豆の育種のマメな話

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パラグアイ便り2005―どうなる大豆生産?

2011-02-11 14:02:28 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

1)ダイズさび病,ダイズシストセンチュウ 

ブラジル研究公社大豆研究所のJ.T.Yorinori博士は,アジア型病原体(Phakospora pachyrhizi)によるダイズさび病の発生を2001年パラグアイで確認した。本病は東南アジア等で大きな被害をもたらしている大豆の重要病害であるが,南北アメリカではこれまで報告されていなかった。翌年CRIAJICAプロジェクトの共同調査に参加したが,ほぼパラグアイ全土で発生が確認され,激発地の近くには日本から持ち込まれたクズが中間寄主となっていることが認められ対策がとられた。その後,ブラジル,ボリビアでもかなりの被害が出ているとの情報がある。

 

ダイズシストセンチュウについては,2003JICAパラグアイ農業総合試験場(CETAPAR)の研究者及び清水啓専門家によって存在が始めて報告された。カグアス県の農家がCETAPARへ持ち込んだサンプル土壌からの発見であった。報告を受けた農牧省植物防疫局は汚染地域を植物防疫隔離地域に指定するとともに,発生実態調査を実施して,初発生地域のほか北部のカニンデジュ県でも発生を確認した。

 

まだ被害が大きくなっていないため生産者の意識は低いが,マトグロッソ州(ブラジルで最初にセンチュウ被害が拡大した地域)の生産者が述べた次の言葉は,パラグアイ農民への警鐘となるだろう。「それまで大豆を惰性で作っていたが,センチュウ被害が広まり改めて大豆に偏った経営を反省した。他の作物の導入など仲間で話し合い,勉強もした。センチュウが発生したお陰で大豆の栽培技術をもう一度学習し,技術水準が高まった」。

 

2)遺伝子組み換え大豆が増加

アルゼンチンは遺伝子組換え体(GMO)の商業栽培を認めており,既に95%以上がGMOであると言われている。また,ブラジルでは商業栽培を認可していないが,ブラジル研究公社大豆研究所や民間研究所は品種開発を始めている。パラグアイでは農牧省,厚生省,環境保全局,自然保護団体間の合意が得られず,またブラジルとの足並みを揃える必要から商業栽培を認めていないが,実際にはかなり(2004年パラグアイ研究者からの情報では,南部85~90%,東部75%と推定)のGMOが栽培されている。この急速な面積拡大の背景には,GMOが普通大豆と同じ扱いで売れること,生産経費が節減できること(20~32%減との試算がある)が挙げられよう。

 

大型機械を駆使した畑作経営は面積拡大の方向にあり,一部では1,000haを超える規模での大豆生産が行われている。GMO大豆の導入によりこの傾向はますます顕著になり,ジェルバ・マテの畑が大豆に替わるなど小農の畑を圧迫して土地なし農民を生み,さらには小農の雇用機会を奪うなど治安の悪化が囁かれている。小農対策は政府の懸案事項で,新たな作物導入や経済的な支援を試みているが,受け皿となる産業の発達が遅れているため効果は十分でなく,貧富の差が拡大している。「GMO大豆が普及し1戸当りの栽培規模が拡大したため,農村コミュニテイの崩壊が危惧される」GMO先進国アルゼンチンで聞いた言葉が耳に残る。

 

一方,GMOと非GMOを分別流通する動き,配合飼料の原料として高蛋白大豆にプレミアをつけようとする試み,バイオジーゼルの話題も新聞を賑わせているが,流れはまだ小さい。

 

参照:土屋武彦2005「パラグアイの農業,最近の話題」北農72,101-106

 

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