豆の育種のマメな話

◇北海道と南米大陸に夢を描いた育種家の落穂ひろい「豆の話」
◇伊豆だより ◇恵庭散歩 ◇さすらい考
 

パラグアイからの情報「大豆の天候相場」

2015-09-07 09:57:53 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

2015年9月某日,札幌にあるシュラスケリア(ブラジル風焼肉店)で会食があった。北海道パラグアイ協会(会長堀内一男)が主催する「田岡功氏来札幌歓迎夕食会」である。田岡氏は前パラグアイ国駐日大使(現大統領顧問)で,日系農業協同組合中央会会長理事でもある。同国のFECOPROD(生産協同組合連合会)会長,ECOP(貿易生産企業)副社長ら3名が同行していた。

ここで,FECOPRODはわが国の「全国農業協同組合中央会」のような存在,ECOPはパラグアイ生産部門へ燃料及び肥料の供給(サービスステーション),農産物の輸出をサポートする企業体である。訪日の目的は,農業生産組織の視察と関係構築にあったのだろう。

夕食会はごく非公式なものだったため,親睦的な意味合いが強かった。時折に田岡氏が通訳されたが,隣席者との会話は殆どがスペイン語,日本語が混淆し和気あいあいの雰囲気であった。北海道パラグアイ協会の出席者は6名,何れもパラグアイ生活体験者であるが,「スペイン語が出て来ないねえ」と錆びついた頭を叩きながらの会話であった。そんなわけで,話題は食事のこと,パラグアイ生活のことなど簡単な会話の範疇に止まった。

帰宅してから,「大豆価格が低下している」と語ったECOPロナルド氏の言葉が気になって,シカゴ相場をトレースしてみると,大豆価格は2014年10月頃からトン当たり350~380 USドルに下落している。ここ数年(2011~2014)が450~550ドルであったことに比べれば,20~30%減で話題になるのも分らぬことはない。が,それ以前の1980~2010年は200~250ドルであった。

CBOT(シカゴ商品取引所)の情報は多数の機関が逐次発信しているので,誰でもその変動を把握することが出来る。近年の穀物価格の高騰は多様な要因があるが,次の点が指摘されるだろう。

2003年:米国の高温・乾燥,中国輸入急増

2011年,2012年:米国の高温・乾燥(旱魃)

暫く高騰基調が続いたが,2013年,2014年の豊作で低減した。即ち,2014年5月以降,米国大豆の順調な生育と南米の豊作見込みが報じられたことによる影響だろう。需要が伸びていることもあり大豆価格は高値状態が続くだろうが,天候と作物の豊凶予測で大きく変動するに違いない。

かつて,パラグアイのラパス農協の専務が語った言葉を思い出す。

「私の仕事は,シカゴ相場を見て,大豆をいつ売るか決めることだ・・・」と。

昔を思い起こさせる夕食会であった。

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パラグアイの大豆,日本の技術協力と栽培実態(栽培実態)

2014-09-21 18:05:58 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

(2011.5.19の続き)

2. 大豆栽培の実態

1)肥沃なテラ・ロサ土壌

パラグアイ東部の農耕地帯は赤い大地(テラ・ロサ土壌)である。玄武岩由来のこの土壌は有効土層が厚く,赤色細粒質の肥沃土壌で,ブラジル及びアルゼンチンとの国境を流れるパラナ河沿いに分布している。大豆栽培は,この土壌を覆っていた亜熱帯多雨林を焼畑により開墾することから始まった。開拓当初は無肥料でもかなりの収量を得ていたが,最近は土壌保全の必要性が指摘され,冬作への緑肥導入等が進められている。

2)高位安定生産に寄与した不耕起栽培

パラグアイに定着した画期的な栽培技術に不耕起栽培がある。播種前に行なう耕起,砕土等の整地作業を省略し,前作物の残渣が残る畑に直接播種する栽培法である。この栽培法は,1980年代初頭にブラジルからパラグアイへもたらされ,現在では日系移住地の95%以上(パラグアイ全体で76%,2002年パラグアイ穀類油脂会議所調べ)に導入され,今や大豆栽培の基本技術として定着している。

不耕起栽培導入の目的は,土壌侵食の防止であった。パラグアイの大豆栽培地帯は緩い起伏のある波状丘が連なる地形のため,大型機械による大豆栽培が恒常化するにつれ土壌流亡が顕著になり,パラナ河は赤い大河と化していた。雨が降るたびに大きく削り取られる表土をみて,イグアス地区の深見明伸らは「このままでは,農業が出来なくなってしまう」と強い危機感を持ったという。1983年に彼らが不耕起栽培を始めてから20年,この技術はパラグアイ全土へ拡大し,パラナ河は昔のとおり悠久の流れを取り戻している。

統計を見ると,不耕起栽培の普及によってパラグアイの大豆収量は3 t/ha近い高水準で安定するようになった。これは,不耕起栽培により作業時間が短縮され作業が天候に左右されなくなったため,適期に播種作業が終わるようになったことが大きく影響していると考えられる。ちなみに,播種は南部では11月上~中旬,東北部では10月中~下旬に行なわれるが,晩播すると現在の品種では減収が大きい(12月中旬播種で83%,1月上旬70%,1月下旬36%,土屋2002)。

