なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

非活動性キャリア

2020年10月10日 | Weblog

 現在49歳の男性はHBVキャリアーのフォローとして通院していた。

 HBs抗原陽性・HBe抗原陰性・HBe抗体陽性で、HBV-DNAが2.8~3.1LogIU/mlで推移していた。ゲノタイプCで、日本では90%以上がCなので、標準的な?HBV感染になる。

 輸血した既往はなく、母子感染でもない。年齢的にはワクチン回し打ち(昔は同じ注射器で数人にワクチン接種していた)の時代の人なので、原因はそれではないかと推定される。弁護士事務所に、ワクチンによるHBV感染の被害者として登録している。

 ALTが36~50IU/lでALT>31IU/lになってしまうが、この方は画像上は脂肪肝があり、生検をしないと正確には鑑別できないが、肝機能障害のパターンとしてもB型肝炎というよりは脂肪肝だった。

 

 以前は別の先生が診ていたが、退職に伴ってしばらく当方の外来でフォローいた。その後、内科新患担当で大学病院消化器内科の肝臓グループの先生が来ているので、そちらに回していた。今週来院していたので、どうしているかとカルテを確認した。

 やはり肝機能検査・HBV-DNA検査が継続されて、画像は6か月に1回腹部エコー、1年に1回腹部造影CTでのフォローになっていた。脂肪肝はあいかわらずで、飲酒もしているので注意されていた。肝細胞癌の発生はない。

 

 出生時(産道出血による母子感染)から幼少期にかけてB型肝炎ウイルス(HBV)に感染すると、免疫が未熟なためウイルスを排除できず持続感染になる(免疫寛容)。

 HBs抗原・HBV-DNAは高値だが、肝細胞障害は起きていないのでALT正常範囲にある。症状はないので、無症候性キャリアと呼ばれる。

 このうち9割は症状がないまま、HBe抗原陰性(HBe抗体陽性)・HBV-DNA低値・ALT正常範囲の非活動性キャリアに移行する。

 残りの1割がB型慢性肝炎を起こす。そのうちHBe抗原陽性の状態(HBe抗原陽性慢性肝炎)では、HBV-DNA高値・ALT高値で活動性が高い。HBe抗原が陰性化してHBe抗体陽性になると、HBV-DNAが低下してALTも低下する(HBe抗原陰性慢性肝炎)。

 

 「治療適応のないHBe抗原セロコンバージョン後の非活動性キャリア」の定義は、1)HBe抗原が持続陰性、2)ALT値が持続正常(30U/l以下)、3)HBV-DNAが2000IU/mL(3.3LogIU/mL)未満

 この患者さんは非活動性キャリア相当だが、ALT>31以上なので、厳密には合致しない。脂肪肝によるALT軽度高値とは思うが、正確には言い切れない。「もう少し痩せて、脂肪肝としての肝機能を正常化させてもらえると、診る方としてはありがたいんですが」、と言ってきたが、現状維持で推移しているようだ。

 これまでHBe抗原セロコンバージョン後(HBe抗原陰性・HBe抗体陽性)の患者さんにも、「あなたは無症候性キャリア」と言ってきたが、正確には「非活動性キャリア」でした。

 現在は母子感染が防止できているので、HBVの新規患者さんを診ることはほぼなくなった。性行為による水平感染としてHIV重複感染の患者さんでみられる。ヨーロッパ型のゲノタイプAのHBV感染で、従来のゲノタイプCやBと違って、キャリア化(B型慢性肝炎)しやすい。

 

 

コメント (2)
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