東京・台東借地借家人組合1

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【判例】*借家人の保証人は借家契約の更新後も保証人としての責任を免れないとされた事例

2016年08月06日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

借家人の保証人は借家契約の更新後も保証人としての責任を免れないとされた事例
(最判平成9年11月13日裁判集民事186号105頁)


       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。


       理   由
 上告代理人遠藤實の上告理由について
 一 本件は、建物賃借人のために連帯保証人となった上告人が、賃貸人である被上告人に対し、被上告人と賃借人との合意により建物賃貸借契約を更新した後に生じた未払賃料等についての連帯保証債務が存在しないことの確認を求めている事案である。

 二 原審が適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

  1 被上告人は、昭和60年5月31日、上告人の実弟であるαに対し、第1審判決添付物件目録記載の建物(以下「本件マンション」という。)を、期間を同年6月1日から2年間、賃料を月額26万円と定めて賃貸した(以下「本件賃貸借契約」という。)その際、上告人は、被上告人に対し、αが本件賃貸借契約に基づき被上告人に対して負担する一切の債務について、連帯して保証する旨約した(以下「本件保証契約」という。)

  2 本件賃貸借契約締結の際に作成された契約書においては、賃貸借期間の定めに付加して「但し、必要あれば当事者合議の上、本契約を更新することも出来 る。」と規定されていたところ、被上告人としては、右賃貸借期間を家賃の更新期間と考えており、右期間満了後も賃貸借関係を継続できることを予定していた。他方、上告人は、本件保証契約締結当時、右規定から本件賃貸借契約が更新されることを十分予測することができたにもかかわらず、その当時αが食品流通 関係の仕事をしていて高額の収入があると認識していたことから、本件保証契約締結後も同人の支払能力について心配しておらず、そのため本件賃貸借の更新についても無関心であった。

 3 αと被上告人は、本件賃貸借につき、
(一)昭和62年6月ころ、期間を同年6月1日から2年間と定めて更新する旨合意し、
(二)平成元年8月29日、期間を同年6月1日から2年間、賃料を月額31万円と定めて更新する旨合意し、
(三)平成3年7月20日、期間を同年6月1日から2年間、賃料を月額33万円と定めて更新する旨合意した。
もっとも、右各合意更新の際に作成された賃貸借契約書中の連帯保証人欄には「前回に同じ」と記載されているのみで、上告人による署名押印がされていないし、右合意更新の際に被上告人から上告人に対して保証意思の確認の問い合わせがされたことはなく、上告人がαに対して引き続き連帯保証人となることを明示して了承したこともな かった。

 4 αは、前記3(二)の合意更新による期間中の賃料合計75万円及び前記3(三)の合意更新による期間中の賃料等合計759万円を支払わなかったところ、被上告人は、平成4年7月中旬ころ、αに対し、本件賃貸借契約の更新を拒絶する旨通知するとともに、平成5年6月8日ころ、上告人に対し、賃料不払が継続している旨を連絡した。αは、平成5年6月18日、被上告人に対し、本件マンションを明け渡した。

 三 被上告人は、上告人に対し、本件保証契約に基づき、前記4の未払賃料等合計834万円及び平成5年6月1日から同月18日までの賃料相当損害金19万8000円についての連帯保証債務履行請求権を有すると主張しており、これに対し、上告人は、本件保証契約の効力が本件賃貸借の合意更新後に生じた未払賃料債務等には及ばない、仮にそうでないとしても、被上告人による右保証債務の履行請求が信義則に反すると主張している。建物の賃貸借は、一時使用のための賃貸借等の場合を除き、期間の定めの有無にかかわらず、本来相当の長期間にわたる存続が予定された継続的な契約関係であり、期間の定めのある建物の賃貸借においても、賃貸人は、自ら建物を使用する必要があるなどの正当事由を具備しなければ、更新を拒絶することができず、賃借人が望む限り、更新により賃貸借関係を継続するのが通常であって、賃借人のために保証人となろうとする者にとっても、右のような賃貸借関係の継続は当然予測できるところであり、また、保証における主たる債務が定期的かつ金額の確定した賃料債務を中心とするものであって、保証人の予期しないような保証責任が一挙に発生することはないのが一般であることなどからすれば、賃貸借の期間が満了した後における保証責任について格別の定めがされていない場合であっても、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、更新後の賃貸借から生ずる債務についても保証の責めを負う趣旨で保証契約をしたものと解するのが、当事者の通常の合理的意思に合致するというべきである。もとより、賃借人が継続的に賃料の支払を怠っているにもかかわらず、賃貸人が、保証人にその旨を連絡するようなこともなく、いたずらに契約を更新させているなどの場合に保証債務の 履行を請求することが信義則に反するとして否定されることがあり得ることはいうまでもない。

 以上によれば、期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないというべきである。

 四 これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、前記特段の事情はうかがわれないから、本件保証契約の効力は、更新後の賃貸借にも及ぶと解すべきであり、被上告人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認めるべき事情もない本件においては、上告人は、本件賃貸借契約につき合意により更新された後の賃貸借から生じたαの被上告人に対する賃料債務等についても、保証の責めを免れないものといわなければならない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、右と異なる見解に立って原判決を論難するものであって、採用できない。

 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


   最高裁裁判長裁判官小野幹雄、裁判官遠藤光男、裁判官井嶋一友、裁判官藤井正雄

 

 

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