透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

母の愛

2013-11-13 | A あれこれ

 『秋葉原事件』中島岳志/朝日文庫 を読み終えた。

2008年6月に秋葉原で死傷者17人を出した無差別殺傷事件を引き起こした若者の人生を追ったノンフィクション。

現実世界では故郷を捨て、友だちを捨て、ネットの掲示板では全く無視される存在に。現実世界でもネット世界でも居場所を失った若者。根なし草の寂しさ・・・。存在証明の欲求。

彼の人生を辿っていくと、母親の厳しすぎる教育、生活への介入という不幸に行きつく。

**極端でかつ理不尽と思える母の叱責に黙って従った。理由を説明されず、ただうまくできないときには罰を与えられる。抵抗すればするほど、その罰は厳しくなる。(中略) 彼は次第に、他者に対しては言葉で説明を求めたり、じっくりと相手を説得するという姿勢を失っていく。**(34頁) 

ところで、同じ著者の『岩波茂雄』は岩波書店の創業者・岩波茂雄の評伝だが、その中に岩波が40日間も野尻湖の弁天島で過ごしたことが書かれている。将来の方向性を見失い、悲観に明け暮れ、煩悶する日々。孤独とともに自然に囲まれた生活を望んでのことだった。

島に渡って10日が過ぎた日、嵐の中を母親がずぶ濡れで島に渡ってくる。母と5時間余り語り合った岩波は自死という選択肢を捨てる。母の愛が岩波を救ったのだ。

秋葉原事件を起こした若者の母と岩波茂雄の母・・・。

岩波のこの出来事を読んだ時、自分の母親のことを思い出して涙があふれた。母親の愛を十分感じて育ったのは幸せだったという他ない・・・。


 


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