読書日和

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「下北サンデーズ」石田衣良

2008-09-03 22:29:39 | 小説
今回ご紹介するのは「下北サンデーズ」(著:石田衣良)です。

-----内容-----
弱小劇団「下北サンデーズ」の門を叩いた里中ゆいか。
壮絶に貧乏で情熱的かつ変態的な世界に圧倒されつつも、次第に女優としての才能を開花させていく。
やがて下北サンデーズにも追い風が吹き始め、序々にその知名度を上げていくが、思わぬトラブルも続発することに。
演劇の聖地・下北沢を舞台に夢を懸けて奮闘する男女を描く青春グラフィティ。

-----感想-----

これはすごく良い青春小説だと思いました。
主人公の里中ゆいかは、大学入学で上京してきたばかりで、演劇は未経験です。
その演劇未経験の彼女が、弱小劇団「下北サンデーズ」に風を吹き込むことになります。
今まで十年以上弱小のままだった下北サンデーズが、出世の階段を上り始めます。
この小説の舞台である下北沢には、四つの劇場があります。

松多劇場     客席数600
ザ・マンパイ   客席数300
駅横劇場     客席数150
ミニミニシアター 客席数80

どの小劇団も最初はミニミニシアターからスタートして、上を目指していきます。
よく見ると、ランクが上の劇場に行くにつれて、客席数が倍増しているのがわかると思います。
小劇団の出世すごろくとも言われているようです。
松多劇場が下北にある劇場の頂点で、この松多を一週間満席にするのが、下北で芝居をやっている小劇団共通の夢のようです。
しかしこの夢を叶えるのはとてつもなく難しくて、たいていの劇団は下から二番目の駅横劇場どまりになってしまいます。

弱小劇団に新人が入って、チームに新しい風が吹いて出世の階段を上っていくというストーリーは、ありがちな設定でもあります。
しかしこの小説の場合、ありがちな設定が物語をさわやかにしていて、すごく読みやすかったです
この小説では、複雑な人間関係や駆け引きなどはあまりなくて、最初から最後まで「青春」を貫いています。

しいて挙げれば、出世の階段を上り始めたことで劇団員が「増長」してしまうのが、人間ドラマな部分でした。
あまり詳しくは書けませんが、やはり人間、急に日の目を見ると人が変わってしまうようです。
10年以上ミニミニシアター止まりだったのですから、なおさらだったのでしょうね。
にわかに漂いはじめる、不協和音。。。
果たしてそんな状態で、松多劇場まで駆け上ることは出来るのでしょうか。
そしてこの小説はここからがさらに面白かったです。
「下北サンデーズ」VS「おこさま企画」など、他劇団との激突にはワクワクしました。
相手の演技に惑わされるな、自分たちの最高の演技をしろ!という熱い気持ちが伝わってきました。
そしてある方たちの恋の行方も絡んできたりしながら、物語はクライマックスへと向かっていきます

最後の終わり方も青春だったなと思います。
里中ゆいかが意外な行動に出て、あっと驚きました。
自分の気持ちに正直に、下北サンデーズのために突っ走る様は、希望に満ちていました。
良い小説を読んだなと思います。

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