ブログ 「ごまめの歯軋り」

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平成経済 衰退の本質

2021年04月20日 | 書評
滋賀県近江八幡市 「八幡宮 楼門」

金子勝 著 「平成経済 衰退の本質」 

岩波新書(2019年4月)

第2章 グローバリズムから極右ポピュリズムへ  (その2)

① グローバリズムと「第三の道」-1990年代の錯綜 (その2)
1990年の社会主義体制の崩壊は「新自由主義」イデオロギーが世界中に広がった。その金融自由化を推進したのは米国ではクリントンの民主党、イギリスのブレア首相の労働党、シュレーダーのドイツ社民党であった。彼らは「第三の道」という中道政権であった。社会民主主義ないしはリベラル政党はグルーバリゼーションを受容して市場的な効率性を信奉し、社会的包摂あるいは社会統合という概念を軸に格差是正政策を取った。「第三の道」とはサッチャーやレーガン流の「新自由主義」の行過ぎを是正するものである。ビル・クリントンの政策バッテリー(クリントノミクス)は、第1に国が主導して技術開発の促進と産業革新をもたらそうとした。IT産業を取り入れ、ルービンを財務長官として金融自由化へと舵を切った。第2に財政赤字を国防費の削減と所得税率の引き上げを目指した。しかしこれらの政策は成功したわけではなく、グローバリズムの結果、国内産業の空洞化と白人貧困層を生み貧富の格差は拡大した。ブレア―政権は国有化の看板を取り下げ、労働党新左派と呼ばれた。貧困層や移民層の「社会統合」を目指し彼らの就労支援を強化した。ブレア―政権の時は住宅価格が上昇して経済成長を続けたが、ブッシュ米国大統領の根拠不明の同時テロ事件からイラク戦争へ突入すると、同盟者として戦争に引きずり込まれたことは決定的な誤りとなった。1990年代の北欧の普遍主義的福祉国家にもグローバリズムの影響が出始めた。90年代初めのバブル崩壊で金融危機に陥ったスウェーデンやフィンランドなどでは、第1に銀行の国有化が行われ、公的資金が投入され不良債権を一気に処理した。大胆かつ果断な不良債権処理が行われて経済はV字型回復を遂げた。そのため巨額の財政赤字が生じ、EU加盟条件のGDPの3%以下に財政赤字を抑えなければならなかった。その痛みは国民全体の負担となったとはいえ、多くの国で不良債権処理に失敗したのとは対照的であった。また第2に、先端産業化を目指す産業戦略をたて研究開発投資と教育投資を増加させた。IT産業、風力発電、電気自動車の産業が生まれた。ここで重要なのは雇用促進といってもケインズ流のマクロ経済学政策ではなく、国が産業戦略を立て新産業への投資や技術開発支援という政策を取っていることである。戦後の日本でも国が傾斜生産方式で重化学工業を育成した。投資額が極めて大きく、インフラ整備がなければ進まない重化学工業を市場任せにしておいては後進国はいつまでたっても追いつけないのである。そして北欧では第3に医療、介護、保育、教育、就労など現物給付を行う福祉の分権化を進めたことである。現金給付を抑制し地域的にきめ細やかな現物サービスを充実させた。そのため財源と権限が地方に移譲された。日本では残念ながら1周遅れである。福祉の分権改革は未完である。しかし北欧は米国の起こしたイラク戦争からシリア内戦で、大量の移民が流入し、移民に対する反発のためスウェーデンやデンマークでは極右勢力が台頭し政治的統合を困難にしている。

(つづく)