は家にいるようになったので

訪問の日を変えてほしいと彼女に頼んだ

 

実は彼女は渋谷で夫婦でアンティーク店を経営していて

この日は休店日、他の日は夫婦で来れないという

 

持参のケーキは4個に増えたが

暫くして夫の堪忍袋が破れ 二人に暴言を吐くようになった

 

夫が二人に失礼なので もう来ないで欲しいと彼女に言うと

あら、ちっとも気にしていませんよと 答えるのだった

 

私は とにかくこの日に大事な用事を入れることにして

どうにか一年余りに及んだ 二人の来訪を防ぐことに成功した

わけの分からない 私にはごみとしか思えないがらくたが

これ以上増えないのでほっともした

 

そして半年ぐらいして 別の曜日に

二人がやってきた

 

あの丘の上に地下室付きの家を見つけたので 買ったという

コンクリート作りでちょっとモダンだった

地下室は 店の商品の倉庫代わりに使えるし

 

リフォームしたので 遊びに来てほしい

ちなみに店の休店日は 今日の曜日に変えたと

 

ちょうど一週間後のこの曜日に

私はケーキを三個と 深紅のバラの花束を持って

彼女の家に行った

 

外観はもとより 室内が素晴らしかった

磨き上げられたアンティークのテーブル

緞帳のようなカーテン

そこここに置かれた壺や絵画

とても人が暮らしているようには思えない

 

見るに

ご主人は作業ズボンで庭の草木の手入れ

彼女はぞうきんを片手のエプロン姿

 

聞けば

住宅情報社が しょっちゅう取材に来て

写真を撮っていくそうだ

 

自慢の地下室だが

じめじめと湿気に溢れたなかに

積み上げられた商品と思しきものの反対に

現在使用中と思われる ベッドが置いてある

電気も水道まで引いてある

彼女たちは この地下室で寝起きをしているのか

 

ほうほうの体で退散し

再三のお誘いにはもう乗らなかったが

ほどなくして

彼女はころころと曜日を変える休店日に

ケーキを二個もって 我が家に来るようになった

 

休店日、 つまり彼女が我が家にやってくる日

ご主人は 解体する古家に 目ぼしいものはないか

探しに行っているのだそうだ

 

丘の家の彼女の家は駅まで遠く 私の家の前を

毎日ご主人の送迎時に通る

 

駐車場は道路に面していて

我家の車がへこんでいる時などには

「大丈夫?」と インターフォン越しに

声もかけたりしてくれる のだ。

 

 

 

 

 

     by  風呼      

 

 

 

 

 

 

 

 

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あべこべ王国

2017-01-27 08:50:32 | 物語詩

 

新しい 王さまは

 

自国の不都合は 他民族のせいにして

「出ていけ~ 」 を繰り返し

 

自国に好都合な 企業には

「戻ってこい~ 」 と威嚇する

 

 

国務長官に任命しは

敵国と合弁会社を立ち上げた 石油長者

 

エネルギー省の仕事が 核管理と知らず

廃止運動をしていた御仁が 長官に

 

安労働賃金の ハンバーガーチェーン店経営者を

労働長官

 

人種差別撤廃の 公民権運動に

反対してきた人が 司法長官で

 

宗教に触れない 公立学校撤廃論者が

教育長官 !

 

証券取引所見張り役の

財務長官には 大手証券会社オーナーを

 

国民総健康保険の 保健福祉長官は

昨日まで 撤廃を唱えていた・・・

 

 

揃って大富豪

反対論者ばかりを 長に据え

実情を把握させ 本意を翻させようとしているのか

 

 

王さま 何を考えているやら

何も考えていないやら

 

 

マイナス 乗じて

プラスに 転ず ?

 

 

はてさて 誰も予知せぬ 化学変化で

奇跡が起きてしまうのか

 

 

王さま

隣国との境に

大きな壁も作るそう

  それは自国の雇用を生み出し

隣国のお金で

 

 

海の向こうの 同盟国も

本音を言い始めだし

 

 

 

為政者が 本音を振りかざしていいのだろうか

 

  (王さまの目の周りが白いのは サングラスを掛けて 日焼けスプレーをかけるから シーッ!!)

