お盆が過ぎた頃(気づいたのは8月19日午前10時だった),庭の花梨にミツバチの分蜂が現れた。トイレの窓から蜂の羽音が騒がしく聞こえて来たので,急いで外に出てみると「花梨」の樹に長径30~40cmの塊が形成され,周りを数十匹の蜂が忙しく飛んでいる。風がある晴れた日だったので,花梨の小枝は激しく揺れているが,風を遮る幹の部分に塊が出来ている。
公園の立札「スズメバチに注意」が瞬時に浮かんだが,蜂の大きさや群舞する状況からみてミツバチだろうと判断した。そして,これが話に聞く「分蜂」で,旅の途中なのだと勝手に考えた。夕方には蜂の動きが静かになり,黒い塊となって闇に包まれた。ちなみに,ミツバチの分蜂は一集団2万匹ほどだという。
その夜,Roran Jacobsen著「Fruitless Fall」 The Collapse of the Honey Bee and the Coming Agricultural Crisi(実りなき秋,中里京子訳文春文庫2011では「ハチはなぜ大量死したのか」と題されている)を書棚から取り出して,ページをめくった。
この書は,2006年11月フロリダの養蜂家が数百個の巣箱から働き蜂が消えてしまったのを発見する描写から始まる。その年,北半球では1/4の蜂が消え,巣箱に残されたのは女王蜂と蜂蜜だけだったという。その後,ミツバチの謎の集団死は農業に大打撃を与えることになる。
この奇妙な病気「蜂群崩壊症候群」(CCD:Colony Collapse Disorder)について,科学者たちが原因追及に動く。ミツバチヘギイタダニ,電磁波,遺伝子組み換え作物,地球温暖化,ウイルス,ノゼマ病,浸透性農薬など様々な説について紹介され,謎が一枚一枚剥されていく。本書では,品種「セイヨウミツバチ」の偏重や環境問題が論議され,私たちに農業や土地に対する姿勢を問い直すべきではないかと問いかけている。
ヨーロッパでも2009年,大陸全体で30%のミツバチを失う被害に見舞われ,ネオニコチノイド系農薬禁止が進んだ。同年,オーストラリアでノゼマ病が大発生したのを受けて同国が女王蜂輸出を見合わせたため,日本でもミツバチ不足が起こっている。ごく最近のことだ。解決のために大きな予算が注ぎ込まれているが,CCDの要因はまだ解決していない。自然界の均衡が破綻されている現状が問題なのだろう。
この書は,人為が過ぎてはならない,自然界と共生・平衡を保てと諭しているようだ。読み終えて,ミツバチを飼ってみたいと思わせる。
さて,わが庭のミツバチのその後である。
翌8月20日:雨模様の湿度が高い天候,ミツバチは静かな塊のまま,数匹が晴れ間をみて偵察に出ている。
8月21日:晴天,朝起きた時はまだ留まっていたが,9時に見に行くとその塊は消えていた。天候は,分蜂が訪れた日と同じように風が花梨の枝を揺らしている。花梨の葉に蝋蜜の跡を残して2万匹は姿がない。何処へ旅立ったのだろう。残念ながら飛翔の瞬間は見ていない。何処からか一匹が戻ってきて,仲間を探す姿が哀れ。
またいつか訪ねて来れば良い。恵庭は花の街だから。今度訪れたら,君たちに巣箱を用意しよう。