東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

【Q&A】 貸主側の相続で土地・建物が共同所有に変わった場合

2022年07月29日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

  (問) 建物や土地の所有者が死亡し、複数の相続人による共同相続になり、単独所有から共同所有によって建物や土地が共有に変わった。その場合、借主は賃料を各人に分割し、それぞれの相続割合に応じて各人にそれぞれ支払わなければならないのか。


  (答)相続人の遺産分割協議が確定していれば、相続分に応じて、それぞれに賃料を支払うことになる。

  しかし、賃借人は相続の遺産分割協議が確定するまでは相続人が誰なのか窺い知れない。また、各相続人の相続割合が判らないので、相続分に応じた賃料を支払うことができない。

 従って、賃料の支払いは相続開始から遺産分割協議が確定するまでは民法494条に基づく「債権者不確知」(*)を理由とした「弁済供託」で対応しなければならない。

 

 土地や建物の貸主が死亡した場合、相続人は土地や建物の所有権を相続すると同時に貸借関係についての貸主の地位を承継する。相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属する(民法898条)。

  最近は、不動産小口化商品の1つとして投資者等が細分化された建物の共有持分を買受けるケースが多くなっている。

  共同相続人や共有持分取得者が貸主人の地位を承継した場合貸主が複数になる。その場合、①借主は相続割合に応じて賃料を各人にそれぞれ分割して支払わなければならないのか、それとも、②貸主の内の1人に賃料を全額支払えば、それで全員に弁済したことになるのかが問題になる。

  この問題に対して、共有物件の賃料は「不可分債権」であるという判例(東京地裁1972年12月22日判決)がある。

  家賃・地代は金銭で支払う債務であるから一見したところは分割債務とするのが素直なように思われる。即ち分割が出来る可分債権に思える。しかし、共有賃料を可分債権とみなすと色々不都合が生じる。相続が確定するまでは、相続人の相続割合が判らない。賃料の分割割合が確定できないので、各相続人に相続に応じた賃料が支払えないことになる。

  そこで、この不都合を避けるために判例は、共有賃料はその性質上不可分債権とみなした。①不可分債権には性質上不可分給付と意思表示による不可分給付がある。②不可分債権においては、債権者の1人が債務者に履行を請求すると、総ての債権者が履行を請求したのと同様の効果が生じる。③債務者が債権者の1人に履行すると、総ての債権者に履行したものと同様の効果が生じる(①②③は民法428条)。

  このことから、共有賃料は共同貸主の内の1人に賃料の全額を支払えば、それで総ての貸主に弁済したことになる。弁済供託を行う場合も同様に考えればよいことが判る。

上記の「共有賃料はその性質上不可分債権とみなす」という考え方があった。借主には都合のいい判例であった。

 しかし、最高裁は従来の解釈を変更した。

 すなわち、最高裁平成17年9月8日判決は「相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる賃料債権は,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、この賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない」ということで賃料は不可分債権から分割債権へと判例が変更された。

 従って、相続開始後遺産分割の時までに、遺産である不動産から生ずる地代や家賃など法定果実は、遺産分割の対象にはならず各相続人が相続分に応じて取得することになる。

 前記最高裁の判決が出るまで、下級審では、①遺産分割協議の結果、そのマンションの所有者になった相続人が、相続開始後遺産分割までの賃料債権を取得する、という見解と、②相続開始後遺産分割までの賃料債権は、共同相続人がその相続分の割合で取得する、という見解に分かれていた。

 この両説の対立に終止符を打ったのが、前記最高裁判所判決である。民法898条の「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」という規定で、この規定は、遺産分割協議の結果、マンションが1人の相続人に帰属することになっても、それまでは、マンションは共同相続人の共有であるのだから、その間に生ずる賃料債権も、共同相続人のものになる。賃料は可分債権なので、共有ではなく、共有の割合、つまり相続分に応じて分割されるという訳である。

 しかし、賃借人は相続の遺産分割協議が確定するまでは相続人が誰なのか、どこに住んでいるのかも判らないのが通常である。また、各相続人の相続割合も判らないので、相続分に応じた賃料を支払うことができない。

 従って、賃料の支払いは相続開始から遺産分割協議が確定するまでは民法494条に基づく「債権者不確知」を理由とした「弁済供託」で対応しなければならないことになる。

 相続人の遺産分割協議が確定すれば、その後は相続分に応じて、それぞれに賃料を支払うことになる。

(*)相続や債権譲渡などがあったことによって真正な債権者が誰であるか確知出来ない場合である。

 

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