一方,不耕起栽培が継続するにともない収量増加の伸びが止まり,低下傾向も見られる。この原因は,不耕起栽培では土壌の攪拌がないので肥料や有機物が土壌表面に集積することにより根系分布が浅層化し,旱魃害を受けやすくなったためと推察され,対策試験が実施されている(関1999)。

3)新たな病害虫の発生

一方,大豆に偏った経営は国際価格の変動や気象災害など不安定な要素を抱えている。また,大豆の栽培歴が新しいため顕著な病害は比較的少ないが,今後は新たな病害虫の発生,被害の増大を予想しなければならない。

ダイズシストセンチュウについては,2003年CETAPARの研究者及び清水啓専門家らによって存在が始めて報告された(なお,ブラジルでは1991年,アルゼンチンで1997年に発生している)。報告を受けた農牧省植物防疫局は汚染地域を植物防疫隔離地域に指定するとともに(写真1)発生実態調査を実施し,ブラジルに近い北部や東部の県でも発生を確認した。JICAプロジェクトでは,この日を予測して抵抗性品種の育成を進めていたので,発生が確認された2003年には有望系統が選抜されており,タイミングよく成果を示すことが出来た。

また,2001年にはYorinori博士によってアジア型病原体による大豆さび病(Phakospora pachyrhizi)の発生が確認された。本病は東南アジア等で大きな被害をもたらしている重要病害であるが,南北アメリカではこれまで報告されていなかった。翌年にあらためて実態調査を行ったところ,ほぼパラグアイ全土で発生を確認した。その後の情報によれば,ブラジル,ボリビアでもかなりの被害が出ている。

4)遺伝子組み換え大豆

当時パラグアイでは,農牧省・厚生省・環境保全局・自然保護団体間の合意が得られず,またブラジルとの足並みを揃える必要から商業栽培を認めていなかったが,アルゼンチンから国境を越えてGMOが進入し,「もぐり栽培」が増加していた。当初は気象条件に適応せず低収であったが,パラグアイに適するGMOが作付けされるようになると面積は急激に増え,2004年には南部で85-90%,東部で75%がGMOであるという(注,2004年10月20日農牧大臣署名を受けて商業栽培が認可された)。

大型機械を駆使した畑作経営は面積拡大の方向にあるが, GMO大豆の導入によりこの傾向はますます顕著になっている。ジェルバ・マテ(マテ茶の原料となるモチノキ科の常緑低木)畑が大豆に替わるなど小農の畑を圧迫して土地なし農民を生み,さらには小農の雇用機会を奪うなど治安の悪化が囁かれている。一方,非GMOを分別流通する動き,有機栽培大豆や高蛋白大豆にプレミアをつけようとする試み,バイオジーゼルの話題も新聞を賑わせているが,流れはまだ小さい。

CRIAのエントランスホールには「日本とパラグアイの関係者が共に力を合わせ献身したことにより,パラグアイ農業発展に寄与し,パラグアイ国民にとって価値ある成果が結実した(西語)」と刻まれたプレートが填め込まれている。プロジェクトによって実をつけた果実が,パラグアイ研究者の手によって大きく成熟することを願って止まない。

参照-土屋武彦2005:農林水産技術研究情報28(5)42-45

参考文献

1)JICA(2003):パラグアイの農業発展を支えたJICA技術協力の23年史,JICA,58pp.

2)丹羽勝(2004):農業技術59(8):371-375

3)関節朗(1999):農業および園芸74(10):1080-1084,74(11):1187-1190

6)土屋武彦(2002):大豆育種専門家業務完了報告書JICA,29pp.

5)土屋武彦(2003):パラグアイで何故大豆育種を行うか(西語)JICA,51pp.

4)土屋武彦(2004):農業および園芸79(1):23-30,79(2):256-262,79(3):358-365

7)土屋武彦(2005):北農72(1):101-106

 

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「大豆の播種期」が早まっている(南米農業事情)

2013-08-01 17:59:12 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

2013年の或る日のこと、帰国したばかりのKさんから電話があり「パラグアイでは最近,大豆の播種期が早くなった」と聞いた。

K氏は,パラグアイ大豆育種研究協力に参画した20年前からずっと同国大豆育種の現場でご苦労され,先月(20136月)任期を終え帰国したばかりである。

「以前は11月に播種していたが,最近は9月に大豆を播き始める」

と生産現場の変化を述べ,早播になった理由と問題点を指摘した。

◇後作(大豆収穫後)にトウモロコシを播くようになり,播種期が早まった。

◇中生種から早生種へ品種構成が変化した。

◇中生種のカメムシ被害が増加している。

◇莢先熟が発生し,コンバイン収穫前に除草剤による茎葉枯凋処理を行う生産者がいる。

 

大豆の播種期が早まっているとの情報は,10年前(2002326日)にアルゼンチンを訪問したときにも聞いた。パラグアイの特異例ではなく,南米大豆作全般の傾向であるのだろう。

 

農牧省マルコス・フアレス農牧研究所(INTA)ラタンシイ場長(当時)の言葉を思い出す。

「貴方がINTAにいた頃に比べ,播種期が早くなっている。従来の播種適期は11月だったが,現在10月播種になった。そして,品種も早生が多くなっている。湿潤パンパ地帯(特にサンタフェ州からコルドバ州)で作付けされる品種は,かつて熟期Ⅵ~Ⅶ群が主体であったが,近年Ⅲ~Ⅳ群の品種が多くなった。品種改良により早生群でも多収が得られるようになり,播種期が早まったのだろう」

