豆の育種のマメな話

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地球上にマメ科植物は約2万種,マメ類の原産地

2014-01-11 11:25:26 | 北海道の豆<豆の育種のマメな話>

地球上にマメ科の植物は約2万種あり,食用に供される豆は80種といわれる。これら食用マメ類は,穀類およびイモ類と並び,人類の生存にとって欠かせない存在である。

先日(本ブログ2013.12.262014.1.9)「インゲンマメは新大陸起源」と述べたが,食用マメ類80種ともなれば当然のことながら原産地は世界中に存在する。

 

◆原産地は?

遺跡発掘や野生種及び変異性調査など「栽培の起源に関する研究」が進み,多くの作物の原産地が明らかになってきた。ここではマメ類について,農耕文化が生まれた地域(農耕文化圏)ごとに整理する。なお,研究が進んだとはいえ,農耕文化圏の分類と名称,起源地には諸説あるので,分類は前田和美「マメと人間,その一万年の歴史」(古今書院1987)を参考にした。

 

1アジア育ちのマメ類

 

1-1 東アジア,東南アジア

ダイズ(大豆,Glycine max (L.) Merr.

アズキ(小豆,Vigna angularis (Willd.) Ohwi & Ohashi

シカクマメ(四角豆,Psophocarpus tetragonolobus (L.) DC.

 

1-2 インド

キマメ(樹豆,ピジョンピー,Cajanuscajan (L.) Millsp.

グアル(クラスタービーン,Cyamopsis tetragonoloba (L.) Yaub.

ホースグラム(Macrotyloma uniflorum (Lam.) Verdc.

タケアズキ(Vigna umbellata (Tunb.) Ohwi & Ohashi

リョクトウ(緑豆,ヤエナリ,Vigna radiate (L.) Wilczek

ケツルアズキ(ブラックマペ,Vigna mungo (L.) Hepper

 

2 メソポタミア(地中海,南西アジア)育ちのマメ類

エンドウ(豌豆,Pisum sativum L.

ソラマメ(空豆・蚕豆,Vicia faba L.

ヒヨコマメ(ガルバンソ,Cicer arientinum L.

ヒラマメ(扁豆,レンズマメ,Lens culinaris Medic.

ガラスマメ(Lathyrus sativus L.

 

3 アフリカ育ちのマメ類

ササゲ(豇豆,カウピー,Vigna unguiculata (L.)Walp. Var.unguiculata (L.) Ohashi

フジマメ(Lablab purpureus (L.) Sweet

フタゴマメ(Vigna subterrranea (L.) Verdc.

 

4 新大陸育ちのマメ類

4-1 メソ・アメリカ

インゲンマメ(菜豆,Phaseolus vulgaris L.

ライマメ(ライマビーン,リマビーン,Phaseolus lunatus L.

タチナタマメ(立刀豆,Canavalia gladiate (Jacq.) DC.

ベニバナインゲン(花豆,Phaseolus coccineus L.

クズイモ(葛薯,ヤムビーン,ヒカマ,シンカマスPachyrrizus tuberosus (L.) Spreng.

 

4-2 アンデス高地

インゲンマメ(菜豆,Phaseolus vulgaris L.

ライマメ(ライマビーン,リマビーン,Phaseolus lunatus L.

ラッカセイ(落花生,Arachis hypogaea L.

 

マメの王国インド周辺,東南アジア,アンデス地方には,この他にも多数の豆が食べられていることに気付く。あるものは未熟の莢をサラダや煮物に,あるものは乾燥子実を他の野菜や肉と煮込み,スープにする。中には,クズイモやシカクマメのようにイモを作る種類があり,根菜として利用する場合もある。

 

また,マメ科植物の中には有毒成分を含む種類があるが,人類は料理法によって有毒成分を除去する知恵を見つけ,或いは無毒系統や低毒系統を育成して活用を図ってきた。世界各地の民族は伝統食の中にマメ類を上手に利用してきたと言えるだろう。

 

これに加えて将来,我々はマメ類に何を期待したら良いのだろう? それは多分,食材としての価値を守り続けると同時に,マメ類の成分に着目した資源的活用(蛋白生産など),さらにはイモを作るマメなどの生育量(バイオマス)に着目した活用ではないだろうか。

 

貴方も旅に出れば,多様なマメ類(食文化も含め)に触れる喜びを知るだろう。

 

参照

前田和美「マメと人間,その一万年の歴史」古今書院1987

吉田よし子「マメな豆の話」平凡社新書2000

 

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「新大陸における農耕文化の起源」と「新大陸原産の作物たち」

