豆の育種のマメな話

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南米三国(BAP)の大豆育種体制

2011-10-19 17:35:19 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

南米各国の大豆育種は,公的機関に加えて民間の種子会社が担っている

ブラジルBrasil

農水産供給省の大豆品種保護登録簿に品種登録を申請している機関は2008年現在35社あるが,その中でブラジル農業研究公社(Embrapa),Monsoy社,農業協同組合研究センター(COODETEC)およびマトグロッソ農業研究財団(Fundacção MT)による品種登録数が全体の70%を占めており,これらが代表的な育種機関といえよう。

Embrapa大豆研究所は,パラナ州ロンドリーナ市に位置する。ブラジル農牧業研究公社40ユニットの一つで,品種改良,土壌・栽培管理,病害虫防除,食品加工および経営などの研究開発が進められている。また,低緯度地帯に対応する大豆研究センターとしての役割を担っていて,南米各地からの研修生受け入れ,研究情報の発信など各国の大豆研究をリードしている。2006年同研究所が奨励している育成品種は,中南部だけでもBRS 232BRS 256RRなど26品種で,同国大豆種子市場の46%に対応している。研究者70名,総職員数300名の体制で,350haの試験圃場,15研究棟,23温室など研究施設も充実している。

COODETECは,パラナ州カスカベル市に本部があり,研究と種子生産・販売を業務としている。ブラジル国内に5研究所,95試験圃場を有し,各地帯に適応する品種の育成を行っている。2008年,CD 201CD 214RRなど各地域に対応した27品種を奨励している。

Fundacção MTはマトグロッソ州ロンドノポリス市に本部をおく同国最大の財団で,生産者,種子会社,農薬会社,機械メーカー,輸送業者などからの基金と種子販売収入によって運営されている。大豆育種は年間400800組合せの交配を行い,農場200ha5か所の現地選抜圃で選抜を進め,全国50か所で系統評価を実施している。

その他,育種には民間種子会社も多く参入しているが,公社や財団組織が育種をリードしている点が同国の特徴である。

アルゼンチンArgentina

国立農業技術研究所(INTA)と民間のNideraDon MarioMonsantoRelmoSyngentaなど多くの種子会社が育種を行っている。民間種子会社はいわゆるメジャーなものから,国内の中小会社まであり,大豆品種保護登録簿に登録申請している機関は2008年現在46社と多い。

品種保護登録簿へ登録申請のために必要な特性を評価する連絡試験は,同国の大豆研究センターであるINTA マルコスフアレス農業試験場(INTA MJ)が取りまとめを行っている。連絡試験は緯度の高低と降水量の多少によって区分された13地域64か所で行われ,試験結果は翌年の播種前には公表される。この試験にエントリーするための費用は,種子協会(Asociación de Semilleros Argentinos: ASA)との協定によりINTAへ振り込まれ,各地域のINTA地域農業試験場が評価を担当している。

因みに,INTA MJの大豆育種グループは,育種,病理,栽培,品質など各分野の専門家13名で構成され,年間120組合せの交配,5,000系統の予備選抜,280系統の生産力検定予備試験,60系統の生産力検定試験を実施している(1970~80年代の育種研究創始期,筆者等は技術指導に携わった)。

パラグアイParaguay

公的機関としては,農牧省所属の地域農業研究センター(CRIA)が育種を行っている(*2011年,独立行政法人パラグアイ農業技術研究所IPTAに組織替え)。また,JICAパラグアイ農業総合試験場(CETAPAR)も小規模ながら育種を進めている(**2010年に日系農協中央会へ移行)。パラグアイ国内で独自に育種を行っている種子会社は,まだ数が少なく規模も小さい。実際に栽培されている主な品種は,2008年現在A 4910RR,A 7321RR,CD 202,CD 219RR,BRS 245RR,BRS 255RRなどで,多くはブラジルのEmbrapa,COODETECおよびアルゼンチンのNideraなどが育成した品種である。

これら国外の種子会社は,パラグアイでの種子販売を目的に育成系統の選抜を行い,パラグアイ農牧省が実施する大豆品種連絡試験の評価を得て,商業品種国家登録簿に登録し種子を販売している。実際には,パラグアイ国内に試験圃を持ち,系統評価及び展示PRを行っている場合が多い。ブラジル南部に適する熟期群の品種は,パラグアイでも良好な成績を示すことが多い。

CRIAはイタプア県カピタンミランダ市にあり,畑作農業研究のセンター場である。1979年に開始された日本からの技術協力(JICA,2008年3月に終了)によって整備が進み,大豆育種事業を着実に展開しているが,育成品種の普及シェアは低い。最近の情報によると,国家経済情勢の悪化を反映して,研究体制が弱まっているという。

技術協力の成果としては,1997年にはAuroraが同国の登録第1号となり,2008年までに7品種が育成された(いずれもNon-GMO)。量は僅かであるが,Auroraは豆腐用として日本へ輸出されているので,ご存じの方がいらっしゃるかも知れない。

CRIA育成品種の普及率が低いのは,同国政府がGMOを承認しなかったため,国立機関であるCRIAでのGMO品種開発が遅れ,隣国アルゼンチンからのGMO品種が非合法栽培された経緯がある。因みに,ブラジルではGMO承認前から育種研究を許可していたので,解禁と同時に品種交替が進んでいる。

参照:土屋武彦2010「南米におけるダイズ育種の現状と展望」大豆のすべて(分担執筆)サイエンスフォーラムを一部加筆,詳しくは本書をご覧下さい。

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