その時の報告書を開いてみると,「パラグアイ大豆研究プロジェクトでも早播き適応性・晩播き適応性品種の育成成果が出た時には,もう一度播種期を見なおす検討をしたら良い」とある(任国外出張実施報告書,2002)。

 

従来,大豆の播種適期は11月とされた。これは,この時期に雨量が多くなる気象条件や播種期試験の結果に基づき設定されたものである(だが近年,降雨時期が変化したとの見方がある。不耕起栽培により播種期の適応幅が拡大した)。

 

筆者らが実施した2006/07年の播種期試験では10月下旬~11月上旬が多収で,従来の知見よりは半月ほど早かった(参照-土屋武彦2007:専門家技術情報第4号,パラグアイにおけるダイズ品種の播種期試験2006/07JICA-MAG)。一方,生産現場ではアルゼンチンから導入されたGMO大豆が早生のため,既に更なる早播化が進行していた。

 

同じころ,CRIAのプロジェクトではこの現象に対応するため,トウモロコシの前作に適応する早生の多収品種「Guaraní」を発表し(参照-土屋武彦2006:大豆新品種CRIA-4Guaraní)とCRIA-5Marangatú)の育成,専門家技術情報 第1号,MAG-JICA),その早播適応性を活かしパラグアイ東部の地帯に普及させようとした。K氏の話では,本品種は数百ヘクタールの規模ではあるが栽培されていると言う。

 

大豆を早く播くようになった要因は,大豆後作にトウモロコシを導入し有機物還元を図ろうとする考えに基づく。当地の従前栽培体系は大豆連作の継続であることから,地力維持のためにトウモロコシ導入は望ましい方向である(二期作に進むのは望ましくない)。

 

9月~10月の早播栽培を成功させるためには,早生品種の導入が必須だが,早生品種の収量水準や適応能力の改善が極めて重要になってくる。K氏が指摘した「莢先熟」の問題も,品種改良や総合的な栽培技術改善(栽植密度・栄養生理・病害虫対策)が必要である。技術開発の進展を期待したい。

 

ちなみに,早生品種は生育期間が短いため晩生品種より少収であるが,人類の歴史の中には早生品種の収量水準向上を実現した事例は数多くある。ここでは北海道の大豆について触れよう。例えば,「十勝長葉」から「北見白」「キタムスメ」,「トヨスズ」から「トヨムスメ」「トヨコマチ」「ユキホマレ」など最近の品種変遷をみても明らかである。

育種の評価は,画期的な大品種を称賛するにとどまらず,一歩ずつ着実に前進して蓄積されること,すなわち継続性の成果をこそ見るべきでないか。

 

なお,播種期試験と新品種「Guaraní」については,当ブログ「パラグアイにおける大豆品種播種期試験(201168日),「パラグアイ大豆,4粒莢の多い早生品種Guaraní2011716日)に記載している。

 

  

     播種期と大豆収量(パラグアイ)

 

 

 

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穀物価格の高騰,今年も記録的な旱魃が起きている

2012-08-19 11:24:35 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

テレビをつけると,農作物の旱魃被害の映像が飛び込んできた。枯れ上がったトウモロコシの収穫風景と農家の深刻な表情がリポートされている。念のためUSDAのホームページを開くと,合衆国穀倉地帯の旱魃状況が逐次地図に示されている。北海道新聞も社説「穀物価格高騰」(2012.8.18)及び819日の記事で,被害が農耕地の64%にも及ぶ記録的な旱魃・・・と述べている。合衆国ではトウモロコシの被害が報道されているが,大豆も生産量が大幅に落ち込み,供給不足が予想され,7月頃から穀物価格の高騰が始まっているという。

近年,地球のあちこちで,農作物の旱魃被害発生頻度が高くなっているのではないか。

 

旱魃が穀物価格の高騰をもたらし,開発途上国の低所得層を直撃した(食料が供給されず暴動化した)事例を,我々は数年前に経験したばかりである。

世界的な人口増加,新興国の旺盛な食糧需要,穀物のバイオエネルギー転化などを鑑みるに,穀物需給はそれでなくとも逼迫状況にある。これに加えて,頻発する旱魃は社会騒乱の引き金になるだろう。

 

旱魃は,昨夏の南米でも大きな被害を与えていた。パラグアイ政府は,2001/2012作期(1011月に播種し,34月に収穫)の大豆生産について,年次当初860万トン(単収2.9t/ha)の収穫を予想したが,ラ・ニーニャの発生と旱魃により大きな被害を受け,生産量は予想の49.5%(生産量436万トン,単収1.5t/ha)になったと発表している(パラグアイ農牧省)。

 

ここで,パラグアイの大豆生産量の年次推移データから,旱魃被害の発生頻度について検証してみよう。

図(写真)は,パラグアイ大豆の作付面積,生産量,単収について,20年間のデータを示したものである(年次は収穫年で示す。パラグアイ大豆生産量の推移)。

 

作付面積は20年前(1993年)の63haから,2012年には296ha4.7倍)まで,ほぼ直線的に年々増加している。一方,生産量は180万トン水準から800万トン程度まで増加しているものの,最近は減収著しい年次が見られる。例えば,20042006年は生産量が停滞し,2009年及び2012年は大きく落ち込んでいる。

 

単収の推移をみれば,収量の落ち込み,不安定さが,より顕著に理解できる。1995年には全国平均で3t/haを越え,当時は間違いなく世界一の高収量国であったが,最近は必ずしも誇れる状態ではない。収量水準が低迷している。また,平年の半作に近い低収年の発生頻度が高まっている。特に,最近の10年間では平均単収が2t/ha以下の年が5回もあるのだ。

 

要因は何か?

