透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「10 男はつらいよ 寅次郎夢枕」再び

2022-01-30 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズで、いいなと思った4作品をまた観ている。既に第28作「寅次郎紙風船」(マドンナ音無美紀子)と第32作「口笛を吹く寅次郎」(マドンナ竹下景子)は観終えた。今日(30日)の午後、第10作「寅次郎夢枕」(マドンナ八千草薫)を観た。

本作には寅さんが亀戸天神でマドンナ・お千代(八千草薫)さんにプロポーズ。お千代さんOKというびっくり場面が!? 「観て止めて書く」を繰り返してその場面の台詞をメモした。ちゃんと聞き取れないところは違っているかもしれないが、次の通り。
「寅ちゃん・・・」
「なんだい」
「用があるって、なんのこと? 歌ばっかり歌ってないで話してよ」
「ちょっと言いにくいんだよなぁ、これがなぁ」
「でも、ご飯食べて、お茶飲んで、もうかれこれ4時間も経ってるのよ」
「そんなに経っちゃった? じゃ、めんどくさいから今日は打ち切りにして帰るか?」
「そんな・・・、せっかくお店を休みにして出てきたのよ」
「そうか。なんて言ったらいいもんかなぁ」

「大方察しはついてるだろ。千代ぼうは感がいいから、えぇ?」
「それは・・・、まあ、なんとなく」
「それだよ、それでいいんだよ。なんだよ、4時間かかってくたびれちゃった。まあ、千代ぼうもさ、いつまでもひとりで居られるわけじゃないんだし。あんまりぱっとした相手じゃねぇけどさ、このあたりで手打った方がいいんじゃねぇかな。どうかね」
「うん」
「いやだったら、いやでいいんだよ、こういうことは」
「いやかい?」
「ううん いやじゃないわ」
「じゃ、いいのかい」

「ずいぶん乱暴なプロポーズね、寅ちゃん」
「しかたねぇや、おれこういうこと苦手だしさ。じゃ、いいんだな」
「決まったようなもんだ。よし、そうとなりゃ、あいつに電話で知らせてやるか。(略)赤電話どこかな」
「ちょっと、寅ちゃん」
「なんだい」
「あいつって誰のこと?」
「決まってるじゃねぇか、うちの2階のインテリだよ」
「岡倉先生?」
「そうだよ」

「私、勘違いしてた」
「勘違いって誰と?」
「寅ちゃん」
「私ね、寅ちゃんと一緒にいると何だか気持ちがほっとするの。寅ちゃんと話していると、あぁ、私は生きているなぁって、そんな楽しい気持ちになるの」
「寅ちゃんとなら一緒に暮らしてもいいって、今、ふっとそう思ったんだけど・・・」
「冗談じゃないよぉ、そんなこと言われたらびっくりしちゃうよ。ハハハ」
「冗談じゃないわ」
・・・・・
「うそよ。やっぱり冗談よ」
「そうだろ、冗談に決まってるよ」
「じゃあそろそろ帰りましょうか」
「そうねぇ 帰ろうか」

これ程はっきり寅さんに結婚の意志を示したマドンナは他にはいない。一方的に寅さんが失恋するパターンとは逆で、これはマドンナが失恋するパターン。お千代さんはそれ程がっかりした様子ではなかったが、内心はどうだったんだろう・・・。第32作の朋子(竹下景子)さんの場合は観ていて切なくて涙が出た。

本作のデートの場面はいいなぁ、好きだなぁ。


 


ブックレビュー 2022.01

2022-01-30 | A ブックレビュー

 ネット検索して出版物の売上額の推移を示すグラフを探した。見つかったのは2006年からの棒グラフ。グラフに示された売上額は毎年減少していたが、昨年(2021年)初めて前年より増加していた。コロナ禍による巣ごもりで読書した人が多かったことに因るのだろう。私も今月は休日不要な外出を避けてDVDで映画を観たり本を読んで過ごすことが多かった。そのためか1月の読了本は少し多くて7冊だった。

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『黄色いマンション 黒い猫』小泉今日子(新潮文庫2021年)
カバー折返しに記されている作者のプロフィールに1966(昭和41)年、神奈川県厚木市生まれとある。そうか、キョンキョンも50代半ばか・・・。家族のこと、日々の暮らしのことが飾らない文章で綴られている。昨年末に読み始めた年越し本。

