豆の育種のマメな話

◇北海道と南米大陸に夢を描いた育種家の落穂ひろい「豆の話」
◇伊豆だより ◇恵庭散歩 ◇さすらい考
 

オダマキ(苧環)、恵庭の花-27

2021-06-08 11:07:58 | 恵庭散歩<花のまち、花だより、自然観察>

庭の片隅に、播いたことも植えたこともない花が突然咲くことがある。5月の末、ムスカリの花が終わりに近づいた頃、生垣の根元に紫色の花が雨に打たれているのを見つけた。花の形、葉の形からオダマキらしい。

「オダマキを植えたことがあったか」と尋ねたが、無いと応える。

「何処からか種子が飛んできたのでしょう」と言う。

野良生えが多いのは、恵庭市恵み野がガーデニングの街と呼ばれるほど近所の庭々に多様な花が植えられているからだろうか。多分そうだろうと納得して、花の姿を写真に収めた。

この株は来年もきっと花をつけるだろうと、抜かずにそっとしておく。拙宅の庭は、気まぐれに根づいた花々も大歓迎、何時の間にか多年草主体の自然園と化している。

 

◇オダマキ(Aquilegia L.)

キンポウゲ科(Ranunculalceae)オダマキ属(Aquilegia)の総称。日本原産のミヤマオダマキ(A. flabellata var.pumila)と、ヨーロッパ原産の西洋オダマキ(A. vulgaris)に大別される。

*ミヤマオダマキ(A. flabellata var. pumila

日本の高山地帯(深山)に分布するオダマキの野生型。草丈は20cmほど。花色は青紫色から白まで色幅がある。暑さにやや弱い。園芸業界では、ミヤマオダマキ改良種をオダマキと呼び、その他はミヤマ~、セイヨウ~などを付けて呼ぶことが多いようだ。

*セイヨウオダマキ(A. vulgaris

ヨーロッパからシベリアにかけて広く分布。花色は紫色でうつむきかげんに咲く。草丈は50~60cm、日本での開花は主に5月~6月。花色が赤、ピンク、黄、白など、大輪種や八重咲き種など変異に富んだ園芸種がある。

◇特性

開花期は春~初夏、花は茎の先端に2~3輪がまとまって下向きに咲く。花は5枚の萼(がく)と筒状の花びらからなり、がくの後ろ側には距(きょ)が角のように突き出ている。葉は暗緑色で長い葉柄の先に3枚の扇型の小葉からなる複葉。葉縁には切込みがある。開花後、花茎の先に細長い莢が5つ集まった果実を付け、熟すと先端が開いて中から光沢のある黒い種子がこぼれる。

◇名前の由来

オダマキは、麻糸を空洞の玉のように巻いたもの(苧環)、あるいはそのための器具のことで、花の後ろの部分がこれに似ていることに由来する。イトクリソウ(糸括草)の別名もある。

全草にプロトアネモニン(protoanemonin)を含むと言う。茎を折ったときに出る汁に触れると皮膚炎(水泡)を引き起こすことがある(アネモネも同じ)。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

野良生えの「ワスレナグサ(忘れな草)」清楚に咲く,恵庭の花-26

2021-06-04 10:26:05 | 恵庭散歩<花のまち、花だより、自然観察>

隣の空き地にワスレナグサ(勿忘草、忘れな草)の群落が誕生した。薄青色の小さな花が多数、5月下旬の淡い陽光に揺れている。一面のスギナを緑の絨毯にして、ワスレナグサの可憐な花々が春を告げる。誰かが種を蒔いたわけでもない、何処からともなく運ばれてきた種子が出芽し、群落となったのだ。いわば野良映え集団、野生化した雑草だが、一面の淡い青色は清涼感を漂わせる。

よく見れば、ワスレナグサは庭の彼方此方にも舗装道路の割れ目にも生えている。栽培種が野生化したのか、昔から自生していたのか由来は分からないが弱々しく風に揺れている。ワスレナグサはその姿に似ず、寒地で生きながらえる逞しさを有している。

 

◇ワスレナグサ

ムラサキ科ワスレナグサ属(Myosotis spp.)の仲間を総称してワスレナグサと呼んでいる。属名の Myosotis は、細長く多毛で柔らかい葉の様子がネズミの耳に似ていることに由来している。ギリシャ語の「二十日鼠(myos)+耳(otis)」が語源だと言う。

