ブログ 「ごまめの歯軋り」

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平成経済 衰退の本質

2021年04月17日 | 書評
京都市下京区 「東本願寺 宗務所門」

金子勝 著 「平成経済 衰退の本質」 

岩波新書(2019年4月)

第1章 資本主義は変質した  (その4)

② 1997年で経済社会が変った  (その2)
日本企業はひたすら財政金融で支えられた危うい体質である。企業減税と労働賃金の配分を減らして利益を上げ、大手企業は損出を翌年以降に損失を持ち越して利益から控除できる「繰り延べ損金」を利用し税負担を免れてきた。こうして企業は巨額の内部留保を摘み上げ、2012年度に304兆円だった内部留保は、2017年度には446兆円にまで積み上がった。北海道拓殖銀行や山一証券が経営破綻した1997年11月を頂点として雇用と賃金が低迷した。1999年「改正労働者派遣法」が施行され派遣が基本的に業種にかかわらず自由化され、労働市場の一時的な需給調整手段に使われるようになった。小泉内閣の2004年の改正により製造業務も派遣対象業務となった。こうした規制緩和政策もあって正規雇用は減少し非正規雇用が増加した。2016年には非正規雇用が全体の40%に達した。「終身雇用制度」は崩れ「雇用の流動化」が促され、現金給与総額も減少した。また実質賃金も継続的に下落した。所得の中央値の半分以下の所得者を「相対的貧困者」とすると、1997年の相対的貧困率は14.6%から2012年度には16%となった。昭和時代の高度経済成長の雇用制度が作り出した「中間層」が壊れ、平成時代は中間層の没落と格差の拡大する社会となった。有効求人倍率は2018年に1.64になり44年ぶりの高さになった。これは景気が良くなったわけではなく、分母の有効求職者数が大きく減少し続けているためである。有効求人倍率は景気の指標となってきたが人口動態が有効求人倍率を左右するようになったということである。したがってGDPが伸びなくても、2009年をピークとして求職者の数が著しく減少し始めた。これは団塊の世代が定年を迎え、労働人口構成が少子高齢化社会の影響を受け始めたことを意味している。2017年時点での65歳以上の高齢者人口は3500万人(総人口の28%)、生活保護受給者数は212万人に増えた。そのほぼ半分が高齢者である。非正規労働者は2050万人に拡大した。母子世帯数は71万人、子供の相対的貧困率は14%、身体障碍者は92万人、精神障碍者数392万人、総障碍者数は936万人いるといわれる。これが平成の1億人社会の状況である。

(つづく)