■ 安部公房の短編集『水中都市・デンドロカカリヤ』(新潮文庫1973年発行、1993年25刷)再読。1993年に読んだのであれば31年ぶりの再読ということになる。
表題作の『水中都市』についてカバー裏面の本書紹介文から引く。**ある日突然現れた父親と名のる男が、奇怪な魚に生れ変り、それまで何の変哲も無かった街が水中の世界に変ってゆく(後略)**
安部公房の代表作『箱男』が映画化され、今月(8月)23日に公開される。もし、この『水中都市』も映画化されれば、描かれているあるシーンの映像は直視できないと思う。そのくらいホラー。
上の紹介文は次のように結ばれている。**人間存在の不安感を浮び上がらせた初期短編11編を収録。そう、既に書いたけれど、人間が存在することとはどういうことなのかという問いかけ、これは安部公房がずっと問い続けたテーマだった。
収録作品では『手』が印象に残った。主人公のおれはどんな人物なのか、と思って読み進めると、かつて伝書鳩だったということが判る。飼い主は鳩班の兵隊だった。戦争が終って、その鳩は見世物小屋でマジックに使われ、その後、はく製になる。そして「平和の鳩」というブロンズ像になり、それから秘密工場に運ばれて溶解され、別の工場に運ばれて様々なものに加工され、一部はピストルの弾になる。おれをつめ込んだピストルが狙ったのは・・・。展開の意外性。
『プルートーのわな』はブラックなイソップ、という感じ。ねことねずみの物語。あまり安部公房的ではないとおもうけれど、おもしろい。
『闖入者』はある日突然、一人暮らしの男の部屋に見知らぬ家族がやってきて、あたかも自分たちの部屋であるかのように居座り続ける。男を小国、家族を大国に、あるいは家族を日本に置き換えれば、侵略戦争の理不尽さを描いた作品とも取れるかもしれない。いや、暗喩的な表現だと解さない方が良いのかもしれない。ドナルド・キーンが解説で**説明できないところにこそ安部文学の魅力が籠っているのである。**(268頁)と書いているように。
手元にある安部公房の作品リスト
新潮文庫23冊 (文庫発行順 戯曲作品は手元にない。2024年3月以降に再読した作品を赤色表示する。*印の5作品は絶版)
今年(2024年)中に読み終えるという計画でスタートした安部公房作品再読。8月12日現在14冊読了。残り9冊。月2冊のペースで年内に読了できる。
『他人の顔』1968年12月
『壁』1969年5月
『けものたちは故郷をめざす』1970年5月
『飢餓同盟』1970年9月
『第四間氷期』1970年11月
『水中都市・デンドロカカリヤ』1973年7月
『無関係な死・時の壁』1974年5月
『R62号の発明・鉛の卵』1974年8月
『石の眼』1975年1月*
『終りし道の標べに』1975年8月*
『人間そっくり』1976年4月
『夢の逃亡』1977年10月*
『燃えつきた地図』1980年1月
『砂の女』1981年2月
『箱男』1982年10月
『密会』1983年5月
『笑う月』1984年7月
『カーブの向う・ユープケッチャ』1988年12月*
『方舟さくら丸』1990年10月
『死に急ぐ鯨たち』1991年1月*
『カンガルー・ノート』1995年2月
『飛ぶ男』2024年3月
『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』2024年4月