読書日和

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「時が滲む朝」楊逸

2008-09-16 22:45:43 | 小説
今回ご紹介するのは「時が滲む朝」(著:楊逸 ヤン・イー)です。

-----内容-----
「あなたたち自分の商売ばかりで、少しぐらい愛国心がないのか?」
志強(ツェー・チャン)は胸に詰まった熱いものに押されたように、立ち上がった。
「国家興亡、匹夫有責。
国を民主国家にしていくのは我々中国人一人一人の責任です」

天安門事件前夜から北京五輪前夜まで
中国民主化勢力の青春と挫折。
第139回芥川賞受賞作。

-----感想-----
「時が滲む朝」は、中国人作家が史上初めて芥川賞を受賞した作品ということで、興味を持っていました。
内容が難しそうな気がしましたが、150ページと手ごろな感じだったので、思い切って読んでみました。

1989年に起こった天安門事件が、この作品の一つの山場になっていました。
中国の民主化を求め、主人公たちもデモに参加しました。
このとき大学一年生だった主人公たちは、連日天安門広場でデモ活動を続けました。

天安門事件は6月4日に起こりました。
中学校の授業で習いましたが、日にちまでは覚えていませんでした。
そのため、小説の中で行われるデモが天安門事件につながっていくのを、最初は意識していませんでした。
また、この辺りの展開には熱いものがあったので、先の展開を読むより、小説の流れを楽しんでいました。

しかし、”6月3日の朝、市政府の様子が俄かに慌しくなった”という一文で、何か事件が起きる予感がしました。
そしてデモ活動で主人公たちを率いる先生が言った「装甲部隊が天安門広場に突入した」という無念そうな一言。
民主化を求めるデモは、武力によって鎮圧されてしまいました。

この天安門事件以降、主人公たちの人生は大きく変わっていくことになります。
作品の中では10年以上の歳月が流れていきます。
中心的人物の一人である浩遠(ハウ・ユェン)は結婚し日本への移住などを経験します。
そんな彼の胸の内には常に祖国・中国への思いがあります。

中国もついに、オリンピックが開催されるまでになりました。
北京オリンピックは先月無事に開催され、中国への関心が高まっていただけに、この作品は興味深く読めました。
開会式の直前、多くの人で賑わっていた天安門広場には、こうした過去があるのだなと思いました。

物語の終わり方はさわやかなものでした。
そして少し、切なさもありました。
やはり芥川賞に輝くだけあって、良い物語だと思いました。

※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。
コメント (6)
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