豆の育種のマメな話

◇北海道と南米大陸に夢を描いた育種家の落穂ひろい「豆の話」
◇伊豆だより ◇恵庭散歩 ◇さすらい考
 

「老い」を自覚するのは,どんな時?

2015-12-03 16:37:11 | さすらい考

「老い」を自覚するのは,どんな時ですか? と質問した。

或る人は老眼鏡が必要になった50代と答え,また或る人は入れ歯や難聴が気になった60~70代と答え,さらに或る人は人の名前が思い出せなくなったことだと言う。確かに,視聴覚を初め感覚能が衰え運動能力の減退に遭遇したときなど,老いを自覚する機会は多い。しかし,人間は生まれた瞬間が一番若く,あとはひたすら老化してゆく一方だと考えれば,肉体的な老いをそれほど心配している訳でもなさそうだ。

重ねて,「老い」を自覚したのは,どんな時ですか? と尋ねた。

或る人は,運転免許証の更新時講習で「認知機能検査(講習予備検査)」を受けた時だと言う。その検査は以下のような流れである。

検査は,第一問で今年の西暦年,月,日,曜日,時刻を書けと言う。時計を見ないで何時何分か分かるまいと思うが,身体時計の時刻だそうだ。二問目は,スライドで動物や植物などの絵を一枚数秒感覚で数枚(十数個)見せられた。そして次に,それらの絵とは無関係な作業(制限時間の中で数列の中から特定の数字を選び出す)を課し数字に集中させておいて,先ほど示した絵の名前を全て思い出して記せと言う。ああこれが,記憶力検査というものかと大急ぎで記憶を辿るが,なかなか浮かんでこない。記憶力が衰えたと不安が脳裏を過ぎる。ところが,次の用紙を捲るとヒントが書いてあり,果物というヒントにバナナ,乗り物のヒントにはバイクと書けばよい。これで大分思い出す。記憶とはこういうものかと感心する。

三問目は,白紙に時計の円形文字盤を描き,これから言う時刻を長短の針で示せと言う。そして検査官は○時○分と言った。これは簡単だと素早く描いたが,ふと,俺も幼児と同じような問題で頭の働きを検査される歳になったのかと思い愕然とした。

これが「老い」を強烈に自覚させられた瞬間だよ,彼は切なげに笑った。

 

平成14年6月の道路交通法改正により,運転免許証の更新時に70歳以上の人には高齢者講習が義務付けられた。さらに,75歳以上には講習の前に「講習予備検査」(認知機能検査)を行い,その結果に基づいて高齢者講習を実施することになった(平成21年6月,道路交通法改正)。そして,この点数76点以上が「記憶力・判断力に心配ありません」と評価されるが,49~76点は「記憶力・判断力が少し低くなっています」,49点以下は「記憶力・判断力が低くなっています」とされる。49点以下の運転者が交通違反を起こしたら専門医の診断を義務付けられ,認知症の診断が下れば免許取り消しとなる(将来はさらに厳しくなりそうだ)。

この道路交通法改正は,高齢運転者の増加及びそれに伴う交通事故増加をふまえ,運転者自身が身体機能の現状を確認して一層の安全運転に努めるように,との目的で定められたものである。最近の老人性事故多発を勘案すれば,大変結構な改正ではあるが,老人にとってみればモヤモヤ感が無いわけでもない。否応なく「老い」を自覚させられる瞬間であり,運転免許を早急に返却せよと言わんばかりのプログラムに感じられる。

付け加えるに,○○公安委員会・〇〇警察本部から「高齢者講習のおしらせ」のハガキが来て,検査・講習実施場所に指定された最寄りの(同じ市町村内の)自動車学校に電話すると,大抵の場合「満員で受講できません。他を当ってください」となり,近隣市町村にある自動車学校を探すことになる。身近にいた4人の話を聞いたら全員が同じ体験をしていた。老人は暇だからそれで良いと言うのだろうか。これもモヤモヤ要因のひとつだと言う。

視力が衰え,視野が狭くなり,耳が遠くなり,反射神経が鈍り,運動能力や判断力の衰えを自覚しているからこそ,慎重運転を心掛けている老人が大多数だろう。公的交通機関がなくなり,商店,病院からも遠い環境で暮らす老人家庭が急速に増加している現状を考えると,老人に運転免許返納を求めるだけで事故は減少しまい。道路交通法を何度改正しても解決にはならないだろう。

総合的な網を掛けなければならないが,さて,どうあるべきか?

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« そもそも「高齢者」って何だ? | トップ | 何故,「手亡」と呼ぶのか? ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

さすらい考」カテゴリの最新記事