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ポートレイト・オブ・ビル・エヴァンス/various artists

2005年03月19日 23時22分10秒 | JAZZ
 イリアーヌ・エリアス、デイブ・グルーシン、ハービー・ハンコック、ボブ・ジェームス、ブラッド・メルトーの5人のピアニストがそれぞれ2曲づつビル・エバンスゆかりの楽曲を弾いたトリビュート・アルバム。ビル・エバンスへのトリビュート物はマイルス同様それこそ沢山出ていて、これもいかにも日本人が喜びそうなストイックなジャケのデザインからして「あぁ、またかい」という感じがないでもないのだが、なにしろ集合しているメンツが豪華なので思わず購入してしまった。まず、アルバムの構成が各人2曲づつ担当というのがいい。1曲ではなく2曲となれば参加アーティストもそれなりにコンセプトが必要だろうし、露出度も高いから、アルバムにはそこはかとない緊張感とある種絞りこんだ充実感のようなものが感じられると思うからだ。
 では参加メンバーについて、簡単にコメントしてみたい。


・ボブ・ジェームス
 アルバム冒頭に収録されたのは、曲はかの有名な「ナーディス」で、これをリチャード・ボナとビリー・キリソンのトリオで演奏している。ボブ・ジェームスのピアノ・トリオといえば数年前に、クリスチャン・マクブライドと組んだアルバムがあったけれど、あれがピアノ・トリオとしてはどうも煮えくらない感じだったのに比べると、この演奏はその時より数段パワフルな演奏だ。もちろんやっているのがボブ・ジェームスだからして、フュージョン的な仕掛けやポップさが出てくるところだってもちろんあるのだけれど、これだけとパワフルだと、「おいおい、やるじゃねぇか」などといってみたくなる。
 もう1つの楽曲はオリジナルで、「カインド・オブ・ブルー」あたりのフォーマットを踏襲した2管編成の非常にモーダルな、かつ味わい深い演奏、アレンジも演奏も楽しんでやっている風情がある。いつも自分の枠から出ようとしないボブ・ジェームスだが、今回のおもしろさは他流試合だからこそ出た味といったところか。

・ハービー・ハンコック
 ハービー・ハンコックはいわゆる正統派モダン・ジャズをやる顔と、コンテンポラリーなブラック・ミュージックをクリエイトする二つ顔を持つと思うのだが、このアルバムでは2曲目の「ゴッタ・リズム」が後者。アルバム掉尾を飾るピアノ・ソロである「ゴースト・ストーリー」は前者という形で使い分けている。「ゴッタ・リズム」は、サンプリングが多用され、錯綜したファンキーなリズムにハンコックのピアノが乗るパターンで、マイケル・コリーナ(アルバムの総合プロデューサー)とハンコックが組めば、「やっぱこうなるわなぁ」的なモダン・ファンクでビル・エバンスのビの字もない音楽だ。「ゴースト・ストーリー」はショパンの曲にインスパイアされたインプロらしく、ショパンというよりスクリャービンみたいな宇宙的、耽美的な雰囲気をベースに、ちょいとゴスペル的な隠し味をまぶしたような音楽になっている。なんでもコンセプトはエバンスのそれを引き継いだものらしいけど、出来上がった世界はハンコック以外の何者でもないってところだ。

・イリアーヌ・エリアス
 ジャック・ディ・ジョネット、マーク・ジョンソンというエバンス門下と組んだトリオ演奏。アルバム中ではもっともエバンス・トリビュートっぽいというか、一番、エバンスっぽい演奏となっている。収録曲も「降っても晴れても」と「イフ・ユー・クッド・シー・ミー・ナウ」と格好の曲を選んでいて、もうすっかり気分はビル・エバンスという感じ。このアルバムに、彼女のかわりにアンディ・ラバーンとかリッチー・バイラークあたりが入っていたら、やっぱりこういう演奏になっていたんだと思う。
 とはいえ、ある種の開放感みたいなもの、そして音楽を今風な感覚で流動的に動かしていくあたりは、どっちかといえばキース・ジャレットにも近いものがあるし、時にハンコックっぽい手癖を披露したりするのはいかにもイリアーヌだなぁとも思ったりもするのだけれど。

・デイブ・グルーシン
 ビル・エバンスとボブ・ジェームスは意外とはいえ、未だ探せば接点が見つけられそうだが、デイブ・グルーシンとはちょっと世界が違い過ぎやしないか。しかも演奏しているが「ワルツ・フォー・デイビー」と「エミリー」とくれば、どうしようもなくGRP的なゴージャス&ソフィスティケーデッドな演奏になるは必至と思いきや、これがななかなかいい。収録された2曲はいずれもティム・ケネディーとデイブ・ウェックルのトリオで、まぁ、甘口であるのは間違いないとしても、なかなかどうしてピアノ・トリオの勘所を押さえた音楽的感興溢れる演奏を出してくるあたりは老獪そのもの。ヘンリー・マンシーニのアルバムでも、この人のスタンダードなジャズ演奏は意外なほど味があって良かったけれど、これはもっといい出来だと思う。それにしても、チック・コリアのバンドで若き手数王だったウェックルがこんなに枯れたプレイをするとはちょいと意外だな。

・ブラッド・メルドー
 売れっ子、メルドーは2曲ともピアノ・ソロ。さすが世代的に一番若いだけあって、演奏も豊富なジャズ的語彙とテクニックを屈託なく使い、さらさらと流れるように演奏している。この淡彩さというか軽さはある意味でニュー・エイジ的な感じさせたりもするが、まぁ、1970年生まれという世代なのだろう。メルドーといえば、そのリリシズムからビル・エバンスと比較されることも多いようだが、彼のそれはエバンスのような研ぎ澄まされたものとは違い、基本的にはウォームなものだと思う。あと、1曲ならソロでもいいが、2曲入れるなら、残り1曲はレギュラーのトリオを入れても良かったのではないか。(2003年11月24日)
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3 コメント

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今晩は (nao)
2005-03-23 02:07:42
クラシックの心得がある人が書くレビューは流石に一味違いますね。

楽しく読ませていただきました。

イリアーヌはキース・ジャレットのフォロアーの第一世代という気がします。

彼女のクロスカレントというアルバムとても好きです。
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イリアーヌ (webern)
2005-03-23 11:42:00
 nao様



コメントありがとうございます。イリアーヌはけっこう好きです。ただ、「クロスカレント」って聴いたことないです。デンオン時代のアルバムでしょうか?。私が好きになったのはディジョネット、ゴメスを擁したピアノ・トリオによるガーシュウィン集あたりからでなんですが、このアルバムあたりだと「キース・ジャレット・ミーツ・ジョビン」みたいなところもあって、フュージョンの人というイメージが大分補正されました。もう大分前の話ですが....。



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イリアーヌ (nao)
2005-03-23 16:11:55
イリアーヌは彼女がブルーノートジャズフェスで来日し、山中湖でマークジョンソン、ピーターアースキンのトリオで演奏したときの事が印象的です。ちょうど日が暮れかかり、夕凪が立ち始めたころ、タンクトップのドレスにブロンドの髪をなびかせながらジョビンのアグアドベベールをあの独特のアレンジで演奏し始めました。

素晴らしい瞬間で今でも記憶に残っています。

クロスカレントはその後の彼女のアルバムとはちょっと趣向が違うものだと思います。レーベルはブルーノートで彼女の2枚目です。バドパウエルのハルシネーションなどを演奏したりカンパリソーダというオリジナルのラテンの曲を演奏しています。

ちなみにこれ以外のアルバムは全部手放しました。
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