大豆「ユキホマレR」「とよみづき」「ユキシズカ」「ゆきぴりか」北農賞受賞
去年の暮れ(12月16日),京王プラザホテル札幌で安孫子賞・北農賞の贈呈式があった。公益財団法人北農会が実施する表彰事業で,平成28年度は安孫子賞が第57回,北農賞が第77回を数える。
表彰規定(抜粋)は,以下のように定められている。
安孫子賞:①北海道において農業に従事し,経営・技術に創意工夫を加え,堅実な経営を築き,将来の発展が期待されるもの,②北海道において,農業の指導・研究・普及などに従事し,誠実な実践活動により農業改良に顕著な成績をあげたもの
北農賞:①「北農」の最近1か年間に登載された論文・資料等の中で普及上優秀なもの,②育成品種で顕著な実績をあげているもの,③技能・事務上の創意工夫・考案等により試験研究の推進に貢献したもの
◆北農賞受賞
実は,北農賞の品種育成部門に,大豆「ユキホマレR」「とよみづき」「ユキシズカ」「ゆきぴりか」の育成が受賞となり,小生も育成者15名のうちの一人だという(受賞者:鈴木千賀,山崎敬之,田中義則,黒崎英樹,萩原誠司,大西志全,三好智明,山口直矢,冨田謙一,土屋武彦,松川勲,白井滋久,湯本節三,白井和栄,角田征仁)。確かに,この中の2品種については育成の一部を担当したが,極めて昔の話である。振り返れば,退職したのが17年前,育種の現場(十勝)を離れてから25年が経過している。
贈呈式の案内状を受け取ったとき,先ずは戸惑い,出席するか否かしばらく躊躇した。「これら北農賞は,若い現役の研究者を表彰し,研究の励みに資する性格のものではないのか」と思ったのである。表彰対象育成者のメインはもちろん現役の研究者諸君で,彼らも贈呈式に出席するが,幽霊が出る幕でもあるまいと感じたのである。
そのような気持ちを抱きながらも出席することにしたのは,①かつて上梓した拙著「豆の育種のマメな話(北海道協同組合通信社2000)」の中で,「育種は継続」「育種は総合」「育種は人間性」と繰り返し述べたが,この表彰は「育種は継続」の言葉を証明するものものでないか。継続の意義を現役の皆さんと分かち合おう。②束縛される仕事もなく暇な身体である。この機会に,現役の皆さんから育種に関する新しい情報と元気を貰おうと考えたからである。
◆受賞理由
受賞理由について,贈呈式資料から引用する。
(1)北海道は約3万ha の大豆が栽培されている国内の主要な産地であるが,道産大豆需要拡大のため,収量・品質の高位安定,加工適性の向上,新商品の開発など実需および生産サイドから多様なニーズがあげられており,これまでも国産大豆の主要な用途(豆腐・納豆・味噌)向けの品種を育成し,道産大豆の生産性と品質向上に寄与してきた。
(2)「ユキホマレR」は,主力品種「ユキホマレ」にDNAマーカーを利用して,ダイズシストセンチュウ抵抗性(レース1)を導入した豆腐用途品種で,農業特性,加工適性が同等であることから,平成27年の栽培面積は約1,300haでさらに拡大している。「とよみづき」は,生産面では「ユキホマレ」の低温年での成熟の遅れや粒の裂開,加工面からは豆腐にした際にやや固まりにくいなどの欠点を改良し,平成22年に優良品種に認定され,平成27年の栽培面積は約1,400haと普及が順調で,さらに大きく拡大することが見込まれる。
(3)「ユキシズカ」は,納豆用小粒大豆として平成13年に優良品種に認定された。収量は「スズマル」並からやや多収で,粒大はやや小さく,納豆加工適性は同品種並みに優れる。熟期は早く,耐冷性,センチュウ抵抗性であることなどが評価され,平成27年の栽培面積が5,000haを越え,用途別品種の約70%となっている。
(4)「ゆきぴりか」は,大豆の機能性成分で骨粗鬆症改善やがん予防に効果があるとされるイソフラボンを従来品種より1.5倍多く含み,加工業者からその特性を生かした商品開発が期待され,平成18年に優良品種に認定された。道総研研究機関と道内味噌メーカーの共同で米味噌が商品化され市販されている。平成27年の栽培面積は約140haであるが,様々な商品が開発・販売されている。
以上の4品種は,日本食の伝統的大豆食品用途として開発され,それぞれ順調に栽培面積が拡大しており,農業経営の向上および道産大豆の高品質・安定生産に寄与すると同時に,各用途の大豆食品の消費拡大に大きく貢献することが期待される。
◆育種の心
育種機関においては,人事の異動があっても育種材料は引き継がれ,選抜の心(ゆるぎない選抜目標と選抜眼)が継続される。その積み重ねがあって,特性に改良が加えられた新たな品種が誕生する。育種では,「ある日突然」という言葉はありえない。地道な観察と継続したデータの積み重ねが重要である。今回の受賞は,15名の信頼に基づく継続の成果であったと言えるだろう。
北海道の大豆栽培面積が6,740ha(平成6年)まで減少した時も,周囲の雑音に惑わされることなく育種を継続した育種家たちがいたからこそ,現在の大豆栽培面積33,900ha(平成27年)を支えることが出来ている。育種は継続なのだ。