減収の第一要因は旱魃である。2009年,2012年は特に干ばつの影響が大きい。20042006年の減収には,2001年に初発生が確認されたさび病(アジア型)の蔓延やGM大豆不法栽培の影響(アルゼンチンから非合法導入された早生種が干ばつの影響を大きく受けた)も考えられるが,旱魃被害がなければこれほどの低収にはならなかっただろう。

 

このように,異常気象による旱魃害の発生は恒常化し始めたと言えるのではないだろうか。森を拓き,灌漑し,大規模単作農法を指向した付けが回ってきた。GM品種が生まれ,大規模化はさらに加速されている。穀物輸出国が推進してきた大規模農法が旱魃を増長したと言えなくもない。現農法のクライシスを暗示しているのかもしれない。

 

さりとて,この流れにブレーキを掛け得ても(旱魃要因の削減,ストレス耐性向上など),バックギアで半世紀前まで戻ることはできない(世界の飢えたる人々を見殺しにはできない)。問題解決が世界共通のテーマとなっている。食糧の安定生産に向けて,各国の技術開発・環境整備への投資,発展途上国への技術援助など,「農」に対する長期的・戦略的な取り組みが求められている。

 

短期的には,日本であれば食料自給率向上が必要であり開発途上国への技術援助もできるだろう。穀物輸出国には輸出制限に歯止めをかけるルール作り,世界としては備蓄の国際協力・・・等々,真剣に考える時だ。

 

 

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パラグアイ大豆生産の歴史年表

2012-01-14 13:55:45 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

南米パラグアイ共和国の大豆生産量は約600万トン,干ばつで生産量が少ない年でも400万トンである。この量は,わが国生産量の27倍,食用・加工・飼料用などすべてを含むわが国の需要量に匹敵する。

このパラグアイで最初に大豆栽培を始めたのは日系移住者で,彼らがその後も栽培技術や品種開発などで先進的な取り組みをし,現在も生産の中枢にあることを,あなたはご存知ですか?

 

大豆自給率が僅か4-5%にすぎない日本が,大豆ショックの経験を経て,アメリカ合衆国からの輸入に依存していた体質からウイングを広げ,南米諸国の大豆生産に技術支援をしてきたことを,あなたはご存知ですか?

 

パラグアイ大豆生産の歴史を,年表として整理しました。

 

 

 

 

 

 

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ダイズシスト線虫の初発生と対応(パラグアイの事例)

2011-11-26 13:45:16 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

ダイズシストセンチュウHeterodera glycines Ichinohe)は,世界各地で発生が確認されている大豆の最も重要な有害線虫である。南アメリカでは1992年にブラジル,1997年にアルゼンチン,2003年にパラグアイで初発生が確認された。

パラグアイで発生が確認された頃,ちょうどJICAプロジェクトの専門家として当国に滞在し線虫対策に関わったので,対応の経緯を取りまとめておこう。パラグアイは南米の田舎と称され,のんびりした国柄ではあるが,線虫害に対する反応は早かった。

パラグアイにおけるダイズシスト線虫対策に対して,日本専門家の貢献が大きい。

 1. 発生確認と発生分布調査に貢献したJIRCAS研究員

 2. 抵抗性品種開発に貢献したJICAプロジェクト専門家

パラグアイにおけるダイズシスト線虫対策年表

 1992:ブラジルでシスト線虫発生を確認(Mendes and Machando, 1992

 1994:ブラジルでの発生を受け,パラグアイでモニタリング調査開始(CETAPARDDV,ただし2001年まで発生は確認できなかった)。国立地域農業研究センター(CRIA)でシスト線虫抵抗性遺伝資源の導入と交配を試みる(JICA主要穀物生産強化計画)。

 1997:将来の発生を予想して, CRIAでシスト線虫抵抗性育種を開始(JICA大豆生産技術研究計画)

 1998:アルゼンチンでシスト線虫発生を確認(Baigorri et al., 1998

 1999CRIAの育種材料をブラジルで検定(JICA大豆生産技術研究計画,2002年までに計54組合せ1,930系統を検定し,446抵抗性系統を得た)。

 2001RAPD法による抵抗性選抜を試みる(JICA大豆生産技術研究計画)。

 2002.12.4:パラグアイのカアグアス県でシスト線虫発生を確認(JICAパラグアイ農業総合研究センター(CETAPAR))

 2003.1.21CETAPARから農牧省植物防疫局(DDV-MAG)宛,シスト線虫発生確認の文書提出

2003.2.13:農牧省(MAG)決議第79/03号:植物検疫地域の宣言し,立ち入り移動を制限。以下発令事項(MAG決定第1号:検疫地域を宣言した第79/03号決議を有効に執行するために。MAG決定第2号:検疫地域の管理を有効に行うために。MAG決定第3号:シスト線虫の予防と管理に係る技術チーム・メンバーの指名)

 2003.2.14:新聞報道(abc紙,Economia 20面)

 2003.2.17:新聞報道(Noticias紙,Economia 16面)。DDV-MAG検疫対策の実施(検疫と検疫管理に関する通達)