『古都再見』葉室 麟(新潮文庫2020年)
**人生の幕が下りる。
近頃、そんなことをよく思う。何もあわててあの世に行こうというのではないが、還暦を過ぎてから、何かゆっくりと頭上から下りてくる気配を感じるのだ。
今年(二〇一五)二月から京都で暮らしている。
これまで生きてきて、見るべきものを見ただろうか、という思いに駆られたからだ。
何度か取材で訪れた京都だが、もう一度、じっくり見たくなった。古都の闇には生きる縁となる感銘がひそんでいるような気がする。
幕が下りるその前に見ておくべきものは、やはり見たいのだ。**(12、13頁)

葉室さんは2017年に亡くなっている。歴史作家が見る京都と私が旅行で訪れて見る京都とではまったく違う風景だろうなあ。幕が下りるその前に見ておくべきもの・・・、って何だろうと自問する。

『新聞記者、本屋になる』落合 博(光文社新書2021年)
**2010年代になると、本屋は「自己実現/自己表現の手段のひとつ」になったとも。**(192頁)

自己実現、自己表現の手段として本屋を始めた著者の落合さん。セカンドライフでそれを見出すことができるかどうか、だなぁ。

『剛心』木内 昇(集英社2021年)
明治期の三大建築家のひとり妻木頼黄(よりなか)の生き様。日清戦争が始まった明治27年、広島にたった半月!で建設された帝国議会の議院、その設計と工事監理に奮闘する妻木。国の未来を語る国会議事堂の設計をめぐりライバルの辰野金吾との駆け引き。その結末は・・・。

『日常の絶景』八馬 智(学芸出版社2021年)
何気ない日常の風景も見方次第で絶景に変わる。実感!

『清張鉄道1万3500キロ』赤塚降二(文春文庫2022年)
著者の赤塚さんはJR全線を乗りつぶした後、14年から16年にかけて清張作品を集中して読んだ、とエピローグで書いている。その読み方は登場人物の乗り鉄に関する調査、研究というユニークなもので、どの登場人物がどの路線に初乗りしたかを調べるている。登場人物がどこで乗りどこで降りたのか、きちんと書かれていないこともあるし、駅名が変わっていることもある。そこを赤塚さんは鉄道や地理などの知識を動員して推測する。そのような作業も楽しかっただろうな、と思う。そしてすばらしいのはそれをきちんを図表にまとめていること。

『庚申信仰』平野 実(角川選書1969年)
知識がないと物は見えない。庚申塔観察のための基礎知識を得るために再読した。内容充実。


『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』今村翔吾(祥伝社文庫2021年第20刷)を読み進めよう。

 


「―多彩で多才― 面白いぞ北 杜夫さん」

2022-01-30 | A あれこれ

480


旧制高等学校記念館 撮影日2022.01.29

 昨年(2021年)の秋に予告されていた(過去ログ)北 杜夫企画展が旧制高等学校記念館で始まった(1月23日~2月20日)。昨日(29日)の午後、見てきた。同館1階のギャラリーに斉藤家から寄贈された書斎遺品が展示されている。

過去ログ


書斎で使われていた机(残念ながら書斎は再現されていなかった)


北さんのファンにはこれが何であるのか説明は不要だろうが、ファンでない閲覧者もおられるだろうから、これは北さん建国のマンボウマブゼ共和国の紙幣であることを記す。


展示品の中で最も注目したのがこの答案用紙

この物理の答案のことは『どくとるマンボウ青春記』にも出てくる(*1)。ネット検索してもヒットする(出題者の松崎 一教授のサイト)。「青春記」で(答)として書いてある文章は、実は出題者のヒントであったことが上の答案用紙を見て分かった。北さんはヒントの文章の最後に**先生自ラコレヲ試ミラレタイ。**と追記している。

**教授はこの答案に合格点に一点足らぬ五十九点をくれたが、あるとき出会うと、「同じ答案ばかり見るのはつらいから、君、もっと書いてくれよ」**(同書88頁)が本当のことなのか、北さんの創作なのか分からない。

この企画展のチラシに北さんの自邸は昨年解体されたことが記されている。北さんのファンとしてはなんとも寂しい・・・。

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*1 『どくとるマンボウ青春記』(中公文庫1973年)87、88頁