大豆の小葉の形には円葉(Ln/Ln,broadまたはovate)と長葉(ln/ln,narrow)があり,F1は中間型(Ln/ln)を示す。世界の大豆を概観すると円葉品種の栽培が優勢にみえるが,長葉品種もそれなりの存在を示している。これは,長葉大豆は一莢内粒数が多く(4粒莢率が高い)小粒である,群落の透光率が高く密植栽培に適するなどの特性を有するためで,その性質を活かした栽培である場合が多い。
北海道で栽培された「長葉大豆」
これまでに北海道優良品種に認定された長葉大豆は13品種ある(全体の10~15%)。
添付「北海道の長葉大豆一覧」
13品種は,その特性・用途,時代から4群に大別できる。
A群は,無毛品種(裸大豆)でマメシンクイガ抵抗性を目標に育成された品種群(長葉裸,長葉裸1号,ホッカイハダカ)である。これら品種が優良品種になった時代(昭和14~33年)は,マメシンクイガ被害対策が第一の課題であった状況を反映している。その後,裸大豆は耐冷性が弱かったこと,農薬の普及が進んだため,昭和30年代で姿を消した。
B群は,褐目小粒種群で多収・耐冷性を目標に育成された。「十勝長葉」「北見長葉」は耐倒伏性に優れ多収であったことから急激に栽培が拡大し,十勝管内の普及率は50%を越えた。しかし,晩熟であったことから度重なる冷害の被害を受け,耐冷安定性の「鈴成」「イスズ」「北見白」などに置き換えられた。「イスズ」は早熟で作り易かったことから十勝山麓・沿海地方に定着した。後年,在来種として収集された「ごんじろう大豆」「宮崎大豆」「足寄太長葉」などは,篤農家が「イスズ」から選出したものではないか考えられる。
C群は,中国品種を片親に高脂肪多収を目標に育成された白目小粒種である。小粒ではあるが,白目で品質が良く,大豆の輸入自由化(昭和36年)に対応するタイミングで公表された。「コガネジロ」は十勝地方で白目大豆として本格的に普及を始めたが,昭和39年の大冷害で着莢障害,菌核病被害が著しく栽培は頓挫した。「ナガハジロ」は脂肪含量が高く,「ワセコガネ」は機械化栽培適応性が高いことから優良品種に決定したが,安い輸入大豆におされて栽培は拡大しなかった。
D群は小粒納豆用の品種群である。昭和50年代から,国産納豆原料需要の高まりを受け,「スズヒメ」「スズマル」「ユキシズカ」が順次開発された。生産地の形成,納豆製造業者との連携,消費者からの高い支持を受け,生産は順調である。現在,北海道の畑で長葉大豆を見かけたら納豆用大豆だと言ってよい。
品種の変遷には,時代の背景がみえて面白い。輸入大豆との競争の中で,国産大豆は中・大粒,良質というメリットを活かして残ってきたため,極小粒の納豆用は別にして円葉品種が主体となっている。春先の低温が続く北海道では,長葉は円葉に比較し初期生育が劣るため不利であることも,丸葉優位の原因であろう。
しかし世界では,長葉大豆で密植栽培を指向する動きが続いている。
長葉のルーツは「本育65号」
北海道における長葉大豆のルーツは全て「本育65号」に辿りつく。
添付「北海道における長葉大豆の系譜」
「本育65号」は,北海道農事試験場本場が十勝支場から取り寄せた「大谷地」から選出されたものとされる。その根拠は,本場の種苗台帳の記載である。それには,「番号(本育65号),種類(大豆),仮名称(大谷地選出“四粒黄目白大粒”),記事(1922年十勝支場ヨリ輸入セル大谷地中1株長葉ニシテ目白粒ノモノ発見(自然雑交)分離固定セイシメタルモノナリ)・・・」とある。
ところで,「大谷地」は円葉,褐毛,種皮色は黄白,臍色は暗褐であるのに対し,「本育65号」は長葉,白毛,種皮色はややくすんだ黄色,臍色は黄~極淡褐である。熟期も中生と晩生であり,特性は大きく異なる。「大谷地」中の1株が自然交雑によるF1だとすれば,葉形は中間葉,褐毛であったろうし(くすみ粒は納得できるが),3年後に品種比較試験を実施するほど固定したのだろうか?
一方,先の種苗台帳にある似通った表現の中国東北地方在来種「四粒黄」との関係はどうだろうか? 道内に保存される「四粒黄」と比較すると,種皮色,臍色,粒大などの特性で差異が認められる。
北海道における長葉大豆のルーツ「本育65号」の来歴は,今なお理解できていない・・・。