 2003.2.25:緊急モニタリングの開始(DDV),カアグアス県で調査圃場の17.6%が汚染を確認

 2003.2.26:新聞報道(abc紙,Rural 4面)

 2003.3.6:検疫地域の取消し

 2003.4.1:提言<JICA専門家;シスト線虫被害拡大を防ぐために抵抗性育種体制の早期確立を>

 2003.10.29:農牧省とJIRCASの共同研究プロジェクト開始(IANを研究サイトに線虫研究)

 2003.11.3:シスト線虫発生地域情報(農牧省植物防疫局病害虫防除部)

 2004.2.6:学会報告(日本線虫学会誌 34-1

 2005.5.3:シスト線虫発生分布情報(JIRCASIAN-MAG

 2006.2.16:シスト線虫及びさび病抵抗性品種の育成プロジェクト開始(JICA,CRIA-MAG

 2006Yjhovy(カニンデジュ県)に抵抗性検定圃を設置(JICA,CRIA-MAG 1,455系統検定)

 2007Yjhovy(カニンデジュ県)抵抗性検定圃で検定継続(JICA,CRIA-MAG

 2008:シスト線虫抵抗性の新品種LCM167育成:CRIA-6(Yjhovy)として登録公表。シスト線虫抵抗性の新品種候補LCM168育成(JICA,CRIA-MAG

 

*JICA主要穀物生産強化計画1990-1997

 *JICA大豆生産技術研究計画1997-2002,専門家(橋本鋼二,丹羽勝,古明地通孝,土屋武彦)

 *JICA大豆生産技術研究計画のF/U2003.02-08,専門家(土屋武彦)

 *JICAシスト線虫・さび病抵抗性品種の育成FENIX 2006.02-2008.02,専門家(土屋武彦)

 *JIRCAS南米大豆研究,研究員(清水啓,佐野善一)

参照:1) Takehiko Tsuchiya 2007「Mejoramiento Genetico para la Resistencia al NQS en el Paraguay」 2) 土屋武彦2008「ダイズシストセンチュウ抵抗性大豆新品種候補LCM167, LCM168」JICA-MAG

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南米における大豆育種,展望

2011-11-03 15:20:39 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

南米の大豆生産はこれまで飛躍的な拡大を続け,経済的にも重要な産業として定着した。世界の大豆需要が増加するなか,広大な耕地を抱える南米は今後も重要な生産地であり続けるだろう。大豆育種研究も引き続き発展が期待される。

多収・安定性,適応性

 ブラジルとアルゼンチンの大豆平均単収の推移をみると,大豆試作期である1960年代は1.2t/ha,導入品種選定期の1970年代は1.5t/ha,育成品種普及期の198090年代は2.0t/ha,不耕起栽培が定着しグリホサート耐性品種が普及し始めた2000年代(GM品種普及期)は2.5t/haに増加している。この増加要因は,品種改良と栽培技術改善の効果である。特に,導入品種から育成品種への転換,低緯度地帯および高緯度地帯へ拡大する大豆栽培に対応した品種開発,病害抵抗性の付与,冬作との輪作を有効にした早播適応性の向上など育種の貢献が大きい。

 

現在,生産現場で3.54.0t/haの単収はめずらしくない。2010年代には各地域に適応する熟期群の品種能力が向上し,平均単収でも3.03.5t/haを超える水準になるだろう。

 

病虫害抵抗性

 茎かいよう病や斑点病が抵抗性品種の開発と導入によって抑制されたように,今後も病害虫抵抗性は育種の重要な柱である。また,1990年代になって発生が確認されたダイズシストセンチュウについては,汚染圃場のモニタリング,レースの判定,抵抗性品種の開発など迅速な対応がとられたが,今後も汚染拡大が懸念されるので継続した対応が求められる。

 

現在,南米ではダイズさび病被害が最も大きく,ブラジルでは2006/07作期の大豆で267,000tの損失があったとされる。各国の研究者はプロジェクトを組み,アメリカ合衆国や日本の研究者も参加して精力的な対応が進んでいるので,成果は近いだろう。

 

食品・加工適性

 ブラジルのEmbrapa大豆研究所で食品・加工用の品種が開発され,アルゼンチンのINTAでも研究が開始された。消費者の間でも大豆の栄養性,機能性に対する興味が高まっているので,進展が期待される分野である。南米各地のスーパーを覗いてみると,何処でも紙パックの豆乳が出回っている。醤油も人気の調味料となり,日本レストランも賑わいを見せている。

 

遺伝子組換え品種

 グリホサート耐性を示す遺伝子組換え大豆(GM品種)が栽培されるようになってから10年が経過した。アルゼンチンでは1976年に導入された後,急速に広まり,現在98%が耐性品種と推定される。パラグアイとブラジルでは導入に対して賛否の議論が長く続き,2004年と2005年になってようやく認可された。しかし,この間も生産者の耐性品種に対する要望は強く,非合法な流入が多く見られた。当初は適応性評価が不十分なため旱魃被害や低収など混乱したが,2000年代後半には各地に適応する品種も増え収量は安定してきた。2007年現在パラグアイでは75%が耐性品種と推定され,ブラジルでも急速に増加している。

 

特に南米では,1戸当りの栽培面積が大きいこと,不耕起栽培が定着したこと,大豆価格高騰に伴い放牧地を畑地化する動きが加速されたことなどから,除草剤耐性は欠かせない特性になってきた。

