安曇野ちひろ美術館 (0609)
■ 風景に応答する建築
安曇野ちひろ美術館は建築全体を切妻の屋根を架けたいくつかの棟に分節してスケールを落としている(写真)。地元の人が建設途中のこの建築を見て鶏舎のようだ、と評したと聞いたことがある。それは設計者内藤さんの意図するところでもあったのだろう。
既に書いたことを繰り返すが、この美術館は安曇野の風景に歓迎されている。右から二番目のガラスのエントランス棟を見ると、その後方の山の稜線の勾配と屋根の勾配とが一致していることが分かる。おそらくこれは偶然ではなくて内藤さんが意図的にそうしたものであろう。
『ぼくが、安曇野ちひろ美術館をつくったわけ』講談社で館長の松本猛さんも **よく見ると美術館の屋根の形にぴったりの山の姿が見えます。(中略)周囲の豊かな自然を意識したところを、建物のあちこちに発見するのも美術館の楽しみ方のひとつです。** と指摘している。
この美術館の外壁(写真ではかなり白っぽく見える)は珪藻土で仕上げられているが、地元(北安曇郡松川村)の土を混入して色調を周囲に同調させているという。
風景に応答するということは、勿論このようなことのみを指すわけではないが、内藤さんの意図するところがよくわかる。
■ 繰り返しの美学
写真に写っている屋根は切妻4つの繰り返しだが、更に左側に増築された屋根が続いている。「へ型」の屋根の繰り返しが美しい。松本さんも先の本で、この架構について次のように「繰り返しの美学」を指摘している。**高いところが六メートルに達する天井には、屋根をささえる木の構造が見えている。整然と配列された登り梁は、それがずっと続いているだけで美しい。** (アンダーライン:私)