Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『吉例顔見世大歌舞伎 夜の部』3等B席下手寄り

2010年11月13日 | 歌舞伎
新橋演舞場『吉例顔見世大歌舞伎 夜の部』3等B席下手寄り

『ひらかな盛衰記「逆櫓」』
予想に反して「えっ?こんなに面白い芝居だっけ?」と引き込まれました。理不尽でまったく納得いかない芝居だわ~って思ってました。だけど、今回は「物語」として面白かった。それと登場人物たちの情のあり方がすごく納得できた。同じ演目で、こうも受ける印象が違うとは…って驚いた。前回観た秀山祭の時には「もののふ」の理不尽さのほうが前面に出てたと思うけど、今回は人の情の在り方がまず家族の物語として描いて、そのなかで主君への忠義とそこに起こる因果が絡むという方向だったと思う。なので筋とそこにあるキャラクターの感情にすごく納得がいく。すべての役者が適材適所。ここまでハマると芝居が本当に生きてくる。ほんと幸せな体験でした。

これは家族の情の物語として強くだす幸四郎さんの演出のためかとも思うし、また役者個々が登場人物たちの行動原理をしっかり納得させる、気持ちが沿った芝居をしていたからだと思う。誰にとっても悲劇。それを飲み込んで生きていく人々として描かれてた。

船頭松右衛門実は樋口次郎兼光@幸四郎さん、大きさがあり世話と時代の切り替えが鮮やか。また何より家族への情味が濃く、そのなかで忠義の理不尽さを身に引き受けやるせない悲劇性を濃く出した。血の繋がらない舅、子供への想いが濃いので理不尽な人物像に説得力が出たと思う。抑えるとこはしっかり抑えメリハリがあり、人物の輪郭がクッキリ際立って見応えありました。立ち回りのところは少々お年を感じさせたかな…。そこはその代わり周囲の名題下の役者さんたちが頑張っていました。

権四郎@段四郎さん、素晴らしかったです。権四郎という人物はこういう人物であっただろうという説得力。芯が強く、それでいて情味が強い。孫が戻ることを願い取り替えてしまった子を孫同様に可愛がり、人のためならず」を信じ生きてきた権四郎が孫が戻れなくなったと知った時の嘆き、怒りがなんとも切実。また婿に迎えた樋口の因果を受け入れ、孫をきっぱり諦めそのうえで駒若丸を助けようとする気概、その心持ちのすべてを明快に伝える。絶品だと思う。

お筆@魁春さん、出から女武道の凛とした雰囲気を纏う。権四郎、およし親子とは立場が違うのだということがその佇まいに表れ、彼らへの申し訳なさがありつつも忠義の立場を崩さない。忠義の象徴としての女性。そのなかでいやみにならない品格がある。また、様子を物語るさまが真にいり見事。

女房およし@高麗蔵さん、幸四郎さんと夫婦のバランスが良かった。優しい気遣いのあるしっかり者の女房。気丈そうな雰囲気だからこそ子を亡くした悲しみになおのこと哀れさがあったように思う。役にとてもあってて良かった。

畠山重忠@富十郎さん、体の不自由さを上回る存在感。捌き役にピッタリの明快で凛とした声と朗々とした台詞回し。惚れ惚れします。情味の出し方もほどよく、これぞ、という感じでした。素晴らしいです。

駒若丸@金太郎ちゃん、だいぶ大きくなりましたねえ。染五郎さんにほんとに似てきた。まだ緊張してる感じかな、ちょっと硬い感じ。でもお行儀よく、声もしっかり出ていました。

『梅の栄』
芝翫さんより若手を楽しむ舞踊だったかも。若手の種太郎、尾上右近、種之助、米吉のなかでは右近くんが身体の捌き方が上手いです。成長途中で身体のバランスが崩れていた時期があるけど安定してきたみたいで本来の上手さが出てきたかも。華があるのは種太郎くんですねえ。彼は場数も多いし身体にキレがあるかな。

芝翫さんと宜生くんはじじと孫そのものの関係がみえてほのぼの。宜生くん、しっかり踊ってました。可愛い。

『都鳥廓白浪』
お話自体がもうひとつかなあ。古典の色んなものをパロディにしてただ繋いだ感じで、お話としては良い出来ではないと思う。まあパロディとして突っ込みを入れつつのんびり楽しむだけでいいのかも…。そういう意味では場面場面は楽しい。おまんまの立ち回りはもっと派手なのかと思ってたので思ったほどはワクワクしなかったかな(^^;)。全体的にテンポがゆるりなのでもう少し刈り込んだほうが面白いかも。とはいえ、役者さんたちの魅力は充分出ていたと思いますし飽きずに楽しく拝見。

忍ぶの惣太/木の葉の峰蔵@菊五郎さん、まず惣太では存在が華やかです。図らずも悲劇の上塗りしてていく様をどこか飄々と演じパロディ味のほうを強く出す。重くしないのが菊五郎さんらしさ。峰蔵は菊之助さんを盛り立てるように軽妙に。

傾城花子実は天狗小僧霧太郎実は吉田松若丸@菊之助さん、端正な色気が漂います。菊之助さんは男・女を自由にいったりきたりが堂に入ってきましたね。いつも想いますが彼は声質がとても良いですよね。そのうえに台詞の間が非常に上手くなっています。菊之助さんやはりお父様路線を踏襲していくのだなあとつくづく思ったり。ただまだ大人しい部分も。寧に品よくやりすぎる気がちょっとします。もっと「自分」を前に押し出してもいいと思う。

お梶@時蔵さん、菊五郎さんの夫婦ぶりがとても良かった。時蔵さんのこういう女房役の時の抜けのある台詞廻しが妙に好きだったりします。

丑市@歌六さん、クセのあるお役を輪郭強く演じて芝居のなかのスパイスとして効いていたと思います。

葛飾十右衛門@團蔵さん、キャラクターの二重性をうまく演じていたと思います。特に後半が良かった。

梅若丸@梅枝くん、若衆姿が似合い役の悲劇性をしっかり見せてきます。やっぱり梅枝くんは若手のなかでもかなり上手いですねえ。