豆の育種のマメな話

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白いレースを連想させる「ノラニンジン」,恵庭の花-17

2017-08-11 11:40:46 | 恵庭散歩<花のまち、花だより、自然観察>

夏の北海道,路傍,空地,荒地などに群生する白い花を見かけるようになった。恵庭市内でも,近年その勢いは急激に拡大しているように思える(全国に分布するが北海道,特に道央・道南に多い)。この植物はヨーロッパ原産の外来植物で,「北海道ブルーリスト2010」ではA3(本道の生態系に影響が報告され,または懸念される外来種)に分類されている。即ち,既存の在来植物と競合し,それらを駆逐する可能性があるということだ。セリ科ニンジン属の二年草,ノラニンジン(野良人参,Wild carrot,Daucus carota)である。

草丈は1~2m(やせ地では30~40cm),茎には毛があり,根から数本直立し上部で分枝し,茎頂に白い5弁の小花(花弁の大きさは均一でなく蝶のように見える)をたくさん付ける。小花の直径は3~5mmと小さいが,全体が集まって丸い形状となり,遠目には直径5~15cmの花に見える。花冠を上から見ると,あたかもレースの冠のように美しい。葉は小さな切れ込みの入った羽状複葉で,互生する。根は人参のようには肥大しない。開花時期は7~8月。蕾は鳥の巣のようだ。

 

◆野良人参の呼称

昭和の初め,牧野富太郎が野生化した人参を発見し野良人参と名付けたとされる。野良生えした人参の意味である。また,ヨーロッパや地中海沿岸地方原産のニンジンが野生化したものとする説がある。しかし,栽培種が散逸して野生化したと考えるより,栽培種の祖先種と考える方が自然だと思える。或いは、他の種子に混入して導入されたのかもしれない。

◆アン女王のレース

ノラニンジン(Wild carrot)の花は,精密なレースのように美しい。その姿からQueen Anne's Lace(アン女王のレース)と呼ばれる。その謂れは,レースづくりに優れたアン女王に因む,アン女王のレースの頭飾りを思い起こさせる,レース作り手の守護聖人(聖アンナ)に由来するなど多説あるようだ。

中でも,レースを編んでいたアン女王が誤って針で指を刺し,レースに一滴の血が落ち,これが花の中心部に見られる暗紫色の小花であるとの逸話は面白い。

 

◆紫の中心小花

アン女王の逸話を知ってから,漁川に群生するノラニンジンの花冠を注意深く観察した。確かに写真のような紫色小花が確認できる。一見しただけでは見落とすような姿であるが,何故中心の小花だけ紫色でなければならないのか。

この謎に関しては,植物学会でも長い間論争があったと聞く。飛んでいる昆虫に対して,花の上には既に別の虫が留まっていると見せかけて仲間を引き寄せ,受粉に役立てているのだという。いわゆる昆虫の模倣花だ。一方,繁殖には何ら貢献していないとの意見もある。

花の写真を撮ろうとカメラのレンズを近づければ,花冠から微かな臭いが漂う。蜜を求めてアリや昆虫が多く集まっているのが観察される。視覚で集まったのか,嗅覚で集まったのか,彼らは答えてくれない。

「自然界に意味のない事象はない」と考えるか,或いは「アン女王の血の一滴」と詩を想うかは,観察者の勝手と言うものだ。

 

◆似た植物

白い小花を密生して付け,葉が人参に似ていることなど,ドクニンジン(毒人参,poison hemlock,Conium macratum,セリ科ドクニンジン属)に似ている。ドクニンジンはヨーロッパ原産の外来種で野生化し,有毒であることが知られている。北海道では春先に,シャク(ヤマニンジン,Anthriscus sylvestris,せり科シャク属)と間違って食べ,中毒する事故がしばしば発生している。

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