生産増加が続く南米大豆であるが,課題は多い。課題解決に向けては品種対応が一番であるとの認識で,新品種開発の努力が精力的に進められている。南米三国における大豆育種はいま,何を目標に進めているか?
多収・安定性,適応性
南米における大豆栽培地帯は低緯度から高緯度まで広範であるため,それぞれの地域の環境に適する安定・多収品種が求められる。また,耐倒伏性や難裂莢性などは大型コンバインで収穫するための必須形質である。生育障害に対する耐性では,病害抵抗性,センチュウ害抵抗性,耐乾性などを重視した育種が進められている。
病害,センチュウ害抵抗性
被害が大きい病虫害の種類は,ブラジルとパラグアイでは褐紋病(Septoria glycines),茎かいよう病(Diaporthe phaseolorum f.sp. meridionalis),紫斑病(Cercospora kikuchi),葉焼病(Xanthomonas oxonopodis pv glycines),炭腐病(Macrophomina phaseolina),さび病(Phakopsora pachyrhizi),シストセンチュウ(Heterodera glycines)が,アルゼンチンではその他に菌核病(Sclerotinia sclerotiorum),茎疫病(Phytophthora sojae),急性枯死症(Fusarium solani f. sp. Glycines)であり,これらの耐病性育種が目標となっている。勿論,地域によってその重みは異なる。
茎かいよう病は1988/89年作で初めて確認され,ブラジルのパラナ州,マトグロッソ州およびパラグアイで大問題となった。Embrapa大豆研究所では幼苗期の抵抗性検定法(爪楊枝接種)を確立し,育種事業に導入して短期間に抵抗性品種の開発に成功した。パラグアイのCRIAでも同様の抵抗性検定を育種に組み込み,抵抗性品種を開発した。最近育成されたほとんどの品種は,茎かいよう病について抵抗性をもっている。
ダイズシストセンチュウについては,1992年ブラジル,1998年アルゼンチン,2002年パラグアイで相次いで発生が確認され,被害面積も拡大している。ブラジルではシストセンチュウによる汚染面積は250万haに達すると推定され,Embrapa大豆研究所やマトグロッソ農業研究財団(Fundação MT)等がレース1と3に対応した抵抗性品種開発に成功しており,本格的な抵抗性育種に取り組んでいる。アルゼンチンではサンタフエ州とコルドバ州で汚染圃場率が高く,パラグアイではブラジルに隣接する北東部のカニンデジュ県やアルトパラナ県で汚染圃場率が高い。アルゼンチンおよびパラグアイ両国でも最近になって抵抗性品種が開発された。
一方,シストセンチュウの拡散が予想に反して抑えられているのではないか,との意見もある。その理由として,不耕起栽培であること,高温のためシストの孵化が早まり大豆の生育とズレが生じること,などが挙げられている。しかし,線虫対策が重要なことに疑いはない。
さび病(アジア型)は,2001年にパラグアイで発生が確認され,その後ブラジル,ボリビア,アメリカ合衆国などへ拡大した。筆者は当時パラグアイに滞在しており,発見者であるEmbrapa大豆研究所Yorinori博士と現地調査する機会(2001年)があったが,さび病がこれほどまで急激に拡大し,被害が継続するとは思わなかった。しかし現在,アメリカ大陸の大豆育種機関では,さび病耐性の付与が緊急の課題として取り組まれている。
環境ストレス耐性
水分不足は生育の停滞と減収を招きやすい。特に,開花・着莢期の旱魃は被害が大きく,南米各地では頻繁に旱魃害がみられ,その年の豊凶はいつも干ばつとの関連で語られる。したがって,乾燥耐性は重要な特性である。また,地帯によっては高塩分土壌耐性などの課題もある。しかし,これら耐性育種は,まだ実際の事業として定着しているとは言えず,より適性の高い品種を選択している段階にある。
食品・加工適性
主たる用途は製油用であるため,高脂肪品種が一般的ある。最近は食品・加工用も一部目標とされ,輸出を念頭に高タンパク,その他特殊用途の育種も試みられている。
Embrapa大豆研究所では独立行政法人国際農林水産業研究センター(JIRCAS)との共同研究を進め,リポキゲナーゼ欠失の有機農業用品種(BRS 213, BRS 257)や納豆用品種(BRS 216)を開発した。また,アルゼンチンではINTA MJが遺伝資源の成分評価など育種研究を開始した。
参照:土屋武彦2010「南米におけるダイズ育種の現状と展望」大豆のすべて(分担執筆)サイエンスフォーラムを一部加筆,詳しくは本書をご覧下さい。
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