透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

空間の「奥性」

2009-12-18 | A 読書日記

『住まい方の思想』渡辺武信/中公新書 84年初読、88年再読。

サブ・タイトルに「私の場をいかにつくるか」とあるように、住宅では私的な領域がいかに大切か、そしてその領域をつくるにはどうすればよいか、が主に論じられています。

映画評論家としても知られている建築家 渡辺武信さんの著書には映画のシーンがよく引用されています。この本にも例えば第2章「居間」にはオーソン・ウェルズの「市民ケーン」に登場する居間、第3章「食堂」には「家族の肖像」の食事の場面、第4章「厨房」にはダスティン・ホフマン主演の「クレイマー、クレイマー」の食事の場面などが写真と共に載っています。

渡辺さんは**宇宙船と同じように、内部の私性を外部に洩らさず、外部の公共性を内部に持ち込まないために、なんらかのエア・ロック的媒介空間が必要なのである。**と説いています(エア・ロックは宇宙船の出入口に必ず設けられていますね)。

**人間が一つの空間から他の空間へ移る場合を考えると、その際の心理的移行に効果的に対応するためには、二つの空間の間にヴォリュームのある媒介空間を置く必要がある。**とも説いています。渡辺さんは更にこの媒介空間について**住宅に足を踏み入れた瞬間に、視線がすぐ近くで跳ね返されることなく奥へ引き込まれ、到達目標となる居間の入口が、かなり遠くにあるか、または屈曲するルートの蔭になって見えないような空間である。**と具体的な説明を加えています。

ときどきお邪魔するカフェ・マトカ。玄関で脱靴するという行為によって意識する公的空間から私的空間への転換、ハイカウンターに隠されて見えない「奥」の席、渡辺さんの説明に合致する奥性のある空間。

公的空間とカフェという私的空間との間にも必要な媒介空間、更に私的空間の中に欲しい「奥性」。

このことを先日オーナーに話しました。そのとき、ちょっとした設えを検討中だと聞きました。その設えが空間の奥性を更に増すと思います。後は実行あるのみ・・・。

* 
奥性という概念は建築家の槇文彦さん他の『見えがくれする都市』SD選書に出てきたと思います。また媒介空間は黒川紀章さんの中間体と同義。



 


引手になった小鳥

2009-12-18 | F 建築に棲む生き物たち


棲息地:クラフト体験館の入口の戸@長野県朝日村古見 観察日 091217

朝日村クラフト体験館ではクラフトマンの指導で木工体験ができます。小さな木のオモチャから大きなタンスなどの家具まで作品づくりにチャレンジする人たちが利用しています。

やはり単に飾りではなくて、このように機能的に必要な「生き物」がいいですね。