 

課題

 栽培地帯の拡大:大豆需要の増大・価格高騰の影響を受けて低緯度地帯や高緯度地帯へ栽培地域が拡大したため,適応性の向上と安定性が求められている。また,頻繁に発生する旱魃被害や土壌劣化への対応は今後の課題である。一方,耕作地の急激な拡大については,環境保護の観点から反対意見が高まっている。今後は環境に調和した大豆生産に配慮する必要があろう。

 

 生育障害対策:南米畑作地帯の作付け体系は「大豆(夏作)―小麦(冬作)」が主体で,大豆の作付け頻度が高いため,新病害の発生など病虫害の被害が常に問題となる。近年,農薬の投入量も増加しているので,抵抗性品種の開発は引き続き重要な課題である。同時に,緑肥作物の導入,輪作体系の確立など病害対策に加え,地力保持対策も検討されなければならない。

 

 用途の拡大:南米の大豆は輸出を目的とした大規模な油糧作物として生産されてきた。今後もこの位置づけは変わらないが,貧困層を多く抱える南米諸国にとって,新たに食品・加工用へのアプローチもひとつの課題であろう。

 

 育種体制:種子会社の競争原理に基づく興隆は大変結構なことであるが,民間育種が強い国ほど公的育種無用論が出てくる。しかし,大豆生産が国家を支える重要産業となった南米諸国(BAPB)では,育種研究場面でも国家が果たすべき役割は大きい。パラグアイで大豆育種研究技術協力に携わったとき,いつも「Por qué se realize el mejoramiento de la soja en Paraguay」と投げかけていた。

 

参照:土屋武彦2010「南米におけるダイズ育種の現状と展望」大豆のすべて(分担執筆)サイエンスフォーラムを一部加筆,詳しくは本書をご覧下さい。

  

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南米における大豆育種は規模が大きく,省力仕様

2011-11-01 18:17:12 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

南米の育種機関をわが国に比べると,育種規模が大きく,測定項目はかなり単純化され,育種システムは省力化が進んでいる

育種法

育種法は,選抜の効果を高めるため育種場所によって工夫が施されているが,人工交配による変異作出と栽培環境に対応するための早期選抜が基本となっている。すなわち,ガラス室内での交配,中米や温室を利用した冬季世代促進,F2F4世代を単一種子法や集団採種で進め,F4またはF5世代で個体選抜,F5またはF6世代で系統選抜を行い,分離系統は廃棄し固定系統のみを系統集団として世代を進めるなど作業を単純化している。選抜系統は環境の異なる数か所の試験地を利用して生産力検定予備試験を実施するなど,固定系統の早期評価が特徴である。

一般的な育種の流れをモデルとして図示した(図)。育種規模は,年に400800組合せの交配を実施するなど,わが国に比べて規模が大きい。また,測定項目はかなり単純化され,育種システムは省力化が進んでいる。

耐病性の検定および選抜は隔離室での接種検定が主体で,系統選抜段階で実施される。また,DNAマーカー選抜も,病害虫抵抗性検定を主体に一部取り入れられており,今後さらに増加するだろう。品質に関する選抜および評価は近赤外線分析計など簡易測定機器の利用が多い。病理や品質の専門研究者が育種チームに入り分担協力している。

比較考

南米大豆育種における規模の大きさを述べたが,「それがどうなの?」と言われそうな気がする。

はたして,規模が大きいことは良いことか?

育種の基本手順は,変異を作り出しその中から希望個体を見つけ出すことに尽きるので,規模が大きいことは含まれる希望個体の頻度が高まるメリットがある。しかし,規模が大きいと希望個体を選抜するための観察や調査に労力を要し,調査項目も簡素化せざるを得ない。また,必然的に系統観察がおろそかになり易い。

一方,わが国のように試験圃場面積に制限がある場合は,比較的早い世代から系統を作り,多くの特性を綿密に調査観察しながら希望個体に近づく努力をする。この場合は,規模が小さいため,観察はよく行き渡るが希望個体が網から漏れることがある。

前者では少ないデータからの判断,後者ではやたら多い数値を取捨選択しながらの判断,どちらにしても「育種家の目」と呼ばれる経験が大事になってくる。経験則からすれば,わが国ではもう少しシンプルに,南米ではもう少し綿密にということになろうか。

種子増殖と普及

各国とも,種子の増殖・配布,種子の検査に関する法律が制定され,担当機関が設置されている。種子については,水分,発芽率,病害の有無,異種や雑草種子の混入など,国際基準に準じた規則が定められている。

新品種の普及については,新品種発表のセレモニー(圃場参観),生産者向けパンフレット,各地に設置した品種展示圃(写真)など,極めて活発な普及戦略がとられている。大豆栽培面積が大きいこれらの国では,種子販売が直接収益に結びつくため,品種の普及戦略はわが国に比べより重要な位置づけにある。

品種保護

南米諸国では多くの国が国境を接し言語が共通ないしは類似しているため,情報や品種の流れが容易である。大豆栽培が急激に拡大する時代には隣国の品種が国境を越えて無法に流入することも多かったが,近年各国とも育成者の権利保護に係る法的な整備が進み,種子の生産・増殖,販売については育成者の許諾が必要な行為と認識されるようになった。

1961年に育成品種の保護を目的として採択されたUPOV条約(植物新品種保護国際連盟)には,アルゼンチンとウルグアイが1994年,チリが1996年,パラグアイが1997年,ブラジルとボリビアが1999年に加入している(1978年条約を批准)。

なお,各国農牧省の「品種保護登録簿」へ登録された大豆品種は,2008年現在ブラジル374品種,アルゼンチン446品種,パラグアイ159品種である。各国の登録品種,登録機関などの情報は公開されている。

参照:土屋武彦2010「南米におけるダイズ育種の現状と展望」大豆のすべて(分担執筆)サイエンスフォーラムを一部加筆,詳しくは本書をご覧下さい。

 

 

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南米三国(BAP)では,何を目標に大豆育種を進めているか?