 

 

      風呼  でした      

 

 

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誰かの 有名人

2015-12-06 00:45:31 | 物語詩

 

 

都心の オフィス街

 

とあるビルの玄関口で

仲間と談笑していた

背広姿も初々しい若者に

挨拶された

 

かなり私を知っている

そんな目で

 

ある時は

駅ビルのエレベーターで

私の後ろから出ていく

やはり同じ年頃の若者に

親しげに目礼された

 

エレベーターを降りる彼のために

”開” ボタンを押し続けている訳でもないのに

 

どうも 私は

大学を卒業する位の年頃の若者には

ちょっと知られているらしい

 

そういえばさっき

パン屋さんで 

やっぱり私を知っているかのように

「おかげさまで 内定をもらいました」

と レジの女の子にそっと囁かれた

 

? ? ?

 

わたし

ただの 主婦なんですけど

 

 

 

       by  風呼                

 

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ナヲコ  (5) 昼休み

2014-07-03 14:52:14 | 物語詩

 

 

一学年8クラスあった高校では

毎年クラス替えがあったが

ナヲコと私は3年間同じクラスだった

 

なのにナヲコと一緒に昼食を摂った記憶は

ほとんどない

 

毎日弁当を持って行った私に比べ

ナヲコは購買のパンで

始めは一個は食べていたのだが

そのうちそれも抜くようになった

 

「太っているから と 昼食代は貯めるの」

が 理由だった

 

多分 朝も食べていなかったと思う

 

ナヲコは だんだんスマートになっていき

女子 憧れの 体重45キロを切った

 

ナヲコは ますます美しく

モテ度は 東の横綱だった

 

交際の申し込みを断るのに 

頼まれて 校舎の屋上についていった事がある

 

振られた相手の腹いせに 私が罵られ 

悔し涙が流れた

 

 

        by   風呼                

 

 

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ナヲコ  (4) 五月のダイアモンド

2014-07-01 23:56:56 | 物語詩

 

五月は素敵だ。

 

いきなり真夏日から始まり

雹が降ったり 台風のような雨風があったり

まるでティーンエイジど真ん中の をとめの心

 

空に 新緑のレースのカーテンを引いている

桜の若葉の間から 射し洩れる陽光は

無数のダイアモンドの煌めきのよう

とびっきりのお気に入り

 

そんな五月のダイアモンドがきらきらする日

ナヲコと公園のベンチに腰かけていた

話題は たわいもない クラスメートの噂

 

遠くで 売出し中の歌手が

カメラを前に ポーズをとっていた

 

ナヲコからは 見えていなかった

 

「わたし、 妾の子なの」

一瞬の沈黙の後 ナヲコが 話し始めた

 

「母は 元神楽坂の置屋の娘で

家業が左前になった時に 芸者になった」

 

「どうして家は お父さんが週に一度しか

帰ってこないのかって 小さいときは思ってた」

 

妾 めかけ?

15才の私にはすぐにはピンとこなかった

 

ふと目をあげると

撮影が終わったらしく 件の歌手が 

こっちに歩いてきた

 

私はとっさに 国語のノートを取り出し

最終ページを開き ボールペンを挟んで

その歌手に駆け寄った

 

泣いているナヲコを残して

 

別に その歌手のファンでもないのに

 

 

五月は残酷だ

車のフロントガラスにひびが入るほど

思いがけない大きさの氷の塊を降らせたりする

 

 

         by   風呼                

 

 

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ナヲコ  (3) 名画座

2014-06-30 16:06:13 | 物語詩

 

木曜日の6時限の美術の時間は

よく 休講になった

 

教師は高齢で 有名な彫刻家という事で

制作に没頭すると 予定は否定になるらしかった

 

彼にとっては都立の高校で教えるのは

ボランティアにすぎなかったのだ

 

出席は全くとらなかったので

授業をエスケイプする者も多かったが

課題が出来上がるまで閉門まで居残ってもよかったので

そのうち皆んな創作を楽しむようになった

 

そう 木曜日の6時限目が休講だとわかると

ナヲコと私は図書室へ走り 朝刊をチェック

急いで名画座へと向かうのだった

 

そこでは 必ずと云っていいほど

クラスの誰かに出会っていた

 

現在と違って 映画館は上映ごとの入れ替えもなく

立ち見は当たり前の時代

 

たとえ込み合っていても ナヲコは

「すみません、すみません・・・」 と

上手に人を押しのけて 真ん中の通路に座り

次の回の上映には 席をゲットするのだ

 

結末が先にわかるのが難点だったが

私はナヲコの後を付いていけばよかった

 

