小田原で生まれた川崎長太郎は、文学を志し若くして上京。父親が倒れたのを機に30代半ばで故郷に戻り83歳で没するまで市内で暮らした。
その東京での若い頃を綴っている『徳田秋声の周囲』という“物語”がある。
私小説家である徳田「先生」をメインに描きながら、自分自身の話が展開されていく私小説が面白い。
そして、その舞台としてたびたび登場する「先生」の家は、本郷にある。
東大の正門の近く、このお店の前を左に進み、細い路地を入った所。今もご家族が暮らしているらしい。静かだが確かに生活感が漂う。
それだけに、若き日の長太郎がこの格子戸を何度も往き来しただろうことがリアルに迫ってくるようだ。
大正から昭和初期のことなので、このお店やあのお店はできた頃かもしれないが、ここは間違いなく存在していた。
本郷を、小田原を歩き回る。それは、点と点が線で結ばれた、そして時代を超えた不思議で楽しい散歩である。