学力とは何か 諏訪哲二 洋泉社新書
最近の学力論争に決着をつけるような痛快な内容である。著者は埼玉県の公立高校の社会科教員として勤め、現在、日本教育大学院客員教授。現場でたたき上げただけあって、共感する部分が多い。私は諏訪氏の本を何冊か読んだが、戦後の歴史と教育の問題の関係についての分析が非常に鋭いと感じた。
学力テストの成績の公表に関して、是か非かの議論が世間をにぎわせているが、学校とは本来知識のみを伝授する場ではない。人格形成も教育の重要な要件である。学校があれだけ広大な敷地を使って作られる所以は、まさに人間形成の場である事を如実に物語っている。
著者は言う、人間は学力でしょ、学力とは受験に通用する力でしょ、学力とは知識の集積でしょ、というあっけらかんとした確信の声が街のあちこちから聞こえてくる。知識の集積なら学校より塾・予備校がすぐれているという声が聞こえてくる。人格形成が視野に入らなくなったのは、子ども(生徒)が教育によって形成されるという観点がなくなり、まず経済主体の子どもがそこにいて、自らの利益(得)のために勉強するのだという考えが一般化したからなのであろう。教育によって個人は形成されるものという観点はかなり後景に退いている。個人がまずそこにいるという観点は、経済的な視点によって成り立つものだからだと。誠にもって正しい分析と言える。著者はこの観点から、いまマスコミで引っ張り凧の藤原和博、陰山秀男、和田英樹、各氏の批判を繰り広げている。面白くて読み出したら止められないくらいだった。是非一読願いたい。大阪府知事の橋下よ、何だかんだ言う前に、お前もこの本を読んで勉強せい。