「状況別に学ぶ 内科医・外科医のための精神疾患の診かた」加藤温著(中山書店)を読み返した。
CareNeTVで見た著者の穏やかな雰囲気が伝わってくるような、わかりやすいいい本だと思う。精神科医以外の医師が一冊だけ精神科関連の本を持つとしたら、この本が一番いい。
この本のせん妄のところに、「2011年9月厚生労働省は、抗精神病薬のうち4剤(リスペリドン、クエチアピン、ペロスピロン、ハロペリドール)に関しては、薬事承認上は適応外であるが保険適応の対象と認めた」とある。
抗精神病薬の適応は基本的には統合失調症であり、せん妄の適応はない。せん妄に対して抗精神病薬を使うしかないが、なにしろ適応外なので、有害事象があれば使用した医師の自己責任になる。また保険適応がないので、事務では自動的に統合失調症と病名をつけることになっている。
薬としては適応外のままだが、とりあえず保険適応の対象と認められただけでもまし、ということになる。
せん妄に対しては、経口可能な場合は、リスペリドン(リスパダール)0.5mg~2mg夕または就寝前、クエチアピン(セロクエル)12.5mg~100㎎夕または就寝前(ただしこちらは糖尿病で禁忌)になる。
経口不能な場合は、ハロペリドール(セレネース)注2.5~5mg+生食50~100ml点滴静注(または+生食20mlで静注)、と記載されている。
先週自宅退院した脳梗塞の84歳男性は、地域の基幹病院脳神経内科から転院してきたが、認知症のBPSD・せん妄がひどかった。脳梗塞急性期の治療が終わる前から当院に転院依頼が来たので、相当対応に困っていたのだろう。
昨年から常勤の精神科医がおられて、抗精神病薬が大量に処方されていた。スボレキサント(ベルソムラ)15mg・ラルメテオン(ロゼレム)8mg・トラゾドン75mgの基本的な処方?に、気分調整薬としてのバルプロ酸(デパケン)400mg分2に、さらにアリピプラゾール(エビリファイ)24mgが入っていた。エビリファイは1錠3mgなので8錠になり、最大量だった。
それでも転院当日の夜間から不穏がひどく、ナースステーション前にベットを持ってきて診ていた。せっかくの抗精神病薬があまり効いていない。
エビリファイは減量して、クエチアピンを追加することにした。25mgから開始して50mgにすると、何とか穏やかに過ごせるようになった。
この本によると、「アリピプラゾール(エビリファイ)は、実際にはどういう変化が出るか予測しがたいところがあり、使ってみないとわからない薬剤である」ということだ。
糖尿病がなければだが、クエチアピンの方が使いやすいようだ。今回は25mgから開始したが、12.5mgから使用して25mg、50㎎と漸増すると何とかいける。