豆の育種のマメな話

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パラグアイの農業試験場,新しい波

2011-02-22 09:47:55 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

◆新しい動き

落ち込むような話は多いのですが,一部の研究員の中から新しい動きも出てきています。例えば,CRIAでの研究成果を持って現地に出よう,民間と連携してプロジェクトを模索しようとする動きです。CRIAの中で金がないから何も出来ないと言っているばかりでは解決しない,民間活力を利用しようという姿勢です。

 

先日も精密農業の話で盛り上がりました。アルゼンチンの会社が高濃度少量散布機を携えて共同研究をしようと売り込みに来ているのです。また,大豆さび病では病理研究者がアメリカの研究者と積極的に共同研究を実施していますし,台湾の野菜プロジェクトもCRIAの用地で活動を始めています。経済的な問題で埋没してしまいそうな公立の研究機関ですが,危機感を抱く若い研究者も多くいます。

 

また,大豆生産者協会,パラグアイ農業調整会議,種子会社,農協,穀油類輸出会議所,農牧省が参加して,APROSEMなる連携組織発足の動きがあります。アルゼンチンで開発した組換え品種が密輸入されるなど,種子流通の混乱が見られたことへの反省から出てきたのかも知れませんが,望ましい動きです。

 

一方,政府関係者の中からは,大豆の種子や技術はブラジルやアルゼンチンから導入すればいい,CRIAでの育種や技術開発は必要ないと言う声も聞こえます。同国総輸出額の40-50%を占めるまでに成長し,まさに国家経済を支える基幹作物である大豆でさえこのような状況です。これに反論する研究者は勿論多いのですが声が届きません。だから,これが専門家の仕事かなと思いながらも,「技術が未来を拓く。技術開発に力を入れよ」「何故,パラグアイで大豆育種が必要か?」と,ついつい声を大きくすることになります。

 

◆圃場の日

農協や種子会社が開催するDia de Campo(圃場の日)への積極的参加も新しい動きの一つです。「圃場の日」は,CRIAEMBRAPA,民間種子会社等の育成品種を前もって展示用に播種し,また農薬会社は実証試験を展示し,農家にPRするのが目的の行事です。集まった生産者には,品種や農薬の説明資料が入った袋(鞄のこともある)と社名入りの帽子(定番です),ペットボトルの水を配り,グループごとに引率者が説明しながら回ります。参加受付時には,氏名と住所のほか,大豆の作付面積を聞き,アンケート用紙には展示栽培されている品種のどれを何ha作りたいか記入させるなど,商売に直結する仕組みです。

 

CRIAは国立の研究機関ですが,大豆ではこれまでに6品種を発表しているのでこれらを展示し,研究者が説明要員として出席して生産者からの質問に答えます。「圃場の日」は各地で開催されるので,研究者にとってかなりの負担ですが,有意義な情報収集の場でもあります。

 

昼過ぎには全ての説明が終わり,近くの農家の倉庫でアサード(焼肉)とパン,サラダ,ガス入り飲料水がサービスされます。このような場合は人数が多いので,皿,ホーク,ナイフなどもなく,パンに牛肉やサラダをはさみ,立ったまま或いは適当なところに腰をおろしてわいわいと食べ,勝手に帰るという方式です。生産者は新品種を直接観察することが出来ますし,農協や種子会社は種子の需要を品種ごとに把握でき,また売り込みも図れるなど,この行事は結構うまく回転しているように思われます。北海道の新技術発表会もイベントに終わらず「圃場の日」を設定できると良いかもしれません。

 

同国の大豆生産は,日系移住者が栽培の基礎を築き,いまや世界第6位の生産量(400万トン,輸出量としては4位)をあげるまでになりました。現在も日系移住者の皆さんは,平均400ha規模の大豆作を行っています。CRIAで育成した新品種が赤い大地に豊穣の稔りをもたらすことを期待して,パラグアイの若い研究者,技術者達と汗を流す日々です。アスタ・マニヤーナ(明日があるさ,何をあくせくするの?)の世界に半ば浸りつつ。

 

参照:1) 土屋武彦2006「パラグアイ事情」北農73(3)58-61 2) 土屋武彦2005「パラグアイ農業,最近の話題」北農72(1) 101-106 3) 土屋武彦2004「南米パラグアイの大豆栽培」農業及び園芸 79(1) 23-30(2) 256-262(3) 358-365.

 

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