北海道にある公益財団法人北農会が,農業技術普及誌「北農」を発刊している。内容は,研究論文など新しい研究成果情報に加えて,農業に関する論説提言,研究情報,資料解説など多岐にわたる。学会誌でなく,かと言って商業誌でもない,特徴ある技術情報誌で,他に代えがたい。わが国でも貴重な存在であろう。
その「北農」誌の創刊は1934年(昭和9)であった。創刊から数えて,来年が80年目になる。この間,農業を取り巻く環境は大きく変化し,農業自体も幾度となく困難な場面に遭遇したが,生産者や農業関係者の尽力のお蔭で北海道農業は大きな発展を遂げた。この発展の支えたのは,技術開発の成果であったことは衆目の認めるところであろう。「北農」の歴史も,北海道農業の歴史に重なっている。
80年前「北農」創刊に当たって,北海道農事試験場長安孫子孝次氏は,技術改善の重要性を説いている。創刊号巻頭言の一部を以下に引用する。
・・・農村非常時に直面し農業合理化を叫ばれて居る今日,その合理化の基礎ともなるべき農業技術の改善は,一日も忽せにすべからざることを痛感せらるるのであります。(中略)今回北海道農事試験場北農会が組織せられ,その機関雑誌として月刊「北農」を発行し,農事試験場の試験成績を広く且敏速に普及せしめ,併せて会員相互の親睦と知識の交換とを図られるに至ったことは洵に機宜の企てであって,(中略)衷心から欣ぶ支第であります。それ故に当場においてはこの計画の遂行に対しあらゆる援助を吝まぬものであります。
凡そ健全なる農家,農村を建設せんとするには農業を経済的に経営するにあります。農業の経済的経営は各種の科学を取り入れ,優秀なる技術により合理的に応用するにあるのであります。(中略)農を営む人,農事の指導に任ずる人は勿論のこと,苟くも農を政し農を談ずる人の心掛くべきことと信ずるのであります。幸ひ雑誌「北農」の理想が這般の実情に徹し,よく農事関係諸氏の伴侶となり,農業の改善発達に資することが出来ますれば,この上なき喜びと存じ,茲に大方の振るって本誌刊行の趣旨に賛成せられんことを望むと共に本誌の発展を祈る次第であります・・・。
北海道では今年も,1月に開催された北海道農業試験会議(成績会議)での検討を経て,多くの新技術が普及に移された(普及奨励事項12課題,普及推進事項13課題,指導参考事項237課題,研究参考事項10課題)。これらの成果は,多くの媒体を経て生産現場に届けられるが,北海道農業発展の糧になることは間違いない。「北農」も技術情報誌として,微力ながら北海道農業発展の一翼を担う努力を続けている。
北農編集子のつぶやき:先人の詞は,今の時代にも褪せることがない。
参照:土屋武彦2012「編集後記」北農第79巻第2号,公益財団法人北農会