さくらの涙
■ 寅さんシリーズ第19作を観た。
「寅次郎と殿様」というサブタイトル通り、寅さんと伊予大洲16代目の当主、藤堂久宗(嵐寛寿郎)という世が世なら殿様との交流をメインに描いた作品。
藤堂久宗を演じるアラカンさんは振舞いもセリフも鞍馬天狗、いや殿様調。これが少しぎこちなく感じて面白い。演技ならすばらしい(演技だろうな)。今回のマドンナはこの藤堂久宗の息子の嫁、鞠子(真野響子)。この作品では優しく美しいマドンナと寅さんとの恋愛話にはあまり時間を割いていない。
四国は大洲(大洲にははるか昔に行ったことがあるが、なかなか風情のある街だった。*1)で殿様・久宗と知り合いになった寅さん。殿様に気に入られ、家に招かれて歓待される。殿様は末の息子と鞠子の結婚に「身分の違い」を理由に反対したことを寅さんに告白する。勘当した息子は亡くなってしまったが嫁に一目会いたい、会ったこともない嫁の鞠子を探して欲しいと寅さんに頼む。
寅さん、殿様と出会う前の日に、大洲の旅館でひとりの若い女性を見かけて、その寂しそうな様子が気になり、元気を出してもらおうと彼女の部屋に鮎料理を届けさせたことから知り合いになっていた。
とらやに帰って来た寅さん、殿様との約束を果たすべく、東京にいるという情報だけを頼りに鞠子を探そうとする。手始めに柴又で一軒一軒訪ね歩くが、徒労に終わる。寅さん疲労困憊。
寅さん映画に偶然は付き物。大洲で出会った女性がとらやを訪ねてくる。寅さん、大洲の旅館で名前を聞いていなかった、と改めて訊くと「まりこ」。殿さまに探して欲しいと頼まれていた鞠子その人だった。夫(殿様の息子)を亡くした鞠子は葛飾区の堀切、柴又の近くでひとり暮らし。
鞠子と会えることを期待して、田園調布(23作「翔んでる寅次郎」で寅さんはマドンナのひとみ(桃井かおり)が住むこの街を田園地帯だと思い込んでいた)の長男のところに来ていた殿様、とらやで鞠子と対面。このとき初めて会ったふたりが交わすことばにとらやのみんなが涙。寅さんもさくらのハンカチで涙を拭う。このシーンにぼくも涙。
大洲に帰った殿様の寅さん宛ての手紙を携えて執事の吉田(三木のり平)がとらやを訪ねてくる。まるで古文書のような文章をすらすら読む博はさすが。そこに書かれた殿様の願いは、寅さんに鞠子と結婚して欲しいというものだった。ところが鞠子は職場の同僚に結婚したい相手がいて・・・。で、寅さんお決まりの失恋。
ラスト、旅に出る寅さんが柴又駅で語ったことをさくらはとらやの家族に話す。この時、さくらの目に涙・・・。本当にさくらは兄想い。
とらやで本当の家族、いやそれ以上に心通わせて暮らす人たち。裏手の印刷工場のタコ社長だって家族の一員のようなもの。
山田洋次監督はこの作品で人と人とが心通わせることの大切さ、尊さを描いている。
大洲を流れる肱川
おはなはん通りにて *1 撮影日1980.03.28(2枚とも)
鞠子は大洲まで夫の墓参りにきて、このおはなはん通りを散歩する。テレビドラマ「おはなはん」の主題歌はさくらを演じる倍賞千恵子が歌った。
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