2014-01-09 16:17:16 | 北海道の豆<豆の育種のマメな話>

ある本のキャッチコピーに,「イタリアのトマトも,ドイツのジャガイモも,韓国のトウガラシも,もとをただせば中南米産」とあった。今では,各国を代表する料理の食材で,昔からその国に存在していたかのように思われる作物も,原産地を辿ってみたら実は中南米であったという意味である。

コロンブス以前の新大陸は,ヨーロッパやアジアなど旧大陸との交流がなかったので,栽培植物と農耕の起源も独自な発展をしたと考えられる。先住民インデイオは,どのようなものを食べ,マヤ,アステカ,インカなど極度に発達した文明を築き上げたのか? ここでは,「新大陸における農耕文化の起源」と「新大陸原産の作物たち」について整理しておこう。

 

新大陸における農耕文化の起源地

新大陸はもともと白人も黒人もいないモンゴロイドだけの世界であった。今から12万年前,ベーリング海峡が地続きであった頃,アジア大陸から渡ってきた人々の子孫である。先史の時代,彼らは狩猟や野生植物の採集によって生きていたが,人口が増加し定住した生活を営むようになると,有用植物の栽培を試みる(この頃,気候は温暖になった)。

第一に栽培化されるのは,どこの地域でも必然であるが,生産量が多くカロリー量が大きい植物で,これらが主食となる。すなわち,穀類とイモ類である。

 

新大陸で農耕文化の起源地は,メソ・アメリカ(中米)とアンデス高地と考えられている。ここで興味深いのは,メソ・アメリカが穀類を主食にした農耕文化であるのに対し南米(アンデス高地及びアマゾン川流域)がイモ類を主食にしている点である。カール・サウアーは1952年に,前者を種子農耕(種子を播いて子実を収穫する),後者をイモ農耕(栄養繁殖させる)に分類したが,今なおその食文化がそれぞれの地域に引き継がれている。

 

すなわち,メキシコやガテマラなど中米ではトウモロコシを主に栽培し,インゲンマメやカボチャを混植する(トウモロコシの茎にインゲンマメの蔓が巻きついて生育する)。イモ類はほとんどない。現在も中米の広い地域ではトウモロコシ粉を原料とする「トルテイージャ」が主食となっていて,主食の澱粉食を補うために必須アミノ酸やビタミンなどを含むインゲンマメやカボチャを組み合わせた食事が伝統食となっている。

 

一方,南米ではイモ類が主に栽培され,ペルーからボリビアにかけてのアンデス高地ではジャガイモ,アマゾン川流域ではマンジョカ(キャッサバ)が主食となっている。アンデス高地のジャガイモが主食になり得たのは,独特の貯蔵技術(乾燥イモ,チューニョ)が開発されたことが大きい。ジャガイモを主食にリャマなどの肉が栄養を補っていたのだろう。なお,アンデス高地におけるトウモロコシは,主食というより祭礼用の酒(チチャ)を製造するために栽培されていたと言えようか。

 

もう一つのイモ農耕地であるアマゾン川流域は,高温湿潤であるためマンジョカが栽培される。マンジョカは挿し木をすれば簡単に育ち,周年の収穫も可能である。そのため作物栽培の概念は薄く,長く続いた狩猟・採集生活で食生活を補ってきた。農耕文化圏としては後発と言えるだろう。

 

◆農耕の起源

農耕の起源を考える時,基本的には「人類が生きるために必要な食料は何か」からスタートする。第一は,活動のエネルギー源となる澱粉を多く生産できる植物を栽培することである。その種類は地域によって異なり,ある地域ではイネ,ムギ,トウモロコシなど穀類であり,別の地域ではジャガイモ,サツマイモ,ヤムイモ,キャッサバなどイモ類であった。これら作物の農耕によって,集落の食料が十分量が確保され空腹を満たすことが出来るようになれば,定住が安定する。すなわち,主食作物の出現である。

 

そして第二は,主食を補う蛋白質・脂肪・ビタミン・ミネラルなど栄養を補給する食材の確保である。狩猟の民は肉で,漁労の民は魚で対応していたが,狩猟が出来ず海からも遠い地域では,主食を補う植物を経験的に栽培することになる。それは,マメ類など蛋白質と脂肪を多く含む作物であった。

 

◆新大陸原産の作物たち

コロンブス以降,ヨーロッパから多くの人々が黄金を求めて新大陸を訪れた。そして,彼らがヨーロッパに紹介した作物のいくつかが世界を変えることになる。誰もが知っているのは,ヨーロッパの食卓に定着して飢餓を救った「ジャガイモ」,肉食社会を支える「トウモロコシ」,料理の味付け「トマト」,世界の調味料「トウガラシ」,生活の句読点「タバコ」,お菓子の王様チョコレート原料「カカオ」,車社会を支える「ゴム」等であろうか。現代社会においてこれらの作物がなかったら,誰が人類を養えると言えようか?

