Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座さよなら公演『御名残四月大歌舞伎 第三部』 3等B席上手

2010年04月02日 | 歌舞伎
歌舞伎座さよなら公演『御名残四月大歌舞伎 第三部』3等B席上手

現歌舞伎座の最後の初日、ということで歌舞伎座へ。

『実録先代萩』
滅多に上演されない演目だと思います。私、内容すら知りませんでした。滅多に上演されないということは…きっとそれほど面白味はない芝居なんだろうなと、あまり期待せず。『伽羅先代萩』と比べしまったら物語の完成度は低いけど普通に面白い芝居だと思う。期待値が低かったせいか、わりと楽しめました。実録とあるのでついつい、どんだけリアル?とか思っていたら全然違いました(笑)。『伽羅先代萩』と『恋女房染分手綱(「重の井の子別れ」)』を綯交ぜした書き換えものって感じです。動きは派手じゃなく台詞で芝居が進みます。「子別れ」という題材で描かれている芝居ですが「実録先代萩」はただの泣かせではなく、大人の都合に振り回される子供の純粋さに大人が感銘するという少し皮肉が入った芝居のようにも見え、個人的には黙阿弥らしさがさりげなくあるな、なんて思ったりも。

この演目、芝翫さんにとっては動きが少なく、しかも何度か手掛けているお役という事もありちょうどいい演目だったのかも。子役が重要なのでお孫さんとも共演できるし。 で、なんというか、個人的に子役を立てようとする意識がみえる芝翫さんと幸四郎さんの「ばばぶり(ほんとはじじなんだけどネ)、じじぶり」がなんだか微笑ましく(笑)ほのぼのと拝見。

浅岡@芝翫さん、まんま政岡な拵えです。このまま『伽羅先代萩』の「御殿の場」にしちゃってもいいですよ、とか思ってしまいましたが(^^;)。芝翫さんは後半、亀千代と千代松と絡むあたりから俄然、活き活きしてきました。「母」を演じる芝翫さんはやっぱり良いですよねえ。母性が強い。それと膝がお悪いせいで動きスムースではないのだけど一瞬一瞬の決まりがさすがに綺麗。着物の捌き方とか、さりげないんだけど身についてるものを感じさせました。また色々と子役をうまくリードしてて、それがまた母性の強い浅岡という雰囲気で良かったです。

片倉@幸四郎さん、完全に受けに徹してました。家老として控えめにしかしどっしりとした佇まい。そのなかに子役を立てようという「じじ」の顔が見え隠れ。歌舞伎の世界は大家族みたいなもんなんだよなあって改めて感じたり。なんだか珍しい幸四郎さんを見たって感じでした(笑)

子役は亀千代@千之助くんのほうが達者。さすが孝太郎さんの息子。顔も似てるし。千代松@宜生くんはとっても一生懸命、頑張っていました。

それにしても最近よく感じるのだけど、歌舞伎の子役の独特の台詞回しが可笑しく感じるのか、そこで笑う?という場面で笑う観客が多くて気になる。今回も健気な千代松が泣いてるとこで爆笑。ひどい、ひどすぎる。きちんと芝居を見てれば笑うシーンじゃないってわかるでしょうに…。

『助六由縁江戸桜』
配役が豪華すぎだからか?なんとなく俳優祭のようでした。芝居を観せるというより役者を観てくださいね、という感じというか。歌舞伎座さよなら公演といういわばお祭りのような御名残公演、お祭りに乗ったもん勝ちかと思います。

助六@團十郎さん、いつも通りの無邪気な雰囲気の團十郎さん助六。まったり感と大らかさのある助六。

揚巻@玉三郎さん、綺麗ですねえ、驚異的な若さ。花道の出の台詞、ちょっと張りすぎかも。全体的にいつもの緩急のある台詞廻しが出てこない感じというか、コントロールがきいてない感じ。玉三郎さんのことですから今後、調整してくるでしょう。それにしても立ち姿の美しさには惚れ惚れ、特に幕切れが素晴らしい。

白酒売新兵衛@菊五郎さん、お得意なお役ですね。年齢を得たからこその可愛らしさがあります。わりと受けに徹していたかしら。

くわんぺら門兵衛@仁左衛門さん、う~んとなぜこの役なんでしょう?だってカッコよすぎるんですもの。これじゃ女にもてるでしょう。男伊達の色気があるくわんぺら門兵衛って…。

朝顔仙平@歌六さん、なんでもこなす歌六さんですが、ちょっとまじめすぎたかも。

通人@勘三郎さん、さすがに華がありますし、くすぐりもお上手です。しかし、台詞を自分で言って自分で笑ってしまうのは全然、粋じゃないです。通人は粋じゃないとね。

白玉@福助さん、私は福助さんの傾城は無条件で好き。揚巻@玉三郎さんとの妹分という雰囲気がしっかりあって情の濃さが好きだなあ、なんて思いました。いつもよりは全体的に控えめな感じで、もう少し前にでてもいいかなとは思いました。

曽我満江@東蔵さん、キリッとした母上で素敵でした。東蔵さんは女形のほうが好きです。最近、以前より品格が出てきた感あり。

福山かつぎ寿吉@三津五郎さん、この人はやることに本当に卒がない。江戸っ子という空気を感じさせ、さすが。

御曹司の傾城は皆、とりあえず皆さん、きちんと(笑)。松也くんはさすがに年長さんだけあって台詞がよかったです。梅枝くんがやっぱりあの年齢にしては一枚上手というか着実に成長しているなと感じました。