ある時 若い男性が

「可愛いから 通しちゃうよな」

と言うのを聞いた

 

そうか ナヲコだから許されるのか

 

           

 

       by  風呼                 

 

 

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ナヲコ  (2) ポートレート

2014-06-29 00:30:38 | 物語詩

 

 

ここに一枚の写真がある

 

入学したばかりのナヲコと私

教室の窓際で笑っている

 

身長も体重も ほとんど同じ

50メートル走の タイムも同じ

 

なのに ナヲコの方がずっと魅力的なのは

さりげなくシャツの第二ボタンまで外すというセンス

 

私はと云うと きっちり第一ボタンまで留めている

 

はた目には 私はナヲコの引き立て役としか映っていなかっただろう

自分の姿は見えないのだし 気付きもしなかったが

 

垢抜けて 誰からも好感をもたれていたナヲコと

トイレにも一緒に行く仲良しだというのが私はとても嬉しかった

 

 

 

         by   風呼            

 

 

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ナヲコ  (1)

2014-06-28 01:09:45 | 物語詩

 

 

青春、 とりわけ高校時代は

人生で一番 濃い三年間だ

 

学校という機織り機から織り成すタペストリーは

ひとり一人を中心に 生徒の数だけあり

一枚として同じものはなく

 

それは自分たちが卒業しても

学校が存在する限り 延々と続き

少しづつ 模様の傾向が変化して

 

同じ校舎なのに 訪れるたびに

自分の思い出が遠のいていく

 

 

ナヲコと初めて会ったのは

入学式の日

同じクラスで 席が隣どおし

ふっと 横を向いたら ナヲコがいて

とびっきりの笑顔で

すぐに一番の仲良しになった

 

                  

 

 

      by  風呼                

    

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13番ホーム

2014-01-21 00:35:18 | 物語詩

 

ふと行く先を変えた

 

反対側のホームに到着した

特急電車に乗りたくなって

 

小一時間の乗車中

川を二つ越えて 終点に着いた

 

その間 そんな事しか考えていなかった

 

気が付くと 海の見えるその駅の 

13番ホームに立っていた

 

待てども待てども

電車は来ない

 

13番ホームは とっくに廃線になっていたのだ

 

ペンキの剥げた 古いベンチに腰かけて

遠く沖から寄せてくる波を見ていると

何故だか 涙が滲んできた

 

ただの気紛れと 

そんな自分に呆れていたが

 

暫くたって

むかし昔 恋い焦がれたひとが

片思いだと知っていたから

距離を置いていたひとが

 

あの日 その街で死んだと

風のうわさで聞いた

 

廃線の13番ホームから

きっと彼は旅立って行ったのだ

 

あの日 見えない列車を 私は

見送っていたのだ

 

 

 

         by  風呼              

 

   

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金の耳飾り

2012-04-19 23:33:50 | 物語詩

 

 

レイ・ブライアント・トリオ演奏 ”ゴールデンイアリング” を聴きながら。

 

 

   金の耳飾り

 

燃えるかがり火に

深い皺を映し

ジプシーの女がつぶやいた

 

金の耳飾りは

恋を成就させる

 

乾いた音のする

金の耳飾りをつけて

私はまじなう

ジプシーの女のように

 

暗い食卓の皿の上

マッチをかがり火に見立て

 

ゆらゆら首を振る

耳元でカサカサと音がする

 

照らしてよ 私の耳飾りを 

小さな炎 燃え尽きる前に

 

 

        風呼   でした           

 

     

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空き巣ごっこ

2012-04-04 11:16:00 | 物語詩

 

 

以前住んでいた部屋に行ってみた。

 

 

   空き巣ごっこ

 

マンションの最上階 眺めのいいのがとりえ

ここに 一年前まで住んでいた

 

廊下に面した窓の葦簀も 触れるとぱらぱらと崩れそう

そのままに

郵便受けにはテープが貼られ 誰も住んでいない気配

 

もしかして

 

まだ持っていた部屋の鍵を そっと差し込んでみると

カチャ 小さな音を立てた

 

一人暮らしには 広めの

この部屋が好きだった

 

音の響く 家具のない空間

忍び足で ベランダからの景色を写し

 

きっとまた此処に戻ってこれると 信じる 

 

そうして 盗んだのは この部屋にまだ残っている私の気配

 

多すぎて 運べるかしら

 

 

 

大切なものは いつも失くしてから気付く。

        風呼    でした          

 

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