ブログ 「ごまめの歯軋り」

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平成経済 衰退の本質

2021年04月23日 | 書評
京都市東山区祇園 「甲部歌舞練場」

金子勝 著 「平成経済 衰退の本質」 

岩波新書(2019年4月)

第2章 グローバリズムから極右ポピュリズムへ  (その4)

③ 対テロ世界戦争とリーマンショック  (その2)

トランプは17年TPPから離脱した。18年3月補欠選挙で共和党議席を失うと、直ちに鉄鋼関税25%、アルミ関税10%を課す保護関税を打ち出した。特許侵害を理由に中国に制裁関税を課した。18年7月800品目に25%の関税を課した。中国もWTOに提訴し、報復関税を659品目に25%の関税を課した。これ以降、GDP世界1の米国と第2位の中国の制裁関税合戦となった。中国貿易圏と米国貿易圏には深刻な影響が出始めている。トランプの安全保障政策については首尾一貫しない。2018年6月米朝首脳会談にて「緊張緩和策」を提案する一方、エルサレムをイスラエルの首都と認定して大使館を移転させることは中東の緊張を煽るものである。同年5月イラン制裁の大統領署名を行い、イラン核合意を反故にした。それぞれ一定層の賛成を得られる政策であるが、強いアメリカを印象付けるためのスタンドプレーに過ぎない。北朝鮮との冷戦状態を解決することができ、北の核放棄につながるなら意義は大きいが、19年2月の第2回会談は不調で振出しに戻ったようである。議会の承認が得られるかどうか、全く予断を許さない。問題の背景にはリーマンショック以降、日本を除いたアジアだけが経済成長を続け、中でも中国は毎年7%程度のGDPの成長がある。そして中国がアジアとの結びつきを強めているという現実がある。今や世界の成長センターといっても過言ではない。インド、パキスタン、バングラデシュの経済成長率も5-6%と高い。トランプ政権は「貿易戦争」を仕掛けて、この地域への中国の影響力をそぐ方針である。中国は2014年「一帯一路」構想を打ち上げ、15年末にはアジアインフラ投資銀行AIIBを設立した。こうした中で日本の立ち位置が曖昧になり、動きが取れなくなった。17年の日本の貿易相手地域国ではアジアが約55%を占め、北米は20%である。トランプ路線に追従するとアメリカへの輸出が減少し、中国を含むアジア地域からも取り残される始末である。2108年11月の中間選挙では、上院は共和党、下院は民主党が過半数を取ったいわゆる「ねじれ」状態になった。するとトランプは大統領権限が強い通商・外交政策に傾くだろうといわれる。といっても展望をもってかじ取りをしていると思えない。18年アメリカは冷戦の終結であるINF核全廃条約の破棄を表明した。熱い軍拡競争と均衡で世界に脅威を与えるつもりである。第2次世界大戦後アメリカが覇権を確立できたのは一つにドルという基軸通貨を確立し、自由貿易の下自国の市場を開放して世界経済をけん引してきたためである。第2に戦後の自由と民主主義という普遍的価値を標榜してきたからである。鉄鋼アルミ関税、中国への制裁関税は自由貿易体制を損ねるだけでなく、同盟国との対立を生んでいる。80年代にはアメリカはG7の「プラザ合意」で自由貿易体制を守る合意をした。しかしもはや今のアメリカには他の先進国を引っ張って合意を結ぶ力はない。「アメリカ第1主義」は孤立を招くだけである。軍事力は破壊力であり、新たな国際理念を創造するものではない。アメリカはその身勝手さから道義性を失い、シリア内戦や中東を収拾する盟主的力量もない。シリアは今やロシアの勢力下に入った。

(つづく)