不滅のはずの王政が崩れる日、危機が求めさせる強大な指導者
北大道新アカデミー2022前期、第3回と第4回を聴講した。講師は西洋史学研究室の松嶌明男教授(東京大学大学院修了、白鴎大学、清泉女子大学を経て平成24年から北海道大学)。主要研究テーマは「フランス革命によってヨーロッパで初めて保障されるようになった宗教的自由の成立過程と具体的な保障内容について」とある。「近代への転換点であるフランス革命の考察」に関する造詣が深い。
本講座では、フランス絶対王政の崩壊過程とその要因、フランス革命に至る経過と強大指導者ナポレオンの出現、強力指導者による独裁と政治的欠陥等について解説。独裁体制の欠陥と権力継承の難しさに関する論点は面白かった。
最後に、ロシアのウクライナ侵攻についても触れ、「我々は今、後継者のいない独裁体制の行方を目にしているのかもしれない」と述べた。
◆松嶌明男「不滅のはずの王政が崩れる日」2022年5月7日
概要:フランス絶対王政から革命まで。ヨーロッパでの市場経済の急激な発展は、土地所有と身分制に立脚する絶対王政を危機に導き、フランス王国は革命へ至る(資料から引用)。
1)フランス絶対王政(ブルボン朝)の統治とその構造:君主が絶対で最終的な決定権を握る政治体制であるが権力行使に制約があった。身分制議会である三部会、高等法院、カトリック教会の教義の利用など。
2)絶対王政の動揺、行き詰るルイ16世の治世、支持基盤の動揺
3)厳冬でパンや小麦、薪の価格高騰が引き金となり革命へ
4)革命後の混乱は強力な指導者を求めた
◆松嶌明男「危機が求めさせる強大な指導者」2022年5月28日
概要:近現代における「効率的な統治システムである独裁」について解説。フランス革命で危機に対処しようとした人々は、新たな安定を作り出すことができず、ナポレオンの独裁にその一歩を託した(資料から引用)。
1)独裁政治の類型として「議会政治の枠組みにおける少数議員による独裁」と「議会政治を形骸化させた強力な指導者による独裁」をあげ、問題点を整理した。
2)独裁に固有な政治的欠陥と権力継承について
・独裁者本人の体調(病気や老齢)が政治に直結することが問題
・独裁者権力行使の基盤が属人的であることが問題
・対応として ①強力な指導者がいなくなった時の集団指導体制を築いておく(徳川吉宗)、②部下の中から優秀な人物を養子とすることで実質的な後継者指名する(ローマ5賢帝)事例を示した。
◆時として強力な指導者が熱望されるが、独裁体制の長期化は腐敗や混乱を招きやすい。権力を握る者は、多くが「自分は他の者たちと違う」思っていて、他者の失敗の積み重ね(歴史事実)を学ぼうとしないからだと言う。私たちは、多様な意見を尊重するシステム、情報の共有化を常に担保しなければなるまい。