2011-10-22 17:27:02 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

生産増加が続く南米大豆であるが,課題は多い。課題解決に向けては品種対応が一番であるとの認識で,新品種開発の努力が精力的に進められている。南米三国における大豆育種はいま,何を目標に進めているか?

多収・安定性,適応性

南米における大豆栽培地帯は低緯度から高緯度まで広範であるため,それぞれの地域の環境に適する安定・多収品種が求められる。また,耐倒伏性や難裂莢性などは大型コンバインで収穫するための必須形質である。生育障害に対する耐性では,病害抵抗性,センチュウ害抵抗性,耐乾性などを重視した育種が進められている。

 

病害,センチュウ害抵抗性

被害が大きい病虫害の種類は,ブラジルとパラグアイでは褐紋病(Septoria glycines),茎かいよう病(Diaporthe phaseolorum f.sp. meridionalis),紫斑病(Cercospora kikuchi),葉焼病(Xanthomonas oxonopodis pv glycines),炭腐病(Macrophomina phaseolina),さび病(Phakopsora pachyrhizi),シストセンチュウ(Heterodera glycines)が,アルゼンチンではその他に菌核病(Sclerotinia sclerotiorum),茎疫病(Phytophthora sojae),急性枯死症(Fusarium solani f. sp. Glycines)であり,これらの耐病性育種が目標となっている。勿論,地域によってその重みは異なる。

 

茎かいよう病は1988/89年作で初めて確認され,ブラジルのパラナ州,マトグロッソ州およびパラグアイで大問題となった。Embrapa大豆研究所では幼苗期の抵抗性検定法(爪楊枝接種)を確立し,育種事業に導入して短期間に抵抗性品種の開発に成功した。パラグアイのCRIAでも同様の抵抗性検定を育種に組み込み,抵抗性品種を開発した。最近育成されたほとんどの品種は,茎かいよう病について抵抗性をもっている。

 

ダイズシストセンチュウについては,1992年ブラジル,1998年アルゼンチン,2002年パラグアイで相次いで発生が確認され,被害面積も拡大している。ブラジルではシストセンチュウによる汚染面積は250haに達すると推定され,Embrapa大豆研究所やマトグロッソ農業研究財団(Fundação MT)等がレース13に対応した抵抗性品種開発に成功しており,本格的な抵抗性育種に取り組んでいる。アルゼンチンではサンタフエ州とコルドバ州で汚染圃場率が高く,パラグアイではブラジルに隣接する北東部のカニンデジュ県やアルトパラナ県で汚染圃場率が高い。アルゼンチンおよびパラグアイ両国でも最近になって抵抗性品種が開発された。

 

一方,シストセンチュウの拡散が予想に反して抑えられているのではないか,との意見もある。その理由として,不耕起栽培であること,高温のためシストの孵化が早まり大豆の生育とズレが生じること,などが挙げられている。しかし,線虫対策が重要なことに疑いはない。

 

さび病(アジア型)は,2001年にパラグアイで発生が確認され,その後ブラジル,ボリビア,アメリカ合衆国などへ拡大した。筆者は当時パラグアイに滞在しており,発見者であるEmbrapa大豆研究所Yorinori博士と現地調査する機会(2001年)があったが,さび病がこれほどまで急激に拡大し,被害が継続するとは思わなかった。しかし現在,アメリカ大陸の大豆育種機関では,さび病耐性の付与が緊急の課題として取り組まれている。

 

環境ストレス耐性

水分不足は生育の停滞と減収を招きやすい。特に,開花・着莢期の旱魃は被害が大きく,南米各地では頻繁に旱魃害がみられ,その年の豊凶はいつも干ばつとの関連で語られる。したがって,乾燥耐性は重要な特性である。また,地帯によっては高塩分土壌耐性などの課題もある。しかし,これら耐性育種は,まだ実際の事業として定着しているとは言えず,より適性の高い品種を選択している段階にある。

 

食品・加工適性

主たる用途は製油用であるため,高脂肪品種が一般的ある。最近は食品・加工用も一部目標とされ,輸出を念頭に高タンパク,その他特殊用途の育種も試みられている。

 

Embrapa大豆研究所では独立行政法人国際農林水産業研究センター(JIRCAS)との共同研究を進め,リポキゲナーゼ欠失の有機農業用品種(BRS 213, BRS 257)や納豆用品種(BRS 216)を開発した。また,アルゼンチンではINTA MJが遺伝資源の成分評価など育種研究を開始した。

 

参照土屋武彦2010「南米におけるダイズ育種の現状と展望」大豆のすべて(分担執筆)サイエンスフォーラムを一部加筆,詳しくは本書をご覧下さい。 

 

 