 

新大陸起源の主な作物・家畜を列挙する。

穀類(トウモロコシ,キヌア),イモ類(ジャガイモ,サツマイモ,マンジョカ(キャッサバ)),マメ類(インゲンマメ,ラッカセイ,ライマメ),果物(パイナップル,パパイヤ,アボガド),野菜(カボチャ,トマト),香辛料(トウガラシ),嗜好料(タバコ,カカオ),その他作物(ゴム),家畜(リャマ,アルパカ,クイ)・・・などが新大陸原産と考えられている。

添付:「新旧大陸の原産作物」

参照

山本紀夫編集「世界の食文化13,中南米」農文協2007

中尾佐助「栽培植物と農耕の起源」岩波新書1985

前田和美「マメと人間,その一万年の歴史」古今書院1987

酒井伸雄「文明を変えた植物たち」NNK出版2011

 

 

  

 

  コロンブス以前の新旧大陸における主要作物など  
    新大陸 旧大陸  
  穀類 トウモロコシ,キヌア コムギ,オオムギ,ライムギ,
イネ,キビ,ソバ
 
  イモ類 ジャガイモ,サツマイモ,
マンジョカ(キャッサバ)
タロイモ,ヤムイモ  
  マメ類 インゲンマメ,ラッカセイ,
ライマメ
ダイズ,アズキ,エンドウ,
ソラマメ,ヒヨコマメ
 
  果物 パイナップル,パパイヤ,
アボガド
リンゴ,ブドウ,ナシ,オリーブ,
柑橘類
 
  野菜 カボチャ,トマト キュウリ,スイカ,ナス,ニンジン,
タマネギ,キャベツ
 
  香辛料 トウガラシ コショウ,ショウガ  
  嗜好料 タバコ,カカオ 茶,コーヒー  
  その他 ゴム,ワタ サトウキビ,サトウダイコン,
ワタ,バナナ
 
  家畜 リャマ,アルパカ,クイ ウシ,ウマ,ヒツジ,ヤギ,ブタ  
  注)原典:山本紀夫編集「世界の食文化13,中南米」農文協2007を一部改訂  

 

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元旦にフェリシダーデスと電話あり,パラグアイからの懐かしき声

2014-01-08 14:51:59 | 南米で暮らす<歴史・文化・自然>

元旦,雑煮の準備をしていると電話が鳴った

「コモ・エスタ ○○! 北海道は寒そうだね」

「やあ,新年おめでとう。清々しい朝だよ。皆さん,お元気?」

パラグアイ在住のMさん(日系二世)からだった。Mさんは日本語堪能だが,セニョーラとは時々スペイン語を取り混ぜた会話になる。

「フェリシダーデス! おめでとう・・・ああ・・フェリス・アーニョ・ヌエボ!」

これから,娘さん家族のところで一緒に新年を迎えるのだと言う。日本との時差が12時間,日本の元日の朝はパラグアイの大晦日の夕方にあたる。時刻を見計らって電話を掛けてきた心遣いが嬉しい。

 

パラグアイでは,家族や近しい人々が集い,持ち寄った料理とアサード(焼肉)を食べながら新年を迎えるのが慣例だった。エンカルナシオンで暮らしていた頃,招いたり招かれたりしたが,新年のカウント・ダウンと同時に彼方此方で花火を打ち上げ,「フェリス・アーニョ・ヌエボ!」とワインの杯を挙げるのだった(朝起きてみたら,庭に拳銃の弾らしきものが落ちていたこともあったが・・・)。夏のクリスマス,雪のない正月であった。

 

パラグアイ日系社会の移住の歴史は南米の中で最も浅いが,経済活動の中心は既に二世から三世の世代に移りつつある。

 

年賀の挨拶を頂いた中で,

「昨年11月,農林水産大臣賞を頂きました・・・」という,故郷の友(高校同期生)の便りは嬉しかった。故郷に残って,地道に竹林を整備し,竹炭や筍加工など地域振興に尽力した友の姿が偲ばれた。春になったら,「竹一筋」の話を是非聞きに行こうと思う。

 

また,「年賀状は止めて,生存報告にします・・・」「喪中ですが,年賀状は出して下さい・・・」など,日頃の付き合いが減って年賀状だけの結び付きも多くなったが,これはこれで結構年の節目を意識するものだ。

 

竹に節があり,樹木に年輪があるから風雪にも耐えることが出来る。同様に,草花に種子となり球根となって休む季節あり,季節に冬があり,一日に夜があるように,年の節目を大事にしたい。生きるとは,節目を繋ぐことだから。


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