原産地はヨーロッパで温帯から亜寒帯に広く分布し、世界には50~100種が存在すると言われる。日本には、ワスレナグサ属の一種であるエゾムラサキ (M. sylvatica)の自生が古くから知られているが、明治時代に園芸業者がノハラワスレナグサ (M. alpestris) を輸入してから種間雑種など多くの園芸品種が作られた。

現在、日本で見られる主な種類は、シンワスレナグサ(M. scorpioides)、ノハラワスレナグサ(M. alpestris)、エゾムラサキ(M. sylvatica)。

シンワスレナグサM. scorpioides、ワスレナグサ)

種名のscorpioides は、「サソリの尾に似た」という意味。花序がサソリの尾のように曲がっていることから付けられた。英名は true forget-me-not, water forget-me-not。ヨーロッパ産の基本種で、その他のワスレナグサ属と区別するために、true forget-me-not という呼び名が付けられている。多年生で、花は薄青色。園芸品種に比べると花の咲く様子が地味。隣地のワスレナグサは、この系統だろうか。

ノハラワスレナグサM. alpestris

種名の alpestris は、「亜高山の、草本帯の」という意味。英名は alpine forget-me-not。多年生。花は薄青色・鮮青色。

エゾムラサキM. sylvatica、ミヤマワスレナグサ、ムラサキグサ)

種名のsylvatica は、「森の」という意味。英名は garden forget-me-not, wood forget-me-not, woodland forget-me-not。二年生から多年生。花は薄青色・薄紫色。萼は切れ込みが深く、立ち上がった鉤状の毛がある(他のワスレナグサ属の萼の毛は平たく伏している)。

◇特性

開花は3月下旬~6月上旬と長い。薄青(紫)色・鮮青(紫)色の小さい5弁の花(花径6–9mm)を付け、花冠の喉に黄色・白色の小斑点をもつ。花は多数でさそり型花序、開花とともにサソリの尾のような巻きは解けて真っ直ぐになる。

草丈は20–50cm、葉は長楕円形もしくは倒披針形で互生。葉から茎まで軟毛に覆われている。一般に日当たりと水はけのよい湿性地を好み、耐寒性に優れているが、暑さに弱い。

◇語源にまつわる伝説

中世ドイツの悲恋伝説に登場する主人公の言葉に因む。「騎士ルドルフはドナウ川の岸辺に咲くこの花を恋人ベルタに贈ろうと岸を降りた際、誤って川の流れに飲まれてしまいました。ルドルフは最後の力を振り絞って花を岸に投げ、„Vergiss-mein-nicht!(僕を忘れないで)“という言葉を残して亡くなりました。残されたベルタはルドルフの墓にその花を供え、彼の最期の言葉を花の名にした」のだそうです。

このような伝説から、ドイツではこの花をVergissmeinnicht と呼び、英名もその直訳の forget-me-not、日本では明治38年(1905)に植物学者の川上滝弥が「勿忘草」「忘れな草」と訳したのが名前の由来と言われています。花言葉は「真実の愛」「私を忘れないで下さい」。

◇抒情歌「忘れな草をあなたに」

木下龍太郎作詞、江口浩司作曲。女声コーラス・グループのヴォーチェ・アンジェリカが1963年にリリースした楽曲。1971年に倍賞千恵子と菅原洋一がリリース、叙情歌として広く知られるようになった。

・・・分かれても 分かれても 心の奥に

いつまでも いつまでも 憶えておいて ほしいから

幸せ祈る 言葉にかえて

忘れな草を あなたに あなたに・・・

その他にも、千曲川(五木ひろし1975年)、忘れな草をもう一度(中島みゆき1982年)、Forget-me-not(さだまさし1984年、尾崎豊1985年)など。帰らぬ恋、初恋の淡い思い出を「ワスレナグサ」に重ねている。

◇ワスレグサ

「ワスレナグサ(忘れな草)」を索引していたら「ワスレグサ(忘れ草)」があることを知った。ヤブカンゾウ(Hemerollis fulva var. Kwanso)である。和名抄に「萱草」を「一名、忘憂」とあり、「身に着けると憂いを忘れる」の意味で「忘れ草」と呼んでいた(万葉集にも詠まれている)。平安時代に入ると「人を忘れる」の意味に変わり、古今和歌集や源氏物語にもこの意味で萱草が出て来るらしい。

ワスレグサ(ヤブマンゾウ)は茎頂にユリに似た八重咲の橙赤色の花をつける。華やかで目立つ「ワスレグサ」の花姿は、清楚な「ワスレナグサ」の極対極にあると言えそうだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする