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【判例】*小規模閉鎖有限会社における実質的な経営者の交代は無断譲渡になるのか

2018年10月11日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

小規模閉鎖有限会社における実質的な経営者の交代は民法612条の賃借権の無断譲渡には当たらないとした事例
(最高裁平成8年10月14日判決 民集50巻9号2431頁)


       主   文
 原判決を破棄する。
 本件を東京高等裁判所に差し戻す。


       理   由
 上告人の上告理由第1点について
 (1) 本件は、土地の所有者である被上告人(賃貸人・地主)らが、右土地上に建物を所有して右土地を占有する上告人(賃借人・借地人)に対し、所有権に基づいて建物収去土地明渡しを求め、上告人の土地賃借権の抗弁に対して、賃借権の無断譲渡を理由とする賃貸借契約の解除を再抗弁として主張した事案であるところ、原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

 1 第1審判決別紙物件目録1ないし3記載の土地(以下「本件土地」という。)は、甲の所有であったが、昭和60年に同人が死亡し、その子である乙が右土地を相続した。
 平成3年12月4日、被上告人有限会社山梨重機は、同目録1及び2記載の土地を、同有限会社山梨興業は、同目録3記載の土地を、それぞれ乙から買い受けた。

 2 上告人(賃借人)は、昭和45年に甲との間で本件土地につき普通建物の所有を目的とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し、右土地上に前記目録4記載の建物(以下「本件建物」という。)を建築所有して、右土地を占有している。

 3 上告人(賃借人)は、貨物自動車運送事業等を目的とする資本金2000万円の有限会社であり、設立時以来の代表取締役である上告補助参加人が経営を担当し、上告人の持分はすべて上告補助参加人及びその家族が所有し、役員も同人らとその親族で占められていた。
 上告人は、一般区域貨物自動車運送事業の免許を受け、貨物自動車を保有し、本件建物を車庫として使用して、運送業を営んでいた。

 4 上告補助参加人及びその家族は、平成3年9月20日、その所有する上告人の持分全部を個人で運送業を営んでいた丙(上告人の現代表取締役)に売り渡し、同日付けで上告人の役員全員が退任し、丙がその代表取締役に、同人の家族がその他の役員に就任した。
 同日以後、丙が中心となって上告人の経営を行い、上告人は、従前からの自動車及び従業員に丙個人が運送業に使用していた自動車及び従業員を加え、本件土地建物を使用して従前と同様の運送業を営んでいる。

 5 被上告人(賃貸人)らは、平成4年8月25日の第1審口頭弁論期日において、上告人(賃借人)に対し、賃借権の無断譲渡を理由として本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

 

 (2) 原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断して、被上告人らが主張した解除の再抗弁を認め、被上告人らの建物収去土地明渡請求を認容すべきものとした。

 1 上告人(賃借人)は、上告補助参加人の経営する個人会社であったところ、上告補助参加人が上告人の経営の一切を新たな経営者である丙に譲渡して上告人の経営から手を引いたものであり、右譲渡の前後を通じて上告人の法人格は形式的には同一性を保持しているとはいえ、小規模な個人会社においては、経営者と土地所有者との個人的な信頼関係に基づいて土地賃貸借契約が締結されるのが通常であり、経営者の交代は、その実質に着眼すれば、旧経営者から新経営者に対する賃借権の譲渡であるから、上告補助参加人から丙に対して本件土地の賃借権が譲渡されたものと解するのが相当である。

 2 乙が賃借権の譲渡を承諾した事実を認めることはできず、右譲渡が賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるということもできない。

 

 (3) しかし、原審の右1の判断は是認できない。その理由は次のとおりである。

 1 民法612条は、賃借人は賃貸人の承諾がなければ賃借権を譲渡することができず、賃借人がこれに反して賃借物を第三者に使用又は収益させたときは、賃貸人は賃貸借契約を解除することができる旨を定めている。右にいう賃借権の譲渡が賃借人から第三者への賃借権の譲渡を意味することは同条の文理からも明らかであるところ、賃借人が法人である場合において、右法人の構成員や機関に変動が生じても、法人格の同一性が失われるものではないから、賃借権の譲渡には当たらないと解すべきである。そして、右の理は、特定の個人が経営の実権を握り、社員や役員が右個人及びその家族、知人等によって占められているような小規模で閉鎖的な有限会社が賃借人である場合についても基本的に変わるところはないのであり、右のような小規模で閉鎖的な有限会社において、持分の譲渡及び役員の交代により実質的な経営者が交代しても、同条にいう賃借権の譲渡には当たらないと解するのが相当である。賃借人に有限会社としての活動の実体がなく、その法人格が全く形骸化しているような場合はともかくとして、そのような事情が認められないのに右のような経営者の交代の事実をとらえて賃借権の譲渡に当たるとすることは、賃借人の法人格を無視するものであり、正当ではない。賃借人である有限会社の経営者の交代の事実が、賃貸借契約における賃貸人・賃借人間の信頼関係を悪化させるものと評価され、その他の事情と相まって賃貸借契約解除の事由となり得るかどうかは、右事実が賃借権の譲渡に当たるかどうかとは別の問題である。賃貸人としては、有限会社の経営者である個人の資力、信用や同人との信頼関係を重視する場合には、右個人を相手方として賃貸借契約を締結し、あるいは、会社との間で賃貸借契約を締結する際に、賃借人が賃貸人の承諾を得ずに役員や資本構成を変動させたときは契約を解除することができる旨の特約をするなどの措置を講ずることができるのであり、賃借権の譲渡の有無につき右のように解しても、賃貸人の利益を不当に損なうものとはいえない。

 2 前記事実関係によれば、上告人(賃借人)は、上告補助参加人が経営する小規模で閉鎖的な有限会社であったところ、持分の譲渡及び役員の交代により上告補助参加人から丙に実質的な経営者が交代したものと認められる。しかし、上告人は、資産及び従業員を保有して運送業を営み、有限会社としての活動の実体を有していたものであり、法人格が全く形骸化していたといえないことは明らかであるから、右のように経営者が交代しても、賃借権の譲渡には当たらないと解すべきである。右と異なり、実質的には上告補助参加人から丙に賃借権が無断譲渡されたものとして被上告人らの契約解除の主張を認めた原審の判断には、民法621条の解釈適用を誤った違法があり、右違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。この点をいう論旨は理由があり、その余の点につき判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、記録によれば、被上告人らは、本件賃貸借契約につき他の解除事由をも主張していることが認められるから、この点について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す。


 よって、民訴法407条1項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


    最高裁裁判長裁判官根岸重治、裁判官大西勝也、同河合伸一、同福田博

 

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