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南米三国(BAP)の大豆育種体制

2011-10-19 17:35:19 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

南米各国の大豆育種は,公的機関に加えて民間の種子会社が担っている

ブラジルBrasil

農水産供給省の大豆品種保護登録簿に品種登録を申請している機関は2008年現在35社あるが,その中でブラジル農業研究公社(Embrapa),Monsoy社,農業協同組合研究センター(COODETEC)およびマトグロッソ農業研究財団(Fundacção MT)による品種登録数が全体の70%を占めており,これらが代表的な育種機関といえよう。

Embrapa大豆研究所は,パラナ州ロンドリーナ市に位置する。ブラジル農牧業研究公社40ユニットの一つで,品種改良,土壌・栽培管理,病害虫防除,食品加工および経営などの研究開発が進められている。また,低緯度地帯に対応する大豆研究センターとしての役割を担っていて,南米各地からの研修生受け入れ,研究情報の発信など各国の大豆研究をリードしている。2006年同研究所が奨励している育成品種は,中南部だけでもBRS 232BRS 256RRなど26品種で,同国大豆種子市場の46%に対応している。研究者70名,総職員数300名の体制で,350haの試験圃場,15研究棟,23温室など研究施設も充実している。

COODETECは,パラナ州カスカベル市に本部があり,研究と種子生産・販売を業務としている。ブラジル国内に5研究所,95試験圃場を有し,各地帯に適応する品種の育成を行っている。2008年,CD 201CD 214RRなど各地域に対応した27品種を奨励している。

Fundacção MTはマトグロッソ州ロンドノポリス市に本部をおく同国最大の財団で,生産者,種子会社,農薬会社,機械メーカー,輸送業者などからの基金と種子販売収入によって運営されている。大豆育種は年間400800組合せの交配を行い,農場200ha5か所の現地選抜圃で選抜を進め,全国50か所で系統評価を実施している。

その他,育種には民間種子会社も多く参入しているが,公社や財団組織が育種をリードしている点が同国の特徴である。

アルゼンチンArgentina

国立農業技術研究所(INTA)と民間のNideraDon MarioMonsantoRelmoSyngentaなど多くの種子会社が育種を行っている。民間種子会社はいわゆるメジャーなものから,国内の中小会社まであり,大豆品種保護登録簿に登録申請している機関は2008年現在46社と多い。

品種保護登録簿へ登録申請のために必要な特性を評価する連絡試験は,同国の大豆研究センターであるINTA マルコスフアレス農業試験場(INTA MJ)が取りまとめを行っている。連絡試験は緯度の高低と降水量の多少によって区分された13地域64か所で行われ,試験結果は翌年の播種前には公表される。この試験にエントリーするための費用は,種子協会(Asociación de Semilleros Argentinos: ASA)との協定によりINTAへ振り込まれ,各地域のINTA地域農業試験場が評価を担当している。

因みに,INTA MJの大豆育種グループは,育種,病理,栽培,品質など各分野の専門家13名で構成され,年間120組合せの交配,5,000系統の予備選抜,280系統の生産力検定予備試験,60系統の生産力検定試験を実施している(1970~80年代の育種研究創始期,筆者等は技術指導に携わった)。

パラグアイParaguay

公的機関としては,農牧省所属の地域農業研究センター(CRIA)が育種を行っている(*2011年,独立行政法人パラグアイ農業技術研究所IPTAに組織替え)。また,JICAパラグアイ農業総合試験場(CETAPAR)も小規模ながら育種を進めている(**2010年に日系農協中央会へ移行)。パラグアイ国内で独自に育種を行っている種子会社は,まだ数が少なく規模も小さい。実際に栽培されている主な品種は,2008年現在A 4910RR,A 7321RR,CD 202,CD 219RR,BRS 245RR,BRS 255RRなどで,多くはブラジルのEmbrapa,COODETECおよびアルゼンチンのNideraなどが育成した品種である。

これら国外の種子会社は,パラグアイでの種子販売を目的に育成系統の選抜を行い,パラグアイ農牧省が実施する大豆品種連絡試験の評価を得て,商業品種国家登録簿に登録し種子を販売している。実際には,パラグアイ国内に試験圃を持ち,系統評価及び展示PRを行っている場合が多い。ブラジル南部に適する熟期群の品種は,パラグアイでも良好な成績を示すことが多い。

CRIAはイタプア県カピタンミランダ市にあり,畑作農業研究のセンター場である。1979年に開始された日本からの技術協力(JICA,2008年3月に終了)によって整備が進み,大豆育種事業を着実に展開しているが,育成品種の普及シェアは低い。最近の情報によると,国家経済情勢の悪化を反映して,研究体制が弱まっているという。

技術協力の成果としては,1997年にはAuroraが同国の登録第1号となり,2008年までに7品種が育成された(いずれもNon-GMO)。量は僅かであるが,Auroraは豆腐用として日本へ輸出されているので,ご存じの方がいらっしゃるかも知れない。

CRIA育成品種の普及率が低いのは,同国政府がGMOを承認しなかったため,国立機関であるCRIAでのGMO品種開発が遅れ,隣国アルゼンチンからのGMO品種が非合法栽培された経緯がある。因みに,ブラジルではGMO承認前から育種研究を許可していたので,解禁と同時に品種交替が進んでいる。

参照:土屋武彦2010「南米におけるダイズ育種の現状と展望」大豆のすべて(分担執筆)サイエンスフォーラムを一部加筆,詳しくは本書をご覧下さい。

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