冷蔵庫から分厚い肉を取り出したぞ。
テレビのグルメ番組で見る、鉄板の上に置いた瞬間にジューッと音を立てる上質のステーキのようでもある。
それ、もしかしたら今僕が頼んだ「ポークソテー(しょうが風味)」じゃないですよねぇと、聞きたくなった。だって、デカ過ぎやしませんか?厚過ぎるでしょ?
わっ、ドンドンと叩いている。おっ、フライパンにのせたぞ。ん~、やっぱり豚肉みたいだ。それにしてもデカい、厚い。
飯田橋の『キッチンワタル』にやってきた。もう何でも載っかっちゃってるスペシャルランチで有名な洋食屋さんだ。
そのカウンター席に腰掛け、腕をふるうお父さんの背中を見ている。いろいろなメニューが次から次へと調理され、お皿に盛られていくる。ホール係をこなしながら、そのお皿を用意したり、味噌汁を注いだり、合間をみては刻みものをするお母さんとのコンビネーションも小気味いい。
これを見ているだけで、わざわざひと駅歩いてきた甲斐があるというものだ(歩いてきたか!)。
いろんな料理がどんどん完成していく中、僕の「ポークソテー(しょうが風味)」は、いまだ慌てず騒がずじっとフライパンの上。途中からフタがされて状況がみえなくなったが、間違いなくそこで熱く熱くなって、フタが開けられワ~ッと一気に湯気が立ち上る瞬間を待っているのだ。
それ、僕の「ポークソテー(しょうが風味)」ですよねぇ。
おぉ~と、フライパンごと壁の向こうに運ばれてしまい、肝心の湯気が見えない、あぁ味付けする様子も見えない!
「お待たせしました」「すっかりお待たせしちゃって」
最後の工程を目撃できなかった僕のポークソテーしょうが風味がやってきた。
あれっ、小さく切ってあるぞ。さっきまでのデカくて厚い姿は、そこにはなかった。そうか、お箸で食べやすいように切ってくるんだね。
残念ではあるけれど、確かにあのフライパンに載っていた肉のボリュームはある。お皿の上が肉だらけだ(笑)。
しょうが風味の甘いタレは野菜がいっばいで、これだけでもご飯が進む。豚肉は脂身がやや少なめなのが残念(ぜいたくな!)。でも、そのぶん歯で噛みきれるくらいやわらかいのだ。
これだけでも十分なのに、ナヌ~ッ?タルタルソースがかけられた揚げ物が3つも一緒に載っているぞ。小さなトンカツ!次は白身魚!まん丸なのはコロッケ!
えっ、その下にはナポリタンまで隠れているではないか!
なんというサービス!
テレビで見た全部載せ的「スペシャルランチ」の片鱗を垣間見た思いだ。こいつは、腹を空かせた学生やサラリーマンが食いつくだろう。僕だって、学生時代にここを知っていれば間違いなく通ったはず。
ただ、お母さんに聞いてみたら「今年で15年になりました」とのこと。僕がこのあたりでお世話になっていた頃には、まだなかったんですね。
いや、お店の雰囲気、ご夫婦のお顔からすると、昭和からやっている老舗にしか見えないんだけどなぁ。こりゃ失礼。でも、いいお店でした。
たっぷりのご飯と味噌汁が付いて880円!